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安倍陽太の妖怪事件簿  作者: 未羊


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第16話 ライバル出現(前編)

 絡新婦(じょろうぐも)の一件がようやく解決した。

 病院と警察からいろいろと事情を聞かれたものの、妖の仕業とあってはまともな説明ができるわけもなく、解放された時には陽太も管子もぐったりしていた。


「やれやれ、妖関係のことだから、説明がどうもうまくできねえ……」


「現場に糸が残っていたおかげで、どうにかわっちらの犯行でないことは認めてもらえたが……。まったく警察は本気で勘弁じゃよ」


 やつれた表情で、車を運転してどうにか事務所に戻ってくる。

 ところが、事務所の扉に触れた瞬間、陽太は違和感を覚えた。


「どうしたのじゃ?」


「カギが、開いている……」


「むむっ。どういうことじゃ?」


 なんということだろうか。しっかりとカギを閉めて出てきたはずなのに、それが開いていたのである。

 管子もカギをかけてから追いかけたと証言しているため、陽太は訝しんで顔を歪めてしまっている。


「集中して確認してみれば、妖気がこびりついておるの。妖の仕業か」


「なんてこった。妖の退治をしている事務所に妖が侵入したなんて、シャレにならねえぞ」


 管子がドアノブを見てつぶやくものだから、陽太は慌てて玄関を開けて中へと入っていく。

 よく見てみると、家の中の明かりもついている。間違いない、侵入者がいる。陽太と管子は、警戒しながら事務所の中を進んでいく。

 やがて、特に気配を強く感じる所長室兼応接室へとやって来る。入口の扉の脇にそれぞれ陣取ると、飛び込むタイミングを窺う。

 顔を見合わせてこくりと頷くと、陽太が扉を開けて一気に飛び込む。


「人の事務所に忍び込むたぁ、どこの妖だっ!」


 形代を構えて飛び込んだ陽太と管子の前にいたのは、なんとも信じられない人物だった。


「あら、おかえりなさい。戻ってくるのを待っていたわよ」


「なんでおぬしがここにおるのだ。逃げたのではなかったのか」


 不法侵入をしたというのに平然と出迎えた女性に、管子は怒りに満ちた表情を向けている。

 そう、逃げたという言葉の通り、そこにいたのは先程対峙したばかりの絡新婦だった。

 なんということだろうか。図太くも陽太の事務所に平然と忍び込んでいたのである。しかも、テーブルの上には料理が並んでいるというおまけつきである。これには二人揃って信じられないという気持ちでいっぱいだった。


「逃げたわよ、確かに。でも、あなたたちを見て、気持ちを入れ替えることにしたの。私も、普通の人の世で暮らしてみようとね」


「あのなぁ……」


 あまりにも堂々とした振る舞いに、陽太は顔を押さえてしまう。予想もしなかった状況に、脱力感を覚えたためだ。


「だって、陰陽師と妖狐が一緒に暮らしているだなんて、普通はあんまり考えられないでしょ。式神として使役することはあってもそれは主従関係だし、あなたたちのような対等な関係じゃない。だから、興味を覚えたのよ」


「おぬしなんぞ、誰が認めるというのじゃ。人を惑わし食らうような妖など、存在するだけで迷惑じゃよ」


 あーだこーだ抜かしてくる絡新婦の言葉に、管子は厳しい言葉を浴びせている。

 ところが、まったく絡新婦は堪えていない。けろっとした表情で管子に目を向けている。


「あなたも妖なら、その性質はよく分かっているはずよ。あなたがわざわざにおいをたどって私たちを追いかけてきたようにね」


「ぐぬぅ……」


 絡新婦に痛いところを突かれて、管子はまったくぐうの音も出なかった。


「そういうわけで、私もこの事務所で働かせてもらうわよ。私はクモを使役できるから、情報収集には長けているの。ちんちくりんな妖狐と比べても、役に立つと思うんだけど。」


「ぐぬぬぬ……」


 好き勝手言われて、絡新婦に完全に言い込められてしまっている管子である。悔しくて歯ぎしりをするばかりだ。

 だが、話を勝手に進められては困ると、陽太も絡新婦に対して文句を言おうとする。


「おいおい、勝手に居座ろうとするんじゃねえ。ここの主は俺だぞ。第一、お前は俺を木偶の坊にするつもりだったんだろうが」


「ああ、そうだったわね。でも、さっき言ったとおり、私は心を入れ替えたの。あなたが私の伴侶として、ふさわしいか見てみたいからね」


「どこまでも勝手なことを……」


 陽太が文句を言っても、絡新婦はどこ吹く風。妖はフリーダムのようである。

 完全に絡新婦は居座る気満々。困った管子は陽太に近付いていく。


「こうなると、こやつはてこでも動かんじゃろう。どうせいつか飽きるじゃろうから、このまま置くしかあるまい」


「うぅ、そ、そうだな……。はあ」


 もう追い出すのは無理と判断した二人は、やむを得ず絡新婦を受け入れることにした。ただし、絶対に仕事の邪魔をしないことを条件とした。


「ありがとう。そうそう、名前があった方がいいわね」


「言っておくが、俺の名字は名乗らせねえからな」


 名前を決めようとした絡新婦に、先にしっかりと釘を刺しておく陽太。これには思わず残念そうな顔をしている。


「しょうがないわね。糸守結女(いともりゆめ)とでもしておきましょうか」


「どっからその名が浮かんだんだかなぁ。管子も似たような感じだったし、まあ、詳しく聞かねえ」


「これからよろしく頼むわね。それじゃ、冷めないうちに食べてちょうだい」


 なんだかんだといいつつも、結局のところ、絡新婦改め結女を事務所に迎えることになってしまった。


 ここからは激しい女の戦いになるのだが、陽太はまったく考えていなかったようだ。

 そして、その戦いは、意外にもすぐに始まった。

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