第36音 「小さな痛み」
「ここだな…多目的公開ホール」
「ねぇ、斗真クン、ここ見て」
「『吹奏楽部の練習は公開しております。
ご自由にどうぞ』だって!!」
「よし、ラッキーだったな」
しめしめ。
「一応、後ろの方に座っておこう…」
「だね!!」
30人くらいか?
ちょうど音合わせ中みたいだ。
みんな真剣な顔してるな…
当たり前だな…俺たちがおかしいんだ…笑
……
おっ、指揮者が入ってきたな…
「茜、静かにしてろよ!!」
「りょ!!」
…
…始まる。
タ・タ・タタ・タ・タ・タタ
フィーー
ボレロだ。
……
…うまい。
際立った音はないけど、
何より、まとまっている。
そつがないんだ!!
すごい練習量なのが、これだけで伝わる。
なんて言うか、ずっと聴いていられる。
安定感が違う…
曲の理解も俺達よりずっと深い。
一音一音を大事にしてる。
レベルが高い!!
……
そう
…凄く、丁寧だ
…良く言えば
…悪く言えば…真面目すぎる
面白くない。
……
あれ?
…俺達は?…
いや、間違いない。
俺達の方が『音』を楽しんでいる。
技術では勝てないかも知れない。
だけど気持ちは負けない!!
技術は練習だ!!
……
「…茜、出ようか?」
「うん…」
目立たないように、ホールから出た俺達は
直接音楽堂には戻らず
念のため、コンビニに向かった。
「なぁ、どう思った?」
「うん、上手かったね!」
「ああ、上手かったな。
でも、それだけって感じた…」
「ウチも…かな…」
……
「ひょっとしたらなんだけど…俺達…かなり
いい感じなんじゃないか?」
「学祭だから、勝ち負けなんかじゃねえけど」
「このまま練習続けてればコンクールで優勝だって夢じゃねぇよな!!」
「…」
「ウチは、優勝とかは…」
「オゥ、トーマ!!ソレダレカ?
アタラシイオンナか?アカネステタか?」
茜、何か言ったか?
タナの声で上手く聞こえなかった。
「ちっげえーよ、茜だよ、これ!!」
「ア、アカネ!!ドウシタ、ビョウキか!!
ゲンキナイヨ…プリンか!?タナオゴルネ」
…
…
「うっそ、マジで!!奢り?マジ神じゃん♬」
「そんなに心配しちゃって〜」
「ウチの事、マジで好きすぎ!!笑」
……
「アカネ、シニタイのネ。
タナの国のフンパヨン・ヤードーンを
クライタイミタイネ…」
「ぶっ!何それ、フンパ?ヤドン?ポケ○ン?」
「タナのオバァちゃん、シャーマンね」
「…」
「マツネ、今スグムエタイを食らワセテあげるネ」
「えぇ、やーだよー!!笑」
逃げ回る茜を追いかけるタナ。
…こいつらホント仲良いな。笑
◇
「はぁ、笑った!!」
「タナ、マジでキレてたな!笑」
「うん…」
ん?
「どうした?」
「うん、なんか…
なんか、調子良くないかも…」
「ごめん、ウチこのまま帰る!!
みんなには謝っておいて」
「お、おい!」
「分かった、荷物は?学校すぐだぞ!!」
「…大丈夫!ごめん!!」
行っちまった…
確かになんからしくなかったけど
…大丈夫かな?
「まぁ、明日には元気になってるだろう」
「ダメなら、病院だ!!」
「とりあえず、他のみんなに報告だな」
……
音楽堂に戻り今日の諜報活動について報告をした。
俺達が確実に上手くなっている事
練習の方向性が間違っていない事
優勝だって目指せる事
それらを再確認出来た事を。
「だよな!やっぱり、教授はすげぇな兄弟!笑」
「わ、私、も、もっと頑張ります!!」
「まぁ、当然よね?
