第27音「歯車」
合宿7日目
まどかが、開口一番で謝った。
「皆んな、本当にごめんなさい!!」
「私どうかしてた…」
「自分がどんどん分からなくなって行って」
「気がついたら自分じゃない誰かが喋ってた」
「私は、多分大丈夫!
もしまた何かあったら、皆んな助けてください!!笑」
いつものまどか、
いや、まどかも「自分」を認められたんだな。
「あら〜、アンタまだ笑ってるけど…
殴られ足りないのかしらぁ??」
「や、やめてヒロミちゃん!!めっちゃ痛いんだよ!本当に!!笑」
「何よ♬」
「大丈夫、今私、笑いたいから笑ってるから!!笑」
…
「よっしゃ〜、行こうぜ〜、野郎ども〜♬」
由希子が二人の肩に腕を回し、走りだした。
「まどかぁ、アンタメチャクチャ怖かったわよ」
「やめて、忘れて!!」
「む〜り〜ぃ」
「酷い、由希子ちゃん!!笑」
…
ったく、青クセェな…笑
◇
まどかも本調子になり、
練習は順調に進んでいた。
…そう、順調に…
うん、順調だ。
みんな今まで以上のやる気を感じる。
上手く行かなかった所を、ああしよう、こうしようと意見を出し合い、
確実にオケとしてレベルアップしている。
個人個人だってそうだ。
うん、俺も良く聞こえるようになった!!
次、こういう音が出したいとか、他の楽器が走ってるよとか。
俺が気付けなかった所をフォローしてくれている音だって拾えている。
間違いない、俺達は確実に上達している!!
そう、上達しているんだ…
…
…
「おい、兄弟、もう一丁行こうぜ!!」
「いや、待て!ここの小節を詰めてからだ!!」
ホラ、大丈夫だ!!
◇
「まぁ、そうなっちまうよな…」
俺の不安の一つが的中してしまった。
まどかの件は解決できたみたいだが、
こっちはもっとタチが悪い。
「来ちゃいましたか…」
「あぁ、やっぱりな…」
今奴らがかかっている病気は
「上達病」だ。
「すっかり音楽を楽しむ事を忘れちまっている」
「悪い事じゃねぇ、悪い事じゃねぇんだ」
「ずっと何かから逃げてたアイツらが自分の成長を喜んでる」
「そんなの当たり前じゃねぇか!!」
「教授…」
「あぁ、分かってるよ。
俺が一言言やぁ良いんだろ?」
……
「けど、言えるか?
アイツらのあの顔、見たか?」
「えぇ、輝いてますね…」
「俺は教育者失格だ!」
…
「大体ガラじゃねぇんだよ」
「手前のエゴで音楽やって、
そのエゴで家族壊してんだ!!
他人に何か言えるような人間じゃねぇんだよ!!」
「くそっ!!」
俺は手に持ったコーヒーカップを壁に投げつけてしまった。
……
「それでも、私はあなたに救われましたよ…」
「ねぇ、教授」
「もう少しだけ、
もう少しだけ様子見てあげましょ?」
「きっと、自分達で気付いてくれますよ」
……
「すまねぇ、渚…」
「いえ、いえ」
…
……
「見守るしかねぇ…んだな」
◇
「はぁーい、時間でーす!!お疲れ様」
もう、そんな時間か!!
なんかもう少しやれるな。
皆んなの顔もまだまだいけそうだ。
「あの、渚さん」
「はい、どうしました?今日はカレーですよ!」
「あ、違くて…
もう少し練習しちゃまずいっすかね?」
「教授の遊ぶ時は遊ぶの
メリハリも、もちろん分かってます」
「そんなに長くじゃないんで…
もう少し、お願いします」
俺が頭を下げると
皆んなもやはり物足りなかったのか一緒に
お願いしてくれた。
…お前ら!!
