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イディアハルモニア  作者: 金柑


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3/53

第3音 「司令塔」

あの日から


俺はちょっと変わってきている。


好きなように楽しみ


好きなようにセッションする。



週に3日だけの音楽を介した自由な場所。


外面を気にしないで、話をする…




そんな時間が


俺に音と色を戻してくれた。


少しずつだけど


今度は無くさないようにしたい。



……


ここに来て2週間


少しコイツらの事が、分かってきた。


やたらと上手いやつ


妙な魅力のあるやつ


完全に初心者のやつ


自分の世界を持っているやつ…


要するにバラバラだ…笑





「う〜ん…」


「不協和音ってヤツだなぁ…笑」



今日のB定食は…

鶏胸肉の梅肉ソースか♬


(B定食は栄養バランスも良い。

 A定食はそれはもう茶色尽くし。

 今日はメガメンチ定食だ…デケェ。)



「トーマっち、どーしたん?キモいよ!!」


茜が遠慮なくディスってくる。


おっと!!

こいつは下手につっこんだり、反論すると、

話題がコロコロと変わるから

とても疲れるのだ。



「いや、バラバラだなぁって思ってよ」


「あぁ、オケ?」

「課題は決めてるけど基本自由だからね〜」



俺のB定食を掠め取ろうとしたので



「まあ、楽しけりゃ良いってテーマなら別に

 良いんだケド…さっ!!」



箸で手の甲を摘んでやった。


……


あの日のアンサンブル…


音と音が合わさった時の感動と興奮…


……


「なぁ茜」


「ん?」



手の甲をフーフーしてる。笑



「楽しかったよな…」


「…?…!」


「楽しかったね♬」


「…勿体なくねぇか?」


「!!」


「勿体ないねっ!!笑」



俺達はニヤリと笑い


いつのまにか用意してあった


生ビールで乾杯をしたのだった。


……


それから一週間…


講義の合間もバイトの休憩中も、楽器と編成について調べ続けた。


練習の間もピアノを弾かず、みんなの演奏を、見ていた。


気づけばスマホの検索履歴は


楽器の事でいっぱいだ!!


……


俺も凝り性だな。笑





「全員注目!!」



細いメガネをクイっとさせ


持ち込んだホワイトボードをバンと叩いた。


なんだそのメガネとピタッとしたスーツは!笑



…けしからん



……


「今日からはアンサンブルを意識して演奏して

 もらいます!!」


「えぇ〜」

「なんで今更」

「基本なんだけどね」



まあ、みんなの気持ちも分かる。


がっ


ここから俺の出番♬



「俺達2人のピアノ覚えているか?」



まず、俺が弾く


〜〜♪



「これが1人の音」



〜♬〜〜


茜が弾きはじめる。



「これが2人の音」


「オケはチームだ…」



〜♪〜♬〜



「1人1人の音が合わさって、

 一つの『音楽』になる…」


茜と合わせたり


わざとずらしたり


2人で色々な表情をつくりながら


説明を続けた。


……


「そうだなぁ…曲によって役割は違うけど」


「例えば、バイオリン」


「技術は素晴らしい、だけど強すぎるよ。笑」

「メロディをメインにする事が多いから

 強いのは良いと思うけど…」


「他の音を消してるよ。笑」


「ずっと頑張る必要ないって!」 


「必ず、チャンスが来るから!!笑」


俺達はピアノを止めた。


……


「ねぇ、どうだった?笑」


「たった2人だけど、音が混ざり合うと

 すごいしょっ?笑」


茜が楽しそうに言う。


「これでピアノだけだぜ!!」

「ここに、みんなの音が一緒になったらどうなる

 と思う?」


「なぁ、ワクワクしてこないか?笑」


……


「だけどよぅ、俺は初心者だぜ?」


「そんな事言われても出来る気がしねぇよ」



リーゼントヤンキーが、気弱な事を…笑



「澤村、お前今クラリネットだよな?」


「おぅ」


「お前、バソンやってみないか?」


「はぁ、バソンだぁ?使った事もねぇぞ。

 ってかどれがバソンだ??」


「コイツがバソンだ」


「お前さ、見た目の割に繊細な指使いだよな」

「ヤンキーのくせに、タバコも吸わないし」


「それと、酒も飲まないだろ?」

「肺活量も体力もあるし!!」


「おい、間違えるな」


「ツッパリだ!

