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イディアハルモニア  作者: 金柑


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第9音「女優」


大会まで、2週間。


ノリで良いじゃんって言ったけど、

2週間は短いよ。


しかも岬のやつ、私で協奏曲やるって。


そりゃ言ったけど…


まっ、なんとかなるか!!


ウォルトンは好きだし、これなら私もみんなに教えられるし。


しかもあいつ、私の音が好きだって。


普通言うかな、あんな所で。笑


「ピッピッピッ」


「はぁい、どうしたの??」


「コンパ?行く行く〜♬」


「了解、いつもの店ね」


「して、今日の対戦相手は?」


「じゃあ後でねぇ」


ん?


やばっ、練習。


……


まっ、今日だけは良いか。


ちょっと良い事もあったし、お祝いって事で。


今晩の試合は負けられないわ!!


シャワー浴びよ〜っと♬


……



「「カンパーイ!!!」」


あたし達はいつもの店で試合を始めた。


今日の対戦相手はK大生。


幸、良いところ引っ張ってくるじゃない。


幸は大学に入ってからの友達だ。


あたしが音楽やってる事は知らない。


言う必要もないし。


……


あの子は誰だろう?


どっかで見た事があるような??


「それじゃ、まずは自己紹介から」


K大生の仕切りで自己紹介が始まった。


「…」


最後はあの子だ。


「は、初めまして。橘仁美です」


「大学2年です。

 お弁当屋でバイトしてます!!」


あぁ、あそこの弁当屋の店員だ。

同級生だったんだ!?

知らなかったわ…


……


さて、今日はどうなるかな??


……



結論から言うと


つまんない…


マジでないわ…


こいつら持ち帰りたいだけじゃん。



話もつまんないし、

うっすいのよ、中身が。


ネットニュースのコピペみたいな話ばかり。

見た目通りただのチャラ男かよ!!


……


ダメね…


……


あたしはマスターにサインを送った。


この店はあたし達の勝負店。


マスター、ダメだ。プランNで。

プランNはノンアルコールのNだ。


ハイボールに偽装した

ジンジャエールをお願いした。


……


そこからは地獄だった…


話はつまんないし、


お酒も飲めないし、


幸はいい感じかな?


橘さんは慣れてないのかな?


…よし、無理!!笑


あたしは幸に申し訳ないと思いながらも

帰る事にした。


……


「仁美ちゃん、明日一限一緒だったよね?」


「メール見た?」


「開始前に何人か手伝いがあるみたいだよ」


「え、は、はい!?」


「幸ごめんね、

 あたし達単位やばいから一限落とせないのよ」


「マジでかぁ、しょうがないね」


すまん幸、恩にきる!!


あたし達は阿吽の呼吸で、会話を進めた。


男達に入る隙を与えないあたし達の必殺技だ。


橘さんは相変わらず?マークだけど。笑


「それじゃ、楽しんでねぇ」


橘さんの手を引きあたしは店を後にした。


……



「ごめんね、橘さん」


「どうせ幸が無理言ったんでしょ?」


「いぇいぇ、全然大丈夫ですよ」


「なんかよく分からなかったですし。笑」


…めっちゃ良い子じゃん。


「あっ、そうだ連絡先」


……


「交換してくれる?」


「えっ、はい。もちろんです」


「ちょっと、嬉しいです」


「君塚さん凄く綺麗だし、学校でもいつも目立っ

 てたから」


「今日お会いしてイメージ違うなって」


「あっ、良い意味ですよ!!」


天使なの!


ダメ、好き!!


私は橘さんを抱きしめた。


「わ、わぁ、ちょっと君塚さぁん!!」


……



「あれ、電車乗らないんですか?」


「うん、ちょっと寄るところあってね」


「そうですか、夜も遅いですから本当に気をつけ

 てくださいね」


心配をかけないようにここは笑顔で


「大丈夫、家族に会うだけだから」


「今度お弁当買いに行くね!!」


……



私は橘さんを見送った。


幸からメールが来てたけどなんか、


読む気にならなかった。



……


ヴィオラってさ、私そのもの。


……



歩こっかな…


私は最寄り駅まで、3駅分を歩く事にした。


……





私はヴィオラが好き

これは本当。


……


ダラダラ歩いて

いつものコンビニで缶ビールを買った。


「ユキコさん、ビール好きですネ」


タナが話しかけてきた。


「なぁんで、こんな時間にあんたがいるのよ」


「あんた昼でしょ?」


「テンチョ、ママさんにキャバクラバレたよ。

 シバラクヨルデレナイよ」


あぁ、なるほど。悪い人じゃないんだけどいつもあたしの胸見てくるからな。


それより…


「アンタ、いつまでカタコトやってんのよ。笑」


「茜なんかは、気付いてないけど。

 あたしから見れば一発よ!!笑」


「ナ、ナンノことカナ、ニホンゴムズカシイネ」


「はい、はい。笑」


「ユキコさん、しっ〜ね、し〜っ!!」


「分かったって!笑」


「まぁ、

 使い分けるくらいがちょうど良いのよね。笑」


……


「とにかく夜長いし頑張んなさいよ〜」


とコンビニを後にした。



なんか話したそうだったけど、

あいつ、長いからな話。


……


あたしもヴィオラが好き

これも本当。


……



ちょうど家まで半分くらいかな?