なんなら、またヴィオラでいく?」
「由希子!アンタまた調子に乗って!!」
みんな目標を再確認出来たみたいだな。
いい傾向だ。
……
「〜〜♬〜」
「ん?どうした、ルー?」
「別に〜、Augustus Pabloのダブな気分なだけさ!!」
「そ、そうか?」
「俺はちょっと用事があるから、先に帰るぜMano!!」
「あ、ああ、気をつけてな!!」
「Tchau!!また明日な♬」
……
◇
翌日
…茜は来なかった。
厳密には、来た。
だが、やはりまだ調子が戻らないようだった。
ルーだけが
「Mano、心配しすぎだぜみんな!!」
「大丈夫さっ、茜なら」
とは言うけど…
…そうだな、茜なら大丈夫だろ。
…
……
翌日も
茜は来なかった。
教授に話をしたら、朝来てしばらく休むと言っていたらしい。
何か、深刻な病気なのか…
確かに、様子はおかしかった。
心配だな…
「…」
ん?
「これ、茜のお気に入りのタオル…」
「まぁ、遠くないし、持って行ってやるか」
「悪ぃ、俺ちょっと抜けるわ!!」
「あと、西田頼んだ!!」
「うむ、よろしく伝えておいてくれ!!」
ーーーー
あぁ、今日も行けなかったぁ
なんか、顔合わせづらい。
コンクールかぁ…
ウチはみんなでコンクールに出たい!
コレはホント。
みんなでの演奏は楽しい!
コレもホント。
……
優勝って、そんなに大事な事?
朝せんせーに
「ごめん、ウチちょっと無理かも」
って言ったら
「ごめんな、辛い思いさせて」
って
逆に謝られちゃったよ…
せんせーは、なんか分かってるんだな。
しかし…
う〜ん、ウチこんなに弱かったか??
…タナまで気付いてたし。笑
散歩しよ…
……
「なんかあると川まで来ちゃうな〜笑」
「青春みたいに石投げてみたりして〜!!笑」
ボチャン
「…」
ピッピッピッ
「ふむふむ」
「…横投げで、水面と平行に…」
「なるほど」
ビュ
「…」
「何が楽しいん、コレ?笑」
ビュッ
「…」
「わ、5回跳ねた♬」
ビュッ
……
「はぁ、はぁ、はぁ」
「な、なんか、意外と夢中になっちゃった…笑」
「…」
「10回の壁が越えられん…」
キキー
「おっ、いたいた!お〜い、茜ぇ!!」
げっ、トーマっち!!
…まずい
「何、わたわたしてんだよ!」
「ホレ、タオル。コレお気に入りだろ?」
「お、おぅ」
「わざわざ、ありがとうございます」
「…」
「き、気持ち悪ぃな…なんだよ急に。笑」
「…なんとなく?笑」
「まっ、元気そうだし良かったよ」
「ただ、無理すんなよ!」
「茜いないと、俺達じゃねえんだからよ!!」
……
チクッ
まただ、
「茜?」
「お、おぅ」
「みんなやる気だぜ、茜戻って来たらびっくりさせてやるって!!」
「あっ、でもルーもちょっと調子良くないみたいだな、流石に心配だわ」
「なんか、テンション高いヤツだけかかる病気でも流行ってんのか?笑」
「…」
「悪ぃ、不謹慎だったな」
そっか、ルールーも多分…
「大丈〜夫!!笑
2、3日はお休みもらうけど」
「大丈夫だから…」
「…」
「んっ、わかった」
「無理だけはすんなよ!!」
「俺は戻るから、なんかあったら連絡しろよ!!」
「オカン?笑」
「アホ!」
……
トーマっちは全力で学校へ帰って行った。
立ち漕ぎって
…ちょー元気!!笑
さてと…
「ウチはどうしたいのかねえ〜」
ピュッ
「わっ、10回!!」
「…」
「ウチ、才能あんじゃね?笑」
……
ピロン
メール?誰だろ?
『YA-MAN!!
茜明日、時間くれないか?
ちょっと話したい事があるんだ』
…ルールー
やっぱり?
…だよなぁ〜
……
ーーーー
次回 第37音
「Mano」




