第33音「新たに」
俺達は東京に帰って来た。
なんか、1年以上離れていた気がする。
帰って来て初めての練習…
…
やっぱり!
間違いない、上手くなってる!!
…
「ストップ、ストップ!!」
俺は演奏を止めた。
「どうした、兄弟?」
「何よ岬、良い感じだったじゃない!!」
皆んな怪訝な顔だ。
「す、すまん」
「皆んなすげぇ上手くなってて
今の内容だとスコアの理解が足りなくて」
「ごめん、今日は個人練習にしてもらえるか?」
「もう少し内容を詰めてくるから!」
「む、そうか、それなら仕方ない。しばらく課題しかやって来なかったからな」
「新譜への理解を深めるのも、お前の仕事だ」
「そうね、それならしっかりとお願いね♡」
「悪ぃ!!」
俺は音楽堂を飛び出た。
……
嬉しい誤算だ、
これは俺の理解にかかってるな♬
どうするか考えながら、俺はベンチに腰掛けた。
「今の一心なら、もう少し深くても…
木下さんがいるから、もっと攻めても良いんじゃないか?」
ぶつぶつ言っていると、隣に猫が座っている事に気が付いた。
……
「あっ、
そうか佳代のメロディラインが強くなってるんだ…」
……
「茜と練習用に一度編曲をしてみても良いかも知れないな…」
……
「おーい、猫さんや。お前は誰だい?」
……
「坂下さんの所の子か?」
……
「なんか言ってくれよ〜」
「にゃ〜」
そっと背中を撫でようとしたら
どこかへ行ってしまった。
……
「残念…」
◇
翌日
今日も俺はオケには参加せず、
客席から皆んなの音を聴いている。
「そうか、ここか…」
音を聴きながら、楽譜を修正していく。
「ふぅ〜、ちょっと休憩だな」
音を聴きすぎて頭が痛くなってきた…
◇
外に出た俺は、
おっ!
コンビニへと向かった。
……
「イラッシャせ〜」
「オゥ、トーマサボリか?」
「ちげぇよ!休憩だよ、休憩」
「タナ、キャットフードってあったっけ?」
……
「よっ、昨日ぶり!!」
「にゃ!」
逃げそうな猫を手で制し、
「まぁ、待てよ。今日はお土産ありだぜ」
パカッ
キャットフードを開け、ベンチに置いた。
警戒するといけないから、俺は芝生に腰をかけた。
……
〜♪〜♬
ここでも音が聴こえるんだな…
「お前も『音楽』が好きなんだな…」
……
心地よい、秋の日差しと漏れ聴こえる
みんなの音に少しウトウトしていると
猫が近付いてきた。
「うにゃぁ」
「…」
「お礼か?律儀なやつだな」
「にゃ〜」
背中を撫でようとしたら走って逃げてしまった。
…
まだダメか…
残念…
……
「はーい、お待たせ」
渚さんだ
猫が…懐いてる…
「あら、斗真くん、サボリ?」
「違いますよ!ちょっとスコアを見直してて」
「そっか、あらお腹いっぱい?お水飲む?」
「その猫、渚さんの子ですか?」
「ん?野良の子よ。
先月くらいからウロウロしてるのよ〜」
「私と高木さんでお世話してるの♬」
水を飲む猫の背中を撫でながら渚さんが言った。
「あっ、すいません。俺エサあげちゃいました」
「あら、良かったねぇ♬」
……
あっ、教授だ…
ピクッ
あっ…
「もう、教授〜、また逃げちゃったじゃないですかぁ!!」
……
「…なんでだ」
……
「…」
き、教授…
あっ、そうだ!!
