最終話 陽太と管子(後編)
「うおおおおおっ!!」
形代を投げつけ、陽太は最後の賭けに出る。
一目童子も最強の妖である鬼としての意地を見せつけるべく、五芒星の結界の中でも陽太に対抗すべく動いている。
管子と結女が見守る中、二人の男の意地がぶつかり合う。
地面に拳を叩きつけ、砕けた地面に妖力をまとわせて飛んでくる形代をまとめて叩き落としている。結界の中でもこれだけ動けるあたり、最強の称号はだてではない。
だが、いかんせん防御方法が悪かった。
「むっ、どこだ!」
陽太から視線を外してしまったのだ。
そう、この隙を生み出すために、陽太は大量の形代を一気に飛ばしたのだ。まとめて対処せざるを得ない状況にして、自分から目が逸れるように仕向けたのだ。
「ここだよ」
「そこか!」
声が聞こえたので、一目童子は振り向いて拳で一突きする。
だが、これはフェイク。
形代を術で自分に化けさせて、一目童子の攻撃を空振りさせたのだ。
「ひゅ~、この結界の中でもこれだけ動けるとは、さすがは最強の妖というだけあるな」
「くそっ、どこだ!」
声はするというのに、肝心の陽太の姿が見えない。一目童子は辺りをきょろきょろと見回している。
「悪いが、これで終わりだ!」
陽太の声に反応して、一目童子が振り返る。その瞬間、陽太の形代が一目童子の額に炸裂する。
「封っ!」
額に形代が張りついた瞬間、陽太は術を発動する。
「ぐおあああああっ!」
渾身の力を込めた術に、一目童子は声を上げてしまっている。それだけ、この一撃に陽太がすべての力を乗せていることが分かる。
ところがだ。封じる対象である一目童子は、なかなかにしぶとい。
封印の術を発動させれば、これまでの妖は一瞬で形代に取り込まれていたというのに、一目童子はしっかりと耐えている。苦しそうな声を上げるも、現世に留まり続けているのだ。
「このまま、封じられてたまるものか! お前も、道連れだぁっ!」
一目童子は完全に封じられる前に、陽太を殺して最後の意地を見せようとしている。
右の拳を振り上げて、陽太へと一撃を食らわせようとしている。だというのに、陽太は動かない。
振り上げられた一目童子の腕は、ぴたりと止まってしまった。
「なっ?!」
「はっ、さっきの幻がただの幻だと思ったか。あれを拳で打ち抜いた時点で、お前の負けは決まっていたんだよ」
「くそがぁっ!」
そう、一目童子の右腕は、先程の形代を打ち抜いた時に、破片がびっちり張りついていたのだ。そのことにより、先程の封印の術の影響を受けて動かなくなっていたのだ。完全にしてやられた形である。
「この我が、我が矮小な人間に負けると、……負けるというのかあっ!」
「ああ、その通りだ。だが、あんたは強かった。あばよっ!」
一目童子が動く他の部分で攻撃しようとするも、時すでに遅し。陽太のとどめの形代を受け、封印されてしまったのだった。
その場には、一目童子の名を記す文字の入った形代がひらりと舞い落ちた。
陽太はその形代を拾い上げると、そっと胸のポケットにしまった。
くるりと振り返った陽太は、管子と結女の方へと振り返ると、勝利のVサインを掲げて笑っている。
「まったく、無茶をしよるわい」
「ああ、よかった。所長が、勝ったんですね」
無事な陽太の姿を見た管子と結女は、ほっとした表情を浮かべて、瞳には涙を浮かべている。
「やっぱ無事だったか、管子。今までも図太く生きてきてたから、多分、大丈夫だとは思っていたがよ」
「このうつけものがーっ!」
陽太の言い方が頭に来た管子は、飛び上がって前脚で陽太の顔を思いっきり引っかいた。
「あたたたた……」
「管子先輩、まだ本調子じゃないんですから、動かないで下さいよ」
「すまんなぁ、結女。このうつけのせいでつい頭に血がのぼってしもうたわ」
「おい、俺の心配もしてくれよぅ……」
一目童子との死闘を済ませ、管子に顔を引っかかれた陽太は、二人のやり取りに不満があるようである。
「知りません。女性に対してその物言いは、私としてもいただけませんからね」
「おいおい……」
ナイス判断で一目童子を討伐した陽太だったが、どうやら女性たちに対しては判断をミスしたようである。
結局、二人の怒りを買ってしまった陽太は、その日の間、一切口を聞いてもらうことができなかったのである。
まったく、最強の妖を封じた陰陽師も、女性には勝てないようである。
一目童子との戦いから、四日が経過する。
「よう、管子。体の調子はどうだ」
「うむ、すっかり良くなったわい」
「まったく、俺を助けるためとはいえ、無茶をしやがって。一歩間違っていたら、消滅していただろうがよ」
再び女子高生の姿を見せた管子に、陽太は声をかけている。
さすがは長い時間を生きてきた妖ゆえに、その回復力は大したものだ。すっかり以前の状態に戻っており、今日から仕事の再開である。
「さあ、事務所を開けるとしようか」
「そうじゃのう。世の中には困っておる人がたくさんおる。わっちらの手で、少しは救えるといいのう」
「おう!」
陽太と管子は、事務所の入口の扉のカギを開ける。
「安倍相談事務所、今日から営業再開だぜ」
まぶしい太陽が差し込む中、陽太と管子は堂々と玄関に立つのであった。
― 安倍陽太の妖怪事件簿・完 ―




