第21音「前へ」
ボォォーーー
汽笛の音が鳴る。
どうやら、まもなく到着するようだ。
8時間はあっという間に過ぎた。
俺達は自然とデッキに集まっていた。
…
「よう、ゆっくり出来たか?」
教授が眠そうに俺たちの前にやってきた。
「見えるか?
アレがこれから10日間お前らが過ごす、
通称、海鳴島だ」
俺達のワクワクはもう限界だった!!
…
「丹下グループが、リゾート開発用に購入したが沖縄から遠すぎて持て余してる島だ。笑」
「グループの管理人がいるだけだから
朝から晩まで、気兼ねせず『音』を出せる」
教授はニヤッと微笑んだ。
「さぁ、楽しい音楽の時間だ!!」
◇
「皆さん〜ん、お待ちしてました〜!!」
波多野さんが波止場から手を振っている。
スーツではなく、ラフな薄着の波多野さん。
下には水着を着ているようだ。
普段と違う印象だ。
意外と着痩せするんだな。
……
いかん、まだ遊び気分が抜けていない。笑
しっかりしろ、切り替えろ!!
これから、10日間。
音楽漬けの時間が始まる。
優勝はわからないが、
やるからには必ず結果を出すんだ!!
こいつらとなら、
きっと、もっと上手くなれる。
全力で、音楽と向き合ってやる!!
◇
「ようこそ、海鳴島へ。
船旅は大丈夫でした?
良く休めましたか??」
「すまんな、波多野、待たせた」
「いえ、こちらも準備出来た所ですよ」
見渡す限り、海、海。
絶海の孤島ってやつか?
道も整えられ、港周辺は商店を予定していたのかポツポツと建物もある。
自然を優先し、調和するように設計をした
丹下グループの「心」を感じた。
「さぁ、宿舎へ移動だ。全員バスに乗れ」
「今夜はBBQですよ!
明日に備えてゆっくりしてくださいね!!」
……
…明日から、がんばろう!!
◇
「「おぉぉ、すげえ」」
各部屋は独立していて、センターのメインロッジを囲むような配置のホテルだ。
浜辺からも近く、マリンアクティビティも充実しており、釣り、ジェットスキーなんかも楽しめるようになっているようだ。
なんで、使われていないんだろう?
「ほれ、好きな部屋選べ。荷物置いたら宴会だ。焼くぞ、肉!!」
「「イッエーーーイ!!」
……
その夜、遅くまで宴は続いた。
明日から俺たちは進む
音楽を楽しむために!!
ーーーー
翌朝、6時
朝早くにメインロッジに集合した俺達。
「全員いるな?」
眠たい目を擦りながら皆んなを見てみる。
茜とルーカスはソファで寝てる。
弘は持ち運びしやすい文庫を読んでる。
マリアはハイテンションで写真を撮ってる。
佳代と西田は、モーニングコーヒー。
まどかと一心とヒロミは朝飯。
由希子はメイクしてる。
皆んなそれぞれだな。
「さぁ、これから楽しい楽しい音楽の時間だ〆
教授は俺達に「ついて来い」と歩き出した。
……
メインロッジから続く裏手には
島に不釣り合いな建物があった。
…コンサートホール…
「ここが10日間のお前らのステージだ」
教授は重厚ながら温もりを感じる扉を開いた。
「…陽向…」
教授が誰かの名前を呟いていた。
そこは500人程収容出来そうなコンサートホールだった。
木の温もりと日差しの暖かさを感じる。
何もかも、許し、見守ってくれる。
所々未完成な感じで、しばらく使われていないだろうに、それを肯定するかのような…
そんな優しさで満ち溢れていた。
学校の音楽堂とどこか似たように感じた。
……
「こんな立派なホールで練習して良いんすか!!」
俺は興奮を抑えきれなかった。
茜に至っては、ルーカスと走り回ってる。
「あぁ、早速始めるぞ」
教授が教えてくれる?
伝説の指揮者が…?
上手くならなかったら、嘘だろ!!笑
……
「よし、準備出来たな」
みんな、緊張している。
これから、厳しい練習が始まるんだと。
久しぶりに熱くなってきたぜ!!
……
「…好きにしろ…」
…えっ??
「俺は何も教えない。
ただしルールはある」
「一つ、課題はない。
好きな曲を弾け。
オリジナルでも良いし、既存の曲でもなんでもいい。なんならクラシックでなくたって良い。
一つ、話し合うな。
持ち回りで誰かが音を出し始めろ。
そこに合わせていくんだ。
一つ、毎朝6時から必ず音を出せ。
一人でも、二人でもだ。全員が揃うまでは、
いる奴らだけで持ち回せ。
一つ、水分はそこの冷蔵庫に入れてある。
軽い軽食も入ってる。トイレ以外でこのホールから出る事を禁じる。
一つ、俺が良いと言う迄終わりはない」
「以上だ」
「さぁ、始めろ!!」
……
誰もがどうしたものかと戸惑っている。
……
ドゥーーーン!!