私はいつもの川沿いを歩いていた。


今日はこの辺にしようかな?


プシュ


ぶっはぁーー!!


最高!!


やっぱビールよねぇ


今日全然飲まなかったから美味く感じるわぁ。


つまみは、炙ったイカでいい〜♬


炙ってないけど、スルメが好き♡


一本目を飲み干した後ふっと今日の昼を思い出した。


……


ヴィオラ協奏曲…


自然と顔が綻んでしまう。


華やかなバイオリンと比べると圧倒的にメインを張る事がないヴィオラ。


あたしはそれでもヴィオラが好きだ。


バイオリンだけじゃ尖る。


チェロだけじゃ重い。


その間を埋めるのがあたし。


縁の下の力持ちってやつかな。


あたしはこの役割に満足してるし、やりがいも感じてる。


……


だけど、あんなにストレートにヴィオラ協奏曲って言われると喜びを隠せない。


しかも、あたしの音が好きって!!


なんなのよ

ストレートすぎるわ!!


……


強がってみたけど、本当は不安だ…


私がメインか…


私がみんなを引っ張らないと!!


ウォルトンは何度も何度も練習してる。

間違えるはずはない。


だけど…


……


本当に自分で選んだのかな?


……


私もあたしもヴィオラが大好き!!


小さい頃、

「由希子ちゃんはヴィオラにピッタシだね」


「由希子ちゃんのヴィオラはオケに安定感を与え

 てくれてるわ!!」


って褒めてもらった。


私自身を褒めてくれたみたいで、

嬉しかった。


それから、ヴィオラは誇りになった。


メインのバイオリンをフォローする。


私がいないと音に奥行きが生まれない!!


……


私のおかげ♬


……


本当に?

バイオリンやりたくなかったの??


……


なんで?

だって先生が私にピッタシだって!!


……


あたしはバイオリンやりたかったよ?


……


私はヴィオラが好きだよ!


……


あたしもヴィオラが好きだよ!


……



あぁ、ダメ!


すぐ、マイナスになる!!


あたしはダメだなぁ、本当の私はダメなやつです!!


誰に言うでもなくダメ人間宣言をし二本目を飲み始めた。


橘ちゃん良い子だったなぁ、


なんか本当の私を見つけてくれたような感じしたよ。



キキーッ


「由希子?」


「アンタなんでこんな所にいんのよ!?」 


岬!!


「こっちのセリフだ!こんな時間にどうした、

 こんな所で。って飲んでんのか!?」


「そうよ〜」


ポイっと缶ビールを岬に投げつけた。


「一杯付き合ってよ。

 こんな良い女が奢ってあげてるんだから」


「やれやれ、何言ってるんだか」


……


良いやつなんだよね。基本。



「アンタこんな時間に何してんの?」


「俺か?俺は音楽堂にスコア忘れて来たから

 こっそり取りに行ってきた所だ」


びっくりした顔で見返すと


「いや、やっぱりいつも手元にないと不安じゃん」



真面目か!!


わかる、私も同じ。

いつも持ち歩いてる。笑



「そっかぁ、えらいでちゅねぇ」


「な、なんだよ、やめろよ」


「あん、おっぱい当たった…エッチ」



私は、いつものあたしを演じた。



「そんで、

 お前はなんでこんな所で飲んだくれてんだ?」


「ん〜私はぁ、

 今日良い事と悪い事があったからお祝いぃ?」



あたしの私が入り混じる。



「ふーん、まっ、ただ酒だ!ゴチです!!」


「お〜、よきにはからえ〜♬」


私達はしばらく無言でビールを飲んだ。


「由希子、悪かったな」



謝られた、なんで?



「ヴィオラ協奏曲、勝手に決めちまって」


「先にお前に相談するべきだったな…すまん」


……


「何言ってんの、

 あたしに任せなときなさいよ!!」


「いや、心配はしてないんだけど」


「ほら、お前面倒見もいいし、真面目じゃん?」


「いつもフォローさせちまってるし、」


「なんかプレッシャーとか感じさせてないかって

 思ってさ」


……


なんなの


……


「そ、そんな事ないから。私がプレッシャー?」


「感じるわけないじゃない!」


「主役よ!?良い男見つけて、エステ三昧よ!!」


必死にあたしは言い訳をした。


……


「そっか、ならいいんだ。」


「お前のヴィオラなら大丈夫だよな!!」


……


なんで


……


「ふぃーごっそさん!」


「俺もう行くけど、どうする?送るか?」


「大丈夫…」


「そっか気をつけろよ。」


岬は自転車を押しながら


「家帰ったらメールだけ入れといてくれ」


って言って帰って行った。



いつものあたしならエロい事言うんだろな…


……


悶々としながら四本目のビールに手をかけた。


……



う〜ん、頭痛い。


完全に二日酔いだ…


なんか色々と恥ずかしい夜だった。


いくら飲んでも記憶をなくさない自分が憎い。


夜勤明けのタナがすれ違い様に


「ユキコさん、クサすぎ」


と言って来たのでお尻を引っ叩いてやった。



校門まで来て、一気に面倒くさくなって来たので今日はもう帰ろうと思っていた。


ん?


