第24音「大木の陰」
合宿4日目
今日も朝から音楽を奏でる。
一日、一日、成長を感じる。
最近欲が出てきた。
もっと難しい曲をやってみたい!!
今の俺たちならきっと出来ると思う。
ただ、今はまだ
この出鱈目で心地のイイ不協和音の中に
身を委ねていたい
…そんな気持ちだ。
ーーーー
「4日目か…」
俺は、ホールから漏れ聞こえる音を楽しんでいた。
「どうです、みんな?」
コーヒーを持って渚がやってきた。
「おぅ、おはようさん」
「はい、コーヒーです」
「悪いな」
美味いな
「まぁ、ぼちぼちだな」
「だいぶと欲が出てきたんじゃないか」
「そうですか、そろそろって事ですね」
「俺の方も、なんとか形に出来たよ」
「後は微調整だ」
「大丈夫ですかねぇ?」
「大丈夫だろ?そんなヤワに育てた覚えはねぇぞ」
「ふふ、育てました?」
「違ぇねぇ、あいつらが勝手に育ったんだ。笑」
…
「ちょっと心配なやつらもいるけど、
まぁ、大丈夫だろ」
「楽しみですね!
最近ろくに寝てないんじゃないですか?」
「クマ酷いですよ!笑」
「ほっとけ!!笑」
…
「さて、ちょっと散歩してくるわ」
「渚、お前もあいつらの事頼むな…」
「もちろんです、私お姉ちゃんですから!!」
…
「歳考えろ…笑」
俺は後を渚に任せて外に出た。
◇
俺と渚の付き合いはもう15年になる。
事情があり、音楽の世界から逃げ出した俺を拾ってくれたのがあいつの爺さんの丹下会長だ。
俺のファンだと言う会長は
逃げ出した俺を、この島に匿ってくれた。
立ち上がれるまでここに居て良いと。
渚も事情があってこの島に来ていた。
俺たちは話をした、毎日、毎日。
照れくせぇが、ここまで立ち直れたのは渚のおかげだと思ってる。
多分あいつも同じ事を思っているだろう。
何とか立ち直ったが、音楽の世界に戻る勇気は戻らず、渚と共に大学の講師として丹下会長の学園に世話になっている。
まぁ、そんな付き合いだ。
二人には頭が上がらない。
ーーーー
もう、15年になるのかしら?
あの頃の私はまだ10代でピチピチでした。笑
私は、
私は、男性に乱暴をされました。
14歳の頃でした。
人を信じられずに、家に引き篭もる毎日。
何かを変える勇気もなく、ただ生きている。
そんな日々を過ごしていました。
ある日お爺様が一枚のCDをくれました。
日本人指揮者のエルガー「威風堂々」。
なんて、自由で壮大で勇気づけてくれるのだろうと感動したのを覚えています。
私は勇気を出して外に出ました。
何故なら、その方がオケを振ると言うのです。
しかも、留学中のパリで!!
