第23話 陽太と管子(中編)
「縛!」
陽太は一目童子の動きを封じようと、形代を投げつける。両手に二枚ずつ、合計四枚の形代だ。
「ふん、この程度で我を封じれると思っているのか」
自分めがけて飛んでくる形代にも、一目童子はまったく慌てる様子はない。拳を振り抜き、形代を妖気で粉砕して回っている。
元の状態に戻っても、やはり鬼は強力なのだ。
とはいえ、そんなことで動揺する陽太ではなかった。これまでのことで、簡単に通じるわけはないことは分かっているのだから。それでも使うあたり、陽太には策があるのだろうか。
陽太と一目童子の間では、緊迫した戦闘が続けられている。
その頃、陽太から菅子を任された結女は、瀕死の管子をしっかりと抱きしめている。
「しっかりして下さい、管子先輩」
自分の糸を使い、必死に傷の手当てをしているのだが、思った以上に傷が深くてまったく役に立てていない。
このままでは管子が死んでしまうと、その表情はすっかり青ざめている。
「まったく、わっちのためにそこまで心配してくれるとはなぁ……」
「当たり前じゃないですか。所長をかばって死にかけているんですもの。心配するに決まっています」
「そっか……」
泣きそうな表情を見せている結女の顔を見ながら、管子は顔を背けてしまう。
「わっちのことなら、心配せんでいい。こうでもせんと、あやつの力は引き出せんかったからのう。……さぁ、戻れ。わっちの子たちよ」
管子がそう言いながら弱々しく鳴くと、一目童子に吹き飛ばされた管狐たちが一斉に戻ってくる。
戻ってきたかと思えば、どんどんと管子の体の中へと吸収されていく。それと同時に、管子の体がみるみる癒えていくではないか。
「えっ、これは?!」
結女が驚く目の前で、管子の傷はすっかり良くなってしまっていた。どういうことなのか、まったく理解できない。
「この管たちは、わっちの力をもしものために分離しておいたものじゃよ。まさか、こんなところで使うことになるとは思わなんだがな」
そう、管子が使役してきた管狐たちは、子どもではなく管子の力を管狐として分離していたものだったのだ。大ケガをした時でも、素早く自分の傷を癒せるようにと保険をかけていたのだ。
おかげで、見た目のケガはすっかりと治ってしまった。
「あたたたた……。さすがに動くことは叶わんのう。さぁ、結女や。陽太と一目童子の戦い、特等席で見守ろうではないか」
「え、えっと……。分かり、ました……」
管子の態度に戸惑いながらも、まだ重傷状態の管子を抱え、結女は陽太の戦いを一緒に見守ることにしたのである。
陽太は形代を手に、一目童子といい勝負をするようになっていた。先程とはまったく違う動きを見せる陽太に、一目童子は驚きを隠せない。
「貴様、これほどまでにできるとは、一体何をした!」
「さあな。俺も分からねえよ」
思った以上に粘られていることに、一目童子は焦りを見せている。
今まではどんな相手だろうとせいぜい数発あれば沈めてこれたがゆえに、苦戦したことがない。ここまで長引いた戦いというのは経験がないゆえの反応である。
そんな中、頭に来た一目童子は、思いっきり陽太に向けて拳を突き出す。
「おっと」
だが、右ストレートもあっさりと躱されてしまい、一目童子は怒りを隠せない。
「矮小なる人間ごときが、ここまで我を怒らせるとはな!」
一目童子は、両足を開いて全身に力を籠め始める。確実に陽太を消すために、力を集中させているのだ。
「早々に死ねばよかったものを! その身、二度と拝めぬように消し炭にしてくれる!」
ぐんと、一目童子は体を沈みこませる。
その瞬間を待ってましたとばかりに、陽太が一度形代をしまい、印を結び始める。
「はっ、待ってたぜ、この瞬間をよぉっ!」
陽太は九字を切って、術を発動させる。
「封!」
陽太が叫ぶと、地面に星形の文様が浮かび上がる。そう、五芒星だ。
「なっ、これは!」
「俺がただ動き回っているだけだと思ったか! 動きながら俺の力を込めた石を置き、その中心にお前が移動するように仕向けていたのさ!」
なんとも策士である。
だが、この程度で一目童子の動きを封じれるとは思えない。実際、一目童子の妖気は強まったままだ。このまま動かれれば、この五芒星の結界は簡単に破られるだろう。
そこで、陽太はもうひとつの保険をかけておいた。
「この程度で我の動きを封じれると思……、なんだ、体が動かぬぞ」
一目童子が必死に動こうとするも、その体が思うように動かなかった。これでは力が十分に発揮できない。
「お前の目には見えないだろうが、肩甲骨の間くらいに違和感はねえか?」
「何かが、張りついている?」
陽太に言われた一目童子は、神経を集中させる。すると、背中に何かがある違和感を覚えた。
「そうだ。さっき、隙だらけだった時に、形代を一枚張らせてもらった。地面の五芒星と連動をして、お前の動きを阻害しているんだよ」
種明かしをした陽太は、素早く畳みかけるべく、形代を取り出す。
一目童子の力からすれば、この程度の阻害など、一時的でしかないからだ。わずかな隙があるうちに決着をつけるしかない。
「この程度、こうだ!」
一目童子は自身の妖気を炎のように変化させ、背中の形代を焼き捨てる。
阻害が緩くなったことで、動きがかなり軽やかになる。
「お前の思い通りにはさせん。我は最強の妖なのだ!」
「そうかい。ならば俺はお前を封じて、最強の陰陽師になってやらあっ!」
陽太と一目童子の、男同士の意地が、互いの技となって放たれる。
陰陽師と妖の対決。はたしてどちらに軍配が上がるのか。眺める管子と結女は息をのむ。