「す、すいません、教授」
「…お、おぅ、どうした?」
すげぇ残念そうな顔してる…
「実は、コンクールの曲なんですけど」
「予選2曲、本戦2曲ですよね?」
「1曲は被らせても良いとして、全3曲…」
「構成をどうしようかと考えてるんですが」
…
…
「3曲ね…」
「はい?」
「あ、いやいや、構成だな」
「まず、ピアノは一曲入れるんだろ?」
「そこから、考えてみろ。
必然的に2曲目の方向性が見えてくるはずだ」
「茜のテクニックだとラフマニノフかチャイコフスキーで行こうかと思うんですが」
「みんなのレベル的にも十分ついていけると思います!!」
……
「…そうか、まっ、とりあえず決めてみろ」
「あとは、その時だ」
「はい!!」
「ちょっとみんなと打ち合わせして来ます」
「オゥ、無理すんなよ!!」
俺は音楽堂へと戻った。
「まだ、気づかないよな…流石に」
「ですね…」
……
「それと、しばらくエサやろうとしないで下さい」
「…はい」
◇
「よっし、今日は終了!!」
「皆んなおつかれ♬」
「げっ、もうこんな時間か!?」
「お、お腹、空きましたね…」
一心と木下がお腹ペコペコモードの顔をしてる。
「YA-MAN!!それなら『晴れ晴れ』いこーぜ!!」
「穂乃果にお土産も買ってあるから行こうと思ってたんだよ♬」
「あら、良いわね♡」
「ヒロミ、あんた糖質制限してたんじゃないの?」
「ゆ〜き〜こ」
「な、何よ?」
「もんじゃは別腹よ!!」
「みんな行くでいいのか?」
「すまん、僕は父が帰っているので帰らないといけないのだ」
「私も母が来てて、駅前で待ち合わせしてますので、すいません」
「あ、私も、今日はごめんね。明日お母さんが早いから、私が弟のお弁当作らないといけなくて!!」
「ワタシも行けないでーす。明日パパの仕事の手伝いでーす…泣」
「そうだ、佳代、
お茶のお礼伝えておいてくれよ!」
「うちの母ちゃんすげぇ喜んでたよ!」
「ありがとうございます。母も喜びます!!」
「マリア、例の代金だ」
「オゥ、一心、毎度デース♬」
「まどかぁ〜、寂しいよぉ〜」
「ごめん、ごめん、由希子ちゃん!
私も、ちょ〜行きたいけど、また今度ね!!笑」
「む、北見は帰るのか?ならば送って行こう」
「わ、ありがと!!笑」
「まどか、気をつけなさい…西田も男よ!!」
「な、何を言うんだ!!ぼ、僕は」
「冗談よ、まどかを頼んだわよ♡」
「まったく、コイツらは」
西田とまどかとは学校で、
マリアと佳代と駅前で別れ、
俺達はもんじゃ「晴れ晴れ」へと向かった。
……
「いらっしゃ〜い!!」
「お、団体さん。久しぶりやなぁ、」
「てんちょ、7名様ご来店!!」
「YA-MAN、穂乃果お土産だぜ!!」
「おっ、なんや、なんや?」
「なんやめっちゃ綺麗なシーサーやな♬」
「ルーが選んでくれたん?」
「…ルー、センスない」
「わ、私、です」
「ミツミちゃ〜ん、おおきにやでぇ〜♬」
「お礼に生ビール、550円を、団体さん価格600円から10%offや!!」
「マジで!ラッキー!!」
「…」
「ん?ちょっと待て兄弟。10円しか安くなってないぞ?」
「何気に値上げしてるし!!」
「ありゃ、バレた!冗談や冗談♬」
「可愛い穂乃果ちゃんジョークやん」
「店長〜団体10%offでえぇ?」
厨房の奥から親指を突き立てた右手だけが見えた。
店長…渋い!!
「私、生〜大で!!」
「由希子はビールすっきゃなぁ」
「あたしは、ハイボール」
「ヒロミ、あんたもんじゃは食べるのに
酒は糖質制限するのね…笑」
「悪い?」
「ほな、他の皆んな生でえぇか?」
「俺は、オレンジジュースで」
…
「せやった、一心、下戸やったな」
……
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次回 第34音
「木下光海の場合」




