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安倍陽太の妖怪事件簿  作者: 未羊


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第9話 狐里管子の事件簿(後編)

 準備に数日を要して、いよいよ管子たちは犯人をとっちめる準備が整う。

 アルバイトのための制服に着替えた管子は、オーナーである女性に声をかける。


「これで準備が整った。今日、犯人は捕まるから安心せい」


「本当に、大丈夫なのでしょうか……」


「なあに、普段は頼りないところもあるが、陽太は妖のこととなると信用できる。まぁ、楽しみにしておれ」


 不安がるオーナーに対して、管子は余裕の笑みを浮かべている。

 その絶対的な自信を目の当たりにして、オーナーは管子のことを信じることにしたのだ。


 そして、この日の管子のアルバイトが始まる。

 しばらくの間は、特になんともなく過ごせていたのだが、ある程度時間の経った頃だった。


「あれっ、管子ちゃん、その髪は……?」


 先輩のアルバイトが管子の髪の毛の異変に気が付いた。ポニーテールにしていた管子の髪が、少しふわっと広がっていたのだ。


(なるほどのう……。こんな小さな変化では、前回は忙しい中で気付けなかったというわけか)


 管子は指摘を受けて、自分が妖の気配を感じ取っていることに気が付いた。あまりにも微弱な変化ゆえに、管子ですらこの状態である。

 だが、このように髪の毛が広がっているということは、妖が近くにいるということである。こうなれば、行動を起こすしかない。


「すみません。お花摘みに行ってきますね」


「ええ、いってらっしゃい」


 管子は先輩に断りを入れて、バックヤードへと引っ込む。

 扉を閉めて視線を向けると、その先には陽太がいた。陽太は管子からの視線を受けて、右手の人差し指と中指を立て、術を使い始める。


「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!」


 九字を切ると、更衣室に結界が張られる。

 次の瞬間だ。


 ドンッ!


 何かがぶつかる音がした。


「かかったぞ。男を入れることになるが、こればかりは不問にしておくれ」


「は、はい。犯人を捕まえて下さい」


 管子からの頼みを聞いて、オーナーは手を握りながら了承する。

 更衣室の扉を開けて中へと入ると、そこにはなんとも不気味な男がのたうち回っていた。


「な、なんだ、こいつは」


垢嘗(あかな)めじゃのう。じゃが、こいつはただの垢嘗めではない。変態趣味が欲望と化し、それが高じて妖にまでなり下がった超ド級の変態じゃ!」


「おぶぅっ!」


 管子がきっぱりと言い切ってやると、目の前でのたうち回っていた男が、言葉の刃の直撃を食らってさらにのたうち回っている。陽太も呆気にとられた表情を浮かべるほどの酷いありさまだ。


「それにしても、妖化したからといって、誰にも気づかれずに入ってきて物を盗って帰るとかできるのか?」


「不可能を可能にしたのが、こやつのド変態たるゆえんじゃな。さぁ、こいつをとっとと封印して、警察に突き出してやろうではないか」


「うぼあぁっ!」


 管子が警察に突き出すと口にした瞬間、不気味な男は管子に向かって襲い掛かる。

 なんと、口から長い舌が飛び出してきたのだ。


「停!」


 だが、その攻撃は陽太の手によってすぐに防がれた。懐から取り出した形代は、勢いよく不気味な男の舌に張りつき、その動きを止めてしまった。


「うぼっ、うぼがが……!」


 飛び出したままの舌が動かなくなってしまい、男は大慌てだ。長く伸びた舌が引き戻せないので、口が開いたままとなっており、なんともマヌケな格好をさらしている。


「まったく、他人の趣味にどうこういうつもりはないんだが、さすがに他人様に迷惑をかけるのはダメだろう」


 陽太は頭をぼりぼりとかきながら、男へと迫っていく。

 男に近寄られるのは嫌なようで、不気味な男はじわじわと後退していく。


「さあ、悪いことをしたんだ。元に戻って、刑務所の中で反省するんだな」


 陽太はしっかりと目を見て伝えると、もう一枚形代を取り出して、男の額に張りつけた。


「封!」


「ぐがっ、ぐぼっ、ぐあああああ……っ!」


 額につけられた形代に、男にまとわりついていた妖気がどんどんと吸収されていく。辺りを満たす妖気が薄くなるにつれて、男の舌も元の長さへと戻っていく。

 すっかりと妖気が消え去ると、男は完全に元に戻り、気を失ってその場に倒れてしまった。


「これにて一件落着ってな」


 この言葉とともに、陽太は形代を手にカッコよく持ち、ポーズを決めていた。これには管子も呆れ果てていた。


 かくして、メイド喫茶の服の窃盗事件は無事に解決した。

 事件が解決するまでの間という契約だったために、管子はメイド喫茶を辞めることになった。だが、その独特な雰囲気で人気となっていたために、先輩のアルバイトたちは必死に引き留めている。熱烈なアピールを受けても、契約だからとすべて断った。なにぶん、管子の趣味ではないのだから。

 すべてが解決し、安倍相談事務所に戻ってきたのだが……。


「ふーんふんふーん」


「なんじゃ、やけにご機嫌じゃのう」


 スマートフォンを覗きながら鼻歌を歌う陽太に、管子は表情をしかめながら声をかけている。


「なあに、無事に事件を解決したんだからな。成功報酬が入ってくるんだから、そりゃ嬉しくもなるさ」


 陽太はスマートフォンを眺めたまま答えている。

 普通ならば自分の方を見て答えるだろうにと、陽太の態度を不審に思った管子は、陽太からスマートフォンを取り上げる。


「あっ、こら!」


 陽太が取り返そうとしてくるも、くるりと躱して、そのまましっぽで床に叩きつけている。

 すぐに立ち上がれないようにした管子は、改めてスマートフォンを眺める。


「な、なんじゃこれは!」


 管子が画面に見たものは、メイド服を着てにこにこと微笑む管子の姿である。


「こんなもの、いつ撮りおった。消す、消してやるぞ!」


「やめろぉっ! 俺の癒しを消すなぁっ!」


 さっさと消してしまおうとする管子だったが、陽太の必死の叫びにより、その手を止めていた。

 写真は消さない代わりに、もっとしっかりと仕事をするように釘を刺す管子だったが、その表情はどことなく嬉しそうに見えたのだった。

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