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安倍陽太の妖怪事件簿  作者: 未羊


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第4話 安倍陽太という男(前編)

 安倍陽太は、小さい頃から人には見えないものが見えていた。

 自分には見えているのに他人には見えていない。そういうことに気が付かないで指摘して、同級生だけではなく近所の人たちからも気味悪がられていた。

 両親に尋ねてみても、嫌悪の目を向けてくるだけで、ちゃんとした回答は返ってこない。

 陽気だったはずの少年は、次第に心を閉ざしていっていた。


 その後も、小学校、中学校、さらには高校と誰とも友だちといえる存在もなく、固く心閉ざしてしまっていた陽太は実に孤独な少年時代を過ごしていた。

 大学生となった孤独な彼の転機になる出来事があった。

 それは、とある動画の存在だった。

 動画サイトでたまたま見かけたその動画で出てきたものに、陽太は強く惹かれた。

 何かを感じ取った陽太は、その動画に出てきたものを片っ端から調べて回った。

 休日はお寺へと出かけては精神的な修業を積み、必要な知識を学んでいった。


 そんなこんなで、気が付けば大学を卒業して、そこそこの会社に就職していた。

 描いたものを現実にできないまま、気が付けば陽太は二十八歳を迎えていた。


 そんなある日のこと、霊場として有名な山林へとやって来る。

 毎日の業務に忙殺されていたために、気分転換も兼ねて静かなところへとやって来たのだ。

 山林の遊歩道を歩いていると、陽太の耳になにやら動物の鳴き声が聞こえてくる。

 なんだろうかと思って、遊歩道を外れて、声の聞こえる方向へと向かっていく。

 かすかな獣道のある程度の山林の中を分け入っていくと、少しだけ開けた場所で、地面に横たわる狐を見つける。

 思わず駆け寄ってしまった陽太が確認すると、その狐はトラばさみという狩猟罠にかかっていた。

 陽太はすぐに周囲を見回し、いい感じの棒を見つけると、罠へと突っ込んでこじ開けようとする。複数本をねじ込んで、てこの原理で動かすと、ようやくどうにか罠を外すことができた。

 足にはやはりしっかりケガができていたが、下手に触るわけにはいかない。悩んだ陽太は触れないように気をつけながら、不器用にもハンカチで傷口を覆ってその場を足早に立ち去った。

 触れたわけではないものの、狐に近付いたとあれば、このままでいるわけにはいかない。陽太は足早に蛇口のある場所に向かい、しっかりと手を流水で洗い流していた。

 これ以上はいられないと思った陽太は、やむなくそのまま帰宅の途に就いた。


 それから数か月が経過する。

 相変わらずの残業まみれの日々に、陽太は疲れて家に帰ってくる。

 玄関を開けて、家の中に入ると部屋の明かりをつける。

 次の瞬間、陽太はそこにいたものに驚いて大げさにしりもちをついてしまう。そこにいたのは狐。ちゃんと完璧に戸締りをして出てきたというのに、どういうわけか部屋の中に狐がいたのである。


「ど、どこから入ってきた?!」


 当然ながら、陽太は狐に声をかける。


「なんじゃ小童。わっちを見て驚き申したか」


「しゃ、しゃべったぁっ?!」


 ぺろぺろと前脚をなめながら狐が言葉を話すものだから、陽太はしりもちをついたまま、後ろへと下がってしまう。


「まったく、助けてもらった礼をしに来たというに、そこまで驚かれると、わっちも傷つくというものじゃぞ」


「た、助けた?」


「気が付かぬか? わっちの足を見てみぃ」


「あっ、ハンカチ……」


 目の前の狐の後ろ脚に、見覚えのあるハンカチが巻かれていたのだ。


「わっちは管狐。あの日、山で遊んでおったら、うっかり罠にはまってしもうてな。いやぁ、お前さんのおかげで助かったというものじゃ」


 目の前の狐は、自己紹介をしながらあの日のことを話している。

 だが、その自己紹介を聞いて、陽太は目を白黒とさせている。


「く、管狐? ってことは、お前は妖怪なのか」


「そういうことじゃの。あのまま動けなくなるかと思うたんじゃが、まさかわっちを見ることができる人間に会うとはな」


「そんな妖怪が、何をしに来たんだよ」


「言うたじゃろうが、礼をするためじゃとな」


 狐はにっこりと笑っている。

 一方の陽太はまったく反応できないでいる。それだけ、目の前で起きていることが信じられないのだ。


「ふむふむ。どうやらおぬしは、見込みがありそうじゃな」


 狐はじっと陽太を見つめている。

 そうかと思うと、ボフンという音を立てて、何かに姿を変えたようだ。


「うむ。この姿であればおぬしの手伝いができるじゃろう」


「なっ……」


 目の前に現れたのは、黒髪ロングの美少女だった。ただ、目はつり上がっているので、きつい印象を与えそうな顔をしている。


「狐里管子、そう名乗るとするかのう」


「こ、狐里、管子?」


「うむ。わっちの人間の時の名前じゃな。狐のままでは、妖怪のままでは手伝いができんし、実体化しては他人をビビらせる。ならば、人型を取るのが一番というわけじゃ」


「は、はぁ……」


 目の前で起きていることが信じられず、陽太は乾いた返事しか出てこない。

 非現実のことばかりで、目の前のできごとを直視できていないのだ。

 だが、幼い少女となった狐を追い出すこともできず、陽太はやむなく管子を受け入れることにした。


 これが、安倍陽太と狐里管子の出会いである。

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