第2話 閑古鳥の鳴く事務所(中編)
「さて、お嬢さん。お悩みがあれば、この安倍相談事務所の所長、安倍陽太がお伺いいたしますよ」
(お前さん、一体誰じゃ?)
キラキラとした光のエフェクトでも出ていそうな雰囲気で話す陽太を見て、管子が思わず心の中でツッコミを入れてしまう。いつも一緒にいるからこそ、誰だこれになるわけである。
当の陽太は、管子の様子に気が付くことなく、キラキラとした笑顔を依頼者に向けている。
「いいかげんにせんかい。そんな貼りつけたような笑顔をされては、おなごも余計に警戒するというものじゃぞ。さぁ、わっちに話してみるとよい」
「お、おいっ」
管子に話を聞く役目を奪われてしまい、陽太は思わず身を乗り出してしまう。
ところが、女性は管子のことを信じて、依頼の内容を話し始めた。その様子を見て、陽太は仕方なくソファーにおとなしく座り直した。
「……というわけなんです」
「はぁ……。それはちょっくら、普通の人間じゃあ無理ですな」
「そ、そんな!」
陽太の反応に、女性は泣きそうな表情で叫んでしまう。だが、そんな女性を管子がしっかりと抱きしめている。
「心配は要らぬよ。わっちらに任せておくとよい」
「その通りだ。俺のことは頼りなく映るかもしれないが、やる時はやってきた男なんだからな」
管子の声掛けと同時に、陽太は右腕に力こぶを作ってやる気をアピールしている。
正直なところ、胡散くさすぎる。しかし、藁にもすがる思いでやってきたのだ。女性は信じていないながらも、こくりと頷いている。
「それじゃ準備しますので、終わり次第、案内願えますかね」
「……分かりました。よろしくお願いします」
陽太の声に、女性はこくりと頷いた。
夜道を愛車を飛ばして向かっていく陽太たち。
どんどんと問題の場所が近付くにつれて、管子の髪の毛に異変が現れ始める。
「だ、大丈夫なんですか、これは……」
「心配要りませんよ。このようになるってことは、間違いなく大問題がそこにはあるってことですからね」
「は、はあ……」
陽太の説明がよく分からないので、女性は気の抜けた返事しかできなかった。
車が進むにつれて、管子の髪の毛が段々と広がりを大きくしていく。
「陽太、もうすぐじゃよ」
「あいよ!」
肩幅の倍くらいまで広がった管子の髪は、かなり視界を遮る状態となっていた。
その状態になった管子の合図で、陽太は車を停める。
「うおぅ、こいつぁずいぶんと禍々しい雰囲気だなぁ」
「まったくじゃよ。何をどうしたらこのように呪われるのやら……。娘、一体何があったのだ」
管子が問いかけるものの、女性は黙っている。
「不幸が起きるといっても、これは祟りのレベルだ。遊び半分で起きるようなことじゃない。とりあえず、話にあった人物に会わせてもらおう」
「……分かりました」
女性は観念して、陽太と管子の二人を家の中へと案内する。
女性の家は立派な構えをしており、どうやら資産家のご令嬢といったところのようだ。家の中に入ると執事と思われる男性に出迎えられる。
「お嬢様、どちらに行かれていたのですか。突然いなくなったので、心配いたしましたぞ」
「ごめんなさい」
「おや、そちらの方々は?」
謝る女性の肩を叩きながら、執事は後ろをついてきていた陽太と管子に気が付いた。
「よくぞ聞いてくれました。俺は……」
「安倍相談事務所の安倍陽太と狐里管子ですじゃ。そちらのお嬢さんからの依頼を受けて参りましたですじゃ」
カッコつけようとしていた陽太を遮り、管子が淡々と頭を下げながら自己紹介とやって来た理由を答えている。絶対面倒になると分かっていたからだ。
「……なるほど、あの安倍相談事務所ですか。分かりました、ここからは私がご案内致しましょう」
思い詰めたような表情をして、執事が二人の案内を買って出ている。ただ、男に案内役が交代したことで、陽太は露骨に不機嫌な表情を浮かべている。その様子を見ながら、管子は呆れていた。
「旦那様、失礼致します」
執事が扉をノックしても返事はない。ただ、中からはうめき声のようなものが聞こえてくる。あまりにも異様な雰囲気に、陽太と管子の表情が険しくなる。
扉を開けると、がたがたという酷い物音が響き渡っている。
部屋の中をよく見てみると、ベッドに横たわる男性がロープなどでがんじがらめに縛られているではないか。しゃべるような様子はなく、獣のように唸る声ばかりが響き、縛られながらも激しく暴れている。
「なんてこった。こいつは狐憑きだな……」
「じゃのう。じゃが、かなり強力なもののようじゃぞ。どうにかできるか、陽太」
「はっ、俺を誰だと思ってやがる」
男性の状態を見た陽太は、その状態を一発で見抜いている。同じように見抜いた管子に煽られるも、自分に親指を向けながら、自信たっぷりに答えている。
「して、こやつはどうしてこうなった」
「それが、私にはさっぱり……」
「わ、私は心当たりがあります」
「お嬢様?!」
縛られていることで余裕があるとみるや、管子は執事と女性に対して問い詰めている。執事は首を横に振ったが、女性の方は思い当たる節があるようだ。
詳しく聞けば、先日酔っぱらって帰ってきた際に、よろけて道端にあった祠を壊してしまったのだとか。しかも、酔っていて機嫌が悪くなったのか、さらに足蹴にして跡形もなくなるくらいにしてしまったらしい。
これを聞けば、管子は頭を抱えた。
「あの祠を壊したんか」
「知っているのか、管子」
「……ミームも通じんとはな。まあ、そんなことを言っている場合ではないな」
話をしている間に、男性の暴れ方が異常さを増していた。このままでは、ベッドごと立ち上がりそうである。
危険を感じた二人は、男性の状態を元に戻すために身構える。