なんか岬が走って来る。


変な走り方。笑


「由希子!!

 お前なぁ、メールしろって言ったろ!!!」



あぁ、なんか言ってたな。

心配しすぎだよ、流石に。笑



「ごめんごめん、家着いたらそのまま寝ちゃって」


あたしは二日酔いの中精一杯の笑顔で答えた。


「まぁ、無事なら良いんだよ、無事なら」


納得いってないな…笑


「あ、でもごめん今日は帰るわ」



流石に無理。



「夕方の練習は出るから、安心して」


私はそう言って踵を返した。



岬がまたなんか言ってるけど、


あれは「オカン」だね。笑





一眠りしたらスッキリしたので、

遅い昼食を取る為少し早めに家を出た。


時間も中途半端な為開いてるお店が少ない。


しょうがないからワンさんのお店で

おかゆでも作ってもらお!と歩いていた。


「由希子さーん」


通りの反対からあたしを呼ぶ声が聞こえた。



橘さんが手を振ってる。

あっ、お弁当屋さんここだった。



「これから講義ですか?」


「ねぇ、敬語はやめてって言ったじゃない?」


昨日別れた後、メールでやり取りをしていた。



私たちは友達になった。



「ま、まあ徐々にね」


仁美は慣れない口調に気恥ずかしそうだ。



私達は、取り留めもない話に花を咲かせた。

この子といると私でいられる。



「昨日は大丈夫だった?

 なんか悩んでるみたいだったけど…」



すごいなこの子!!



「うん、大丈夫。なんかね、結構悩んでたんだ。」


「本当の自分ってなんなんだろって」


「あはは、哲学だねぇ」


仁美は少し考えたあと、首を傾げた。


……


「本当の自分っているのかな?」


「今ここにいる君塚さんも、

 昨日の飲み会の時も、

 私の知らない君塚さんも…」


「全〜部ひっくるめて、

 本当の自分なんじゃないかな?」


「…全部?」


「うん。明るく振る舞ってたのも嘘じゃないし、  

 今みたいに悩んでるのも嘘じゃないでしょ?」


「…」


「だったら、全部本物じゃないかなぁ」


「どれか欠けてもダメなんだよ」


「全部があるから由希子なんじゃない?」


……



スッと私の中に仁美の言葉が入り込む。


あぁ。私、ずっと誰かにこう言ってほしかったんだ。




「全部が私なんだよ」って。



そうか…


ずっと思っていた


そうなんじゃないかって。


だけど仁美に言ってもらって初めて理解が出来た。



多分、怖かったんだと思う。


私とあたしを、認める事が。


……



うん!


「はぁ、なんか考えるのが

 アホらしくなってきちゃった。笑」


「ひどい、せっかく真剣に考えたのに〜」


「ごめん、ごめん」



なんか、スッキリした。


難しく考えすぎてたのかな?


簡単な事だった


自分を認める事。





「ねぇ、仁美、何時にバイト終わるの?」


「えっ、もう終わるけど」



あたしは見て欲しかった。

「仲間」以外に初めてみせる私を。



「じゃあさ、ちょっと付き合ってよ」



私は仁美の手をとり走り出した。


私達の吹き溜りへ


……

ーーーー


大会当日、本番直前。


市が全面バックアップで開催しているだけあって

中々の客入りだ。


私は震えている。


武者震いであれ!!


と強く拳を握り締める。


先にステージに出るメンバー、


私と岬だけが袖に残っている。


何も音が、聞こえない。


怖い


……


落ちつけ、私。


多分仁美も来てくれてる。


びっくりするかな?笑


こんなに、華やかなドレス初めて着たかも。 


由希子、綺麗!!とか笑


……



あれ、なんか余裕出てきたかも??



そんな私の心境を知ってか知らずか岬が、

ベストタイミングで声をかけてきた。


「由希子、行けるか?」


……


まったく、愚問ね。


私は笑って言ってやった


「舐めないでよ、あたしは『女優』よ♬」


……


音が聞こえる、

ステージには眩い光が広がっている。



「さぁ、行くわよ」



あたしたちのステージへ!!



煌めく光と拍手が私達を迎えた。


……

………

ーーーー


次回 第10音

「楽しい」







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