第8話 狐里管子の事件簿(中編)
「今日からお世話になります、狐里管子です。よろしくお願いします」
潜入調査を開始した管子は、普段の古風なしゃべり方を完全に封印して、女子高生っぽく振る舞っている。
その場にいた先輩たちは、一様にその姿に喜んでいるようだった。目つきさえなければ、ものすごく美人だからしょうがない。
今日から潜入することになった場所は、管子の住む事務所から少し離れた場所にあるメイド喫茶だった。
正直なところ、管子は普段よりも短いスカートに恥ずかしくてしょうがないというもの。しかも、管狐をしまっている管も、仕事中に着用できなくなってしまった。なにせ、スカートの裾から丸見えになってしまうからだ。
ロッカーの中に置いていくことになったのだが、正直おとなしくしているのか不安になっているようである。
(恥ずかしい恰好ではあるが、これも事務所の経営のためだ。我慢じゃぞ、わっち)
最近は自分のことを陽太が聞き入れず、競馬でお金が目減りしている状況だ。なので、管子としてはとても必死である。
そんな中、いよいよバイトが始まる。
最初なので、先輩についてもらいながら一生懸命に接客を覚えていく。元々管狐であったところから妖狐に成長した経験のある管子なので、頑張ることに関してはまったく抵抗がない。
始めてから一時間もすれば、大体仕事について覚えてしまったようである。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
店の入口の扉が開き、次の客が入ってくる。このように挨拶をした次の瞬間、入ってきた人物を見て管子は凍り付いていた。
「よっ、頑張ってるか?」
そう、陽太である。
ただ、いつもと違ってしっかりと服装を整えている。メイド喫茶だからだろうか、若い女性ばかりがいると気合いを入れてきたようである。
その明らかな下心に、管子の口角は引きつっている。
「何をしにきた。仕事をさぼっておらずに、おぬしにできることをすればよかろうが」
イラついた管子は、接客を忘れて陽太にきつく当たっている。
「ほらほらメイドさん。笑顔だぞ、え・が・お」
ところが、まったく怯まない陽太は、管子がバイト中で抵抗できないことをいいことに強く出ている。
わなわなと体を震わせた管子だったが、他にも客がいる状況でキレるわけにもいかない。仕方なく、にっこりと笑顔を見せている。
「陽太、覚えておれ。数日間、厚揚げのステーキじゃからな」
「おい……」
ブチ切れているのを抑えた管子は、陽太にそう告げて仕事を再開していた。
その後も、大した問題もなくバイトの時間は過ぎていく。
オーナーの女性の思い過ごしかと思っていたその矢先だった。
管子よりも先に数名のアルバイトが上がっていったのだが、その時に更衣室から悲鳴が聞こえてきたのだ。
「どうしたのじゃ!」
「俺も行……うべっ!」
「バカもんが! ここは男子禁制ぞ。わっちが行くから、陽太はここを見張っておれ」
「うう、分かったよ……」
管子と同時に陽太が動こうとしたものだから、管子は尻尾を出現させて陽太の顔を思いっきりはたいていた。もちろん、この尻尾は妖の部分なので他人からは見えないので、唐突に陽太が痛がり始めたようにしか見えない。
苦渋の決断で陽太は管子に任せて、ホールの中を見張ることにしたのだった。
管子が事務所の方へと向かうと、事務所の中で女性がロッカーを見ながら震えている。
「おぬし、一体何があったのじゃ。わっちに説明しておくれ」
「あ、あ、うう……」
恐怖のせいか、先輩従業員はうまく言葉にできない状態のようだ。
管子はやむなく、女性のロッカーの中を覗き込む。
「服が消えておるな。このままでは、先輩は帰ることができんのう」
「何があったのですか」
オーナーの女性はなにやら重装備で駆けつけてきた。こんな装備を身につけるために、オーナーは遅れたようである。
「別に危害が加わったわけではない。どうやら、この娘の着替えの服が消えてしまったようなのじゃよ」
「窃盗ですか?」
「そのようじゃ。一応、警察には連絡を入れておくか?」
「そ、そうですね……。物が盗まれるまでエスカレートしたとなると、ここはやむを得ません……」
実害が及ぶようになってきたことで、オーナーは仕方なく警察を呼ぶこととなり、この日の営業を強制的に終了させるしかなくなってしまった。
その後、警察に事情を説明して防犯カメラをチェックするも、誰かが侵入してきたような形跡はない。ところが、女性は確かに服をロッカーの中にしまっていた。だというのに、どこを探しても服は出てこない。なんとも不可解な事件である。
警察が唸っている間、管子はひょっこりと抜け出して陽太に耳打ちをする。
「おぬしも、感じておるよな」
「ああ。この事件の犯人は妖だ。事務所の扉を開けた後に、妖の気配をビンビンと感じたぜ」
「じゃよなぁ……。となると、ここはひとつ手を打つしかなさそうじゃな」
事務所の方へと向き直った管子は、なにやらにやりと笑っている。
結局ろくな証拠も出て来ることなく、警察は首をひねりながら帰っていく。
そして、関係者もいなくなったところで、管子と陽太がオーナーへと声をかける。
「ここはひとつ、わっちらに任せてみんか?」
「……はい、お願いします」
不気味な事件のせいで藁にもすがる思いのオーナーは、改めて管子たちに頭を下げたのだった。