素敵なオケでした。
……
お爺さまのお仕事の都合で
私も帰国する事になりました。
まだ、他人が怖かった私をこの島に連れて来てくれました。
ゆっくりしなさい。
立ち上がるのはいつでも良いから。
だけど必ず立ち上がりなさい、と。
ある日お爺さまからの連絡で、
もう1人、住人が増えるよ、と連絡がありました。
男性とのことで、正直怖かったんですが。
なんと、あのパリの指揮者さんだったんです。
私、感動で毎日お話しをしに伺ったんです。
男性が怖い私が、ですよ。笑
…
だけど追い返されました。
何日も、何日も。
…
ある日、お手紙を出しました。
文通しましょうって。
毎日、うぅん、暇があればすぐに書いて届けました。
ある日、扉が開いていたんです。
泣いていました。
「ありがとう…ありがとう…ごめんな…
ごめんな」って
その姿を見たら私も泣き出しちゃって
初対面はお互い号泣でした。笑
あれから、15年です。
早いものですね…
ーーーー
俺は見晴らしの良い、
誰も来ない崖の上に来ていた。
ここにはあいつが眠っている。
いや、厳密には誰もいない。
俺が贖罪の為に建てただけだ。
あの日、パリの常任初日。
アイツは、俺のオケを見る為に劇場へ向かっていた。
雨のせいでスリップしたトラックに跳ねられ、
意識不明の重体で病院に運ばれた。
俺はすでに演奏中だった為、閉幕後、事実を知った。
急いで病院に向かったが、アイツは、陽向は既に息を引き取っていた。
……
娘の美羽に殴られたよ。
……
なんで、こんな時に音楽なんかやってられるんだって。
……
「…陽向…久しぶりだな」
「しばらく来れなくてすまなかった」
「遠いんだよ、ここ…苦笑」
「しかし、あのホール。
お前の設計だったんだな。あの爺さん全然教えやしねぇ」
……
「今、教師の真似事をしてる」
「俺が、教師だぞ!!」
……
「笑うだろ?美羽をろくに育てなかったくせに」
「ただ、あのガキ共見てるとここに来た時の自分を見てるようでよ」
「渚のおかげで、立ち上がれた俺のように、
誰かが支えになってやらねぇと、
どいつもこいつも潰れちまいそうでな」
……
「しばらくいるから、また来るよ」
「良かったら、
アイツらの事、見守ってやってくれよ」
……
「それじゃ…またな」
ーーーー
「皆んな〜お疲れ様!!」
もう、そんな時間か!?
日に日に時間が経つのが早くなっているな。
「いやぁ、俺たち上手くなって来てるよな」
「ふん、まだまだだ、下手くそ!!」
「んだとー!!」
「だが、前よりずっといいぞ。貴様の魂を感じる!!」
「な、なんだよ。急に褒めんじゃねえよ!!」
素直になれないかね、2人とも…笑
「あぁん、まどかありがと〜♡」
「あたし、走りまくっちゃったわぁ。
まどかが制してくれて助かったわ、ムチュー♡」
「わ、わ、わ、ヒロミちゃん!!
ち、ちょっ、ダメ。笑」
「もう!笑」
「全然だよ〜、
こちらこそ出しゃばっちゃって、ごめんね。笑」
「んもぅ、なんでまどかが謝るのよ♡」
仲良き事はなんたらだ…
「ひ、弘くん、さ、さっきのパートの解釈なんだけど、わ、わたしは、もっと雄大に捉えても、い、良いのかと思うんだけど、ど、どうかな?」
「…うん…悪くない。それ面白いかも…」
俺達は確実に前進している!!
……
「そういや、今日はどうする?」
「次、誰だっけ?」
俺はみんなに尋ねた。
「…僕…」
「YA-MAN!今日は弘だぜ〜!!」
そうか、弘か…読書かな?
「…僕の提案」
「…俳句」
「…これまでの合宿、音楽を俳句で詠う…」
「まあ!まあまあ!!」
「素敵ですね〜、流石弘くん!!」
「…ウッス」
俺はびっくりしていた。
あの弘が自分からテーマをぶつけてきた!!
「俳句か、面白そうだ」
「よし、ロッジに戻ろうぜ!!」
……
俳句大会も、終わり次はどうするなんて話していると。
「おぉ〜い、お前ら〜!!」
教授が、こちらに向かってきた。
両手に、紙の束を持って。
バサッ
「な、なんすかこれ?」
…楽譜?
「明日からの課題曲だ!!」
俺は、心の中で拳を握った。
きた、待ってたぜ〜!!
「明日から、ちょいと厳しいぜ!!」
「今日までは、『音』を楽しんだが」
「明日からは、『音楽』を楽しむぞ!!」
「「シャァーー!!」」
俺達はみんな飢えていたようだ、
……
上達する事に。
……
ーーーー
次回 第25音
「異質なモノ」