…
「…分かりました…1時間だけなら、
うまく言っておきます」
「あ、ありがとうございます!!」
「1時間、バッチリっす」
「今皆んなメチャクチャいい感じなんすよ!!」
「なんか、この感覚忘れたくないなって」
「なぁ?」
「すまねーっす、渚さん!」
「今、過去1、乗ってんすよ俺ら」
「そうだな、確実に上手くなっているのを実感している所です」
「はい、いっぱい迷惑かけちゃったんで、どんどん練習してレベルアップしたいんです!!笑」
「…ウッス」
お前ら!!
「…う〜ん、ウチはどっちでも良いかな〜」
「ちょっち、疲れちった!!笑」
「YA-MAN!!…まぁMano達がやるってんなら
トコトンつきあうぜ!!」
二人は疲れたか?
まぁ、二人とも基本テンション高いからな。笑
「…」
「ともかく、1時間ですよ〜!!」
渚さんに許可をもらったが、1時間か。
仕方ない、やれる所までやろう。
「さぁ、皆んな時間ないぞ。
初めから通して行こう」
俺は気合いっぱいにタクトで指揮台を叩いた。
…
「まだ、我慢よ。渚」
◇
遊びの時間
今日は西田の提案を採用して
木陰でのんびり音楽談義とした。
流石に疲れたので各々好きな曲を理由と想いを込めて語ってもらった。
自然とクラシックの曲が多かった気がする。
弘は頑なに、演歌だ!!
ブレねぇなこいつ。笑
茜とルーも調子を取り戻し、好きな曲、歌手を身体全体で表現している。
最近茜が、ルー化してきてる気がする。笑
◇
晩飯も食い終わり、
夜になって部屋に戻った俺達。
合宿も残り僅か
悔いを残さない為にも
なんとか、この課題を完成させたい。
出来る事はないかと楽譜と睨めっこをしていると
気付けば、日付が変わりかけていた。
…
気分転換に散歩に行ってから寝ようかと思い、
俺は外に出た。
ピュ〜〜
南国とはいえ、
もうすぐ秋なんだと季節の訪れを感じていた。
…ん?
あれは茜か?
こんな時間に何やってんだ?
あいつも、散歩かな??
せっかくだからと茜を追いかけて、砂浜へと辿り着いた。
……
「よぉ、散歩か茜?」
風呂上がりなのか、濡れた髪を下ろしている。
普段のポニーテールの茜と違って、凄く大人っぽい。
振り向いた茜はメイクも落とし、すっぴんだ。
俺は不覚にもドキッとしてしまった。
「あぁ、トーマっち。こんばんは」
夜だからか少しテンションが低めだ。
「お、おう、こんばんは」
「何それ、ウケるし。笑」
「どうしたんだよ、こんな夜中に?」
「ん〜、散歩♬」
「もうすぐ合宿も終わりだなぁって」
「色々あったね〜」
「あったなぁ」
……
「大体お前と出会わなければこんなとこに来てなかったわけだがな」
「あぁ、まじ失礼!!ウチのセリフだし!!」
……
「ねぇ、ありがと。オケ振ってくれて」
「なんだよ、気持ちわりぃな!!笑」
「ちょ!!」
……
「ねぇ、ウチら、楽しんでるよね?」
「当たり前だろ!
こんなに充実した合宿が出来るとは思ってなかったぜ!!」
「ねぇ、ウチら、『音楽』楽しんでるよね?」
「だから、当たり前だろ!?
皆んなすげえ、上手くなってるし」
「これなら、優勝だって目指せる!笑」
「うん、そうだね…」
「上手くなったよね…」
……
何か変な茜だな…
合宿終わるからセンチになってるのか?
「まあ、いいや、俺先に帰るぞ」
「うん、ウチはまだ海見てる」
「少し肌寒くなって来たから、風邪ひくなよ」
「オカンかっ!!笑」
……
なんだ、いつもの茜だ。
さぁ、明日の練習の為に早く寝よ。
…
…
はっ、合宿が…終わる…
大事な
大事なイベントをこなしていない!!
3年間、泥臭くサッカーのみ。
周りを見ても、男子校…
いかん、どうにかせねば!!
……
「ル、ルーえも〜〜ん!!」
俺は足が痛むのも忘れ走り出していた。
……
ーーーー
次回 第28音
「思い出とはとかくも儚いもの」




