第17話 ライバル出現(中編)
「ふわぁ~。おーっす」
朝になった陽太が所長室に顔を出す。
「おお、やっと起きてきたか、陽太よ」
「ふふっ、おはようございます、所長」
あくびをしながらやってきた陽太を、管子と結女がそろって迎えている。
「あー、絡新婦もうちに居候することになったんだったな。まったく、これじゃうちが妖怪屋敷みたいじゃねえか……」
まだまだ眠たそうな顔をしながら、陽太はいきなり愚痴を漏らしている。
「いいんじゃありませんかね。私みたいな美人秘書がいれば、事務所としては華となるでしょうし」
「なんじゃ、わっちへの当てつけか?」
「あら、管子先輩のことを言っているじゃないですよ」
朝から険悪なムードである。その様子を眺めながら、陽太はやれやれと自分の席に腰掛けている。
その目の前では体系的に対照的な二人の女性型の妖が口げんかを繰り広げている。その光景を見て、勘弁してくれよと心の中で思う陽太である。
机の引き出しから書類を引っ張り出し、陽太は結女に近づいていく。
「おう、雇ってやるからこれを書いてくれ」
「あら、これは……」
「契約書だ。これがねえといろいろ役所が面倒なんでな。管子にもちゃんと書いてもらってるからな」
「面倒じゃが、人間社会で過ごす以上はやむをえん。ほれ、おぬしも書け」
陽太と管子に言われてしまえば、結女は渋々といった感じで契約書に記入を始める。
住所とかどうしようもないところはあるのだが、そこは住み込みということで事務所の住所を書いてもらう。
「うん、これで糸守もうちの従業員だな」
書面をしっかりと確認した陽太は、結女を見ながら伝えている。
「あら。私のことは結女って呼んでくれないんですか」
「知り合ったばかりのやつを名前で呼ぶかよ。お前も俺のことを所長って呼んでるんだ、これでも十分だろうが」
「そうじゃぞ。絡新婦って呼ばれんだけでもありがたく思え」
「分かりましたよーだ」
結女は不満そうではあるが、陽太の近くで過ごせることになっただけでもとりあえずよしとしたようである。
それから数日が経過する。
相変わらずの閑古鳥っぷりに、暇すぎて完全に陽太はだらけ切っている。
「この事務所、こんなに暇なんですね」
「ああ。やはり何でも屋というのは胡散くさいんじゃろうな。裏の業務を知っておれば、そっちの筋の依頼も舞い込むんじゃが、妖というのは目立たんからのう」
「確かにそうですね。私のように人間社会に普通に溶け込んでいることも多いですからね」
「あれだけ人をさらっておきながら、よくそんなことが言えるわい」
管子と結女の口げんかはもはや日常茶飯事だった。
陽太を狙うのに管子が邪魔な結女と、人間社会でやらかしてくれている夢を信じられない管子。なんとも相性は最悪である。
二人がにらみ合う中、事務所の呼び鈴が鳴る。
「おっ、客人じゃの。出迎えに行ってくるわい」
呼び鈴が鳴ればすぐに仕事モードになる管子。さすが行動が早いというものだ。
出遅れてしまった結女は、仕方なく台所に行って、客人用のお茶を淹れることにした。
だらけていた陽太もしっかり体裁を整え、客人を出迎える。
やってきたのは陽太よりも少し年齢が上の男性のようだった。おかげで陽太のやる気はあまりよろしくない。
「さぁ、おかけになって下さい」
「はい、失礼致します」
とはいえ、仕事は仕事だ。陽太はちゃんと客対応をしている。
客人が席に着くと、結女がお茶を出している。
「さて、早速ですけれど、ご相談の内容を窺ってもよろしいでしょうか」
「はい。私はこのような者でして……」
陽太が相談を始めると、相談者の男性は名刺を出してきた。名刺を受け取った陽太は、書かれていた内容に驚いている。
「なんと、芸能事務所の方ですか」
名刺に書かれていたのは、結構大手の芸能事務所の名前だった。そんなところの人物が、一体こんな泡沫事務所に何を相談しに来たというのだろうか。
「最近、酔っ払いが絡んでくるようになりまして、うちのアイドルたちがとても怖がっているのですよ。このままでは芸能活動に支障が出るようになってしまいます。どうか、助けていただけないでしょうか」
かなり深刻な問題のようだった。
だが、普通に考えれば何でも屋である陽太たちのところに持ち込むような案件ではない。普通の酔っ払いであれば、警察や警備員で事足りるからだ。
となると、考えられることはひとつ。
「その酔っ払い、お酒を飲んだような形跡はないんですね?」
「え、ええ……。うちのアイドルたちから離れると、なぜか酔いは醒めているんですよ。中には下戸の方もいらっしゃいましたので、私どももものすごく困っております」
話を聞いた陽太たちは、すぐにピンときてしまう。間違いなく、これは妖の仕業だと。
ただこれだけでは情報が足りなさすぎる。
問題の妖が、どこにいるのか。それを突き止めないと根本的な解決にはなりはしなかった。
「分かりました。依頼はお引き受けします」
「あ、ありがとうございます」
「その代わり、ちょっと俺たちの頼みも聞いてもらいたいんですよ」
依頼を受けてもらえて、相談者はお礼を言うのだが、引き換えになにやら条件を持ちかけているようだ。
問題を解決するための策として、陽太は一体何を持ちかけたというのか。