 リーゼントは俺のポリシーだ!!」


「悪い悪い、間違えたよ!笑」


「ともかく」

「初心者だからこそだな」

「変な癖もついてないし、

 その見た目でセンスはあるし!笑」


「おめぇ、バカにしてんな!!?」


「冗談だって!笑」


「それにバソンは低音の基盤を支える」


「そんな音はお前みたいなどっしりとしたヤツの

 方が頼もしいんだ」

「バソンもお前も厳ついし…」


「それに…イカスだろコイツ?笑」


そう言ってバソンを手渡すと


「なんかよぉ、

 まだバカにされてる気がするが…」


「…」


「まっ、良いだろう。バソン任されたぜ。」


「俺が必要って事だろ?」


「ただし、

 俺はまだてめえの事完全に認めてねぇからな」


「へへ、バソンか…」



嬉しそうにしやがって…



……


「ともかく、難しい事は後回し!」


「この曲からトレーニングしてみようぜ」


俺は楽譜をホワイトボードに張り出した。


……


〜Ah! Vous dirai-je, 〜


通称「キラキラ星」だ


……


モーツァルトの「キラキラ星変奏曲」。

全年代、全世界で知られている曲で、今もなお編曲を繰り返し愛される曲だ。


「まずはベーシックに演奏、

 アンサンブルを練習していこう。」


「最終的には

 俺達ならではの編曲を目指そうぜ!!」



……


「…」


「ねぇ、トーマっち」


「キラキラ星はめっちゃ良いと思うんだけど…」


「…」


「なんでそんなに他の楽器も詳しいの??」


茜が怪訝そうに聞いてきた。


「確かに」と同調するメンバー達。



みんな、なに言ってんだ?



「そりゃぁ」


……


「勉強した」


……


全員、目が点だ。


おかしな事言ったか?


当然だろ??



「だってこんな提案するんだぜ?」


「みんなの個性とか演奏スタイルとか向き不向き

 とか…」


「楽器の事勉強しないと話できないだろ?」


……


これはキーパー時代の癖だ。


ポジションは同じでも、

プレースタイルは1人1人違う。


そいつを知らなきゃ、必ず歪みが生まれる。


理解しないと、指示を出す事は出来ない!!


当然だと思うけど…


違うの??


……


「はっはっ、なんかすげぇな。

 お前おかしいよ!!…ちっとは認めてやるぜ」


澤村がニヤッと笑った。


「うん、わかった」

「トーマっち、ちょっとおバカさんだね!!笑」


「ちょ、失礼じゃない?」


「あはは、良いから良いから」

「とりあえずさ、やってみようよ♬」


茜が仕切り直した。



こいつ…


……



うん、難しい曲ではないからな。


まあそれなりに、演奏は出来てる。


出来ているけど…


やっぱり、バラバラだ。


……


「チューバ、0.5拍早くないか?」


「バイオリン、力強すぎ。キラキラ星だぞ?笑」


とか思った事を口に出していたら


「トーマっちさぁ、指揮者やれば?」


「はぃ?」


「俺が、指揮!?

 タクトなんか振った事もねぇよ」


「でもさ、でもさ」

「みんなの音と全体の音分かってたっしょ?」


「ウチ、音は分かっても、指摘なんて出来ない

 よ!!トーマっち、センスあんじゃね?笑」


「…」



確かに。


意識はしていない…


だけど、演奏しないで引いて見てたからか…


みんなの個性が見えていた感じがする…


音だって、分けて聴けていた…


指揮者、俺が?笑


……


「それにさ、GKだっけ?」


「ゴール守って、みんなに指示出すんでしょ?」


「それって同じじゃね?指揮者と♬」


……


俺の中で、カチッと何かがハマった音がした。


……


そうか…そうか!


オーケストラというピッチなんだ!!


キーパーが全体を見渡し、指示をする…


指揮者…やれるんじゃないか


……


いや、俺にそんな知識はない…


もちろん、技術だって…



「ねぇ、みんなはどう思う?」


「だって、こんな事みんなに話するだけで、

徹夜で勉強とかしちゃうおバカさんだよ!笑」


「ウチらのゴール守るのにピッタリじゃね♬」


「お、ウチめっちゃ上手いこと言えたくね?笑」


……


茜…


…いけね。


また逃げる所だったわ。


……


「みんな…俺やってみようと思う。指揮者」


「ど、どうかな?」


「良いんじゃねぇか」


「やってみねぇと分からねぇがよ、

 俺は良いと思うぜ、兄弟!!」


「澤村…今時兄弟って…」


「かっか、良いじゃねぇか兄弟!!

 それと、一心で良いぜ♬」


「うむ、ダメならダメで考えれば良い事だ。

 まずは行動。これが1番だ」



みんな…



茜が一部始終を眺めていた教授に声をかける。


「せんせー、良いよね?

 ウチらの指揮者って事で!!」


「勝手にしろ、やってみな」

と軽く手を挙げて賛成してくれた。


……


指揮者。


俺の、俺だけの役割…


やばい、嬉しいわ!!


……


「指揮者…!!」


……


もう一度ピッチに立てる。


今度はオーケストラというピッチに


……


やってやろうじゃん!


皆の『音』が見渡せる場所で!!


……

………

ーーーー


次回 第4音

「イディアハルモニア」


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