地面を揺らすような力強い音が響いた。
「み、皆さん、や、やりましょう!!」
「そうだ、光海!!
難しく考えるな、とにかく『音』ならせ!!」
「上手くなんてなくて良い、分からなくても『音』ならせ、間違いなんてねぇ」
「それと、光海!
話し合うなって言ってんだろ!!笑」
「ひゃっ、す、すいません」
「怒ってねぇよ、せっかくだそのまま始めろ」
ドゥーーーン!!
ロバート・J・ジェイガーの
『シンフォニア・ノビリッシマ』 だ。
木下先生…
皆んな思い思い音を出し始めていた。
…
まぁ、合わねぇよな。笑
だけど、少し分かってきたかもしれない。
誰かが音を出し始める、
そいつが何をしたいのか考え、
合わせる。
音が合ってなくても良い、そいつに合わせてやるんだ。
だから、次に自分の時にも合わせてくれる。
……
「おい、斗真」
演奏中に俺だけ呼ばれた。
「お前、この合宿中、
俺が良いって言うまで指揮すんな」
「えっ、なんでっすか??」
「良いから…」
「そうだな、ピアノでも良いし、クラでも良いし、ホルンでも良い。
なんならドラムでも良いぞ」
「好きなもんやれ」
「は、はぁ」
なんとなく、意図はわかるけど、
せっかく指揮者としてやって行こうと思ったのに。
「ほら、良いからやって来い。とりあえずはピアノで良いから」
「好きな時に好きなタイミングで好きにやれ!!」
「良いか、これはお前だけの課題だ!!」
「ウ、ウッス!!」
……
あれから何時間たったんだろう?
ホールには時計も無く、時間が分からない。
ヒロミのブルース
マリアのジャズ
ルーカスのレゲエ
弘の、演歌!!
一心のロックテイスト
佳代の「星に願いを」
西田のゴリゴリのチャイコフスキー
意外だったのはまどかのJ-POP
茜はまぁ、オリジナルだよ…笑
…
俺達は夢中で演奏を続けた…
……
「よーし、そこまで!!!」
教授の声に演奏をストップした俺達。
すげえ、疲れたけど
充実感がハンパない。
やっと休憩か、なんて思っていたら。
「これにて、本日は終了!!」
「後は遊んで来い!!」
……
「…」
「「はぁ〜〜?」」
「この後、音鳴らしたの聞こえたら、
そいつは簀巻きにして海に放り込むからな!!」
「ほら行け、遊んで来い」
……
「なんだよ、嫌なのか?」
「じゃあ、勉強にするか?、学生なんだし」
「「いやいや、遊びます、遊びます!!」」
「そうかぁ、俺は勉強でも良いんだが」
俺達は全力で片付け、遊びに出ようとホールを後にした。
「お〜い!ちょっと待て〜!!」
「いいか、お前ら」
「一つ、全力で遊べ!!」
「一つ、遊びの内容は誰か一人が決めて、全員で遊ぶ事」
「一つ、相談は禁止」
「一つ、否定・不参加は認めない」
「一つ、遊びをサボってんのを見かけたら晩飯抜き!!」
「…」
去り際にホールに
何か語りかけている教授が印象的だった。
◇
メインロッジに向かいつつ一心が聞いてきた
「で、どうするよ兄弟?」
…
「どうしよっか?」
「岬ぃ、あんた決めなさいよ!
あんた今日自分から音出し始めてないでしょ?」
「いや、しょうがねぇじゃん。急に指揮すんなって言われたし」
「いいから、決めなさいよ斗真。
それともあたしと美容について、
裸で語り合う…?」
「に、西田ぁ〜」
「致し方あるまい、君塚の言う事も一理ある」
「ひ、弘ぃ〜」
「…先輩、暑いから早く」
「き、木下〜」
「あ、諦めて、下さい!」
「…」
「分かったよ〜」
◇
とりあえず、メインロッジに戻ってきて
一息入れた俺達。
「んで、何すんのトーマっち?」
「う〜ん…」
…
海…
とくれば…
…
「釣りだぁ〜!!」
こんな絶好の釣り場見逃す訳にはいかない!!
正直、島を見た時点で潮の流れから
間違いなく、良場だと確信していた!!
一応、沖縄だし。
ミーバイとかかかるかも。
…沖合だしマグロもあるぞ!!
シイラなんかも楽しいな♬
……
「えぇ〜、釣りぃ〜、
もっとアクティブにいこーよ!!」
「おい、茜!
一つ、否定しない!!」
「ぶぅ」
「この中で釣りやった事あるやついるか?」
西田に、ルーカス、おぉ佳代もか!?
「よし、そしたらチーム戦で勝負だ!!」
即席でくじを作りチーム分けをした。
……
俺とヒロミと波多野さん
西田とまどかとマリア
ルーカスと弘と由希子
佳代と一心と木下
茜が余った…
ん?
「は、波多野さん?」
「もう、いい加減名前で呼んでくださいね
『渚』で良いですよ♬」
「は、はぁ」
…
「いいもん、いいもん、ウチだけ一人でやるもん」
あっ、泣きそうだ。
「茜ちゃ〜ん、ごめんね。お姉さんも皆んなと遊びたくて」
「渚は悪くないし、悪いのは釣りなんて企画したトーマっちだし!!」
「お、おい、茜」
「うるさい!!トーマっちなんかマグロに喰われて死んじゃえ!!」
茜さんがオコです。
「こぉら」
ゴス!
「あ、いたっ!!」
「渚〜、お前はやる事あるだろ〜」
「誰がお姉さんだ、全く」
「教授…」
「ん、ゔん、まぁとにかく波多野と俺はやる事あるから気にすんな」
「ほら茜もいつまで、いじけてんだ」
「鼻かめ、鼻」
渚さんが、イタズラっぽく「ごめんね」って舌を出して謝ってきた。
……
可愛いっす。
いくつなんだろう…?
……
「あ、茜、俺達のチームに入ってくれないか?」
「あたし達だけ、2人なんて無理よ!!」
「頼む、茜!!」
「…」
「し、しょーがないなぁ、ウチがチームに入ってあげようじゃん♬」
「茜がいれば優勝はこっちのもんだ」
「なっ、ヒロミ?」
「そうね、茜さえいれば優勝は決まったようなもんね」
「ふ、ふふん、そのとーり!!
優勝はウチらのもんだね♬」
チョロいな…笑
◇
茜が餌を嫌がる。
「無理無理無理!!なんで動いてんの!!」
「ほら、貸せって」
「トーマっち、手臭っ!!」
「釣りなめんな!!」
「キタァーーー!!キタわよーーーー!!」
「おぉ、行けヒロミ!あげろ!!」
「ふん!!」
「しゃあ、キハダだぁ!!」
「なかなか、良いトレーニングになったわ♡」
「やば、うわ!動いてる!!これなによ?」
「ばっか、鮪だよ鮪!!」
「えぇ、これがマグロ!マグロって釣れんの!!」
「やば、美味そうに見えてきた…ジュル」
「あげないわよ…あたしが釣ったんだから」
「ロミヒ〜〜。泣」
……
優勝は
「佳代、一心、木下」チーム。
なんか、佳代が凄かったらしい…
◇
その後俺達は、
茜の提案でジェットスキーを楽しみ。
「「フォーーー!!」」
「これはやばいわね、くせになるわ」
「でっしょ〜、由希子分かってるぅ!!」
「か、佳代、は、早い、ス、スピード落とせ!」
俺はなんとかしがみついていたが、
佳代の暴走によりバナナボートの
弘、木下さん、西田が派手に吹っ飛んだり、
まどかのパラセーリングの紐が解けそうになったりした。
◇
「次、私でもいいかな?」
まどかが散策したいと言ってきたので皆んなで島内を散歩した。
「さっきパラセーリングで上から見たんだけど、せっかくなら島の事ちゃんと見ておきたいじゃない?笑」
激しく遊んだ後だから、
丁度良いねと散歩に出かけた。
道中、島は猫が放し飼いになっているようで
一心がノックアウトした。
「俺、この島に住むわ」
引き剥がすのに苦労した。
改めて歩いて見ると綺麗な島だな…
時折まどかは足を止めて何か考えているようだった。
絶景だしな♬
カシャ
マリアは…ずっと写真撮ってるな。
現像したら俺にも分けてもらおう。
「おぉ〜い、まどか〜、トーマっち〜、そろそろご飯だって〜!置いてくよ〜!!」
「分かったぁ〜!!」
「まどか、行こうぜ」
「う、うん、今行く〜!」
「今日のご飯なんだろね?」
「あぁ、腹減ったな」
俺達はロッジに向かって走って行った。
◇
夕食後、教授が
「明日からは勝手に始めてくれ」
「俺か渚が、大体14時頃には声掛けに行くから、基本同じ感じで楽しめ♬」
「「えぇ〜〜」」
「見てくれないんですか」
「サボり?」
「たまには教えて下さいよ」
とか、反応は色々。
「俺も、やる事あんだよ」
ってビールを飲んではぐらかされた。
思っていた合宿とは違ったけど
俺達の10日間は始まった。
今日一日だけで、音を合わせるって事が
少しだけ分かった気がする。
楽しいけど…
…難しい…笑
……
ーーーー
次回 第22音
「綻び」




