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安倍陽太の妖怪事件簿  作者: 未羊


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第12話 祟り神は最強の守り神(後編)

 しばらくすると、使用人が平野親子を呼びにやって来る。


「旦那様、お嬢様。準備が整いました」


「そうか。それで、頼んでおいたものは持ってきてくれたかな?」


「えと、はい。いなり寿司ですよね。この通りお持ちいたしました」


 使用人の呼び掛けに反応した父親が確認をすると、使用人はラップのかけられたいなり寿司を取り出している。

 その瞬間だった。


「わっ!」


 突然、いなり寿司が置かれたお皿が宙を舞い出したのだ。

 平野親子たちには、超常現象にしか見えないのだが、陽太と管子にはその詳細な様子がしっかりと見えている。

 解放したばかりの狐が、しっぽに乗せて奪い取ったのである。

 驚いて眺める平野親子の前で、地面に置かれたお皿の上からいなり寿司がどんどんと消えていく。大好物を目の前にして我慢のできなかった妖狐は、むしゃむしゃと嬉しそうな顔でいなり寿司を頬張っているのである。

 さすがに何もないのにどんどんと消えていく光景は、ホラーそのものという感じだった。


「やれやれ……。わっちもじゃが、本当に妖狐はいなり寿司が好きよなぁ」


「だなぁ。お前も油揚げはよく食べてるもんな」


「うるさいわい」


 陽太がツッコミを入れれば、管子は体をくの字にして怒っている。その様子を見ていた平野親子は、それはおかしそうに笑っていた。

 落ち着いたところで、陽太たちは祠の完成と平野父の回復を祝した食事会のために家の中へと入っていく。

 その動きに気が付いた妖狐は、少し寂しそうにその姿を見つめていた。


 食事会では、普段はあんまり食べることのない食事に陽太は大はしゃぎ。その食いっぷりを管子が冷めた感じで見つめている。

 カッコつけることも忘れるほどに料理に浮かれている陽太に、管子はついつい口を出してしまう。


「ほれ。急いで食うのもよいが、もう少しよくかんで食え。そんな食いっぷりでは、のどに詰まらせるぞ」


「うるさい。普段は油揚げや厚揚げのステーキだからな。こういうものは食える時に食わねえと」


「気持ちはわかるが落ち着け」


「うるさっ、ぐっ!」


 管子が言っているそばから、陽太はのどに詰まらせかけている。管子が慌てず見えないしっぽで一発陽太の背中を叩けば、それだけですっかり回復してしまう。さすがは妖狐である。


「じゃからゆうたろうが」


「お前がうるさいからだ。まったく……、がつがつ」


 管子がそれ見たことかと声をかければ、陽太は完全に管子のせいにして、再び料理を品なくかき込んでいた。

 管子がやれやれと見ていると、女性が二人に近付いてきた。


「ふふっ、喜んでいただけて嬉しい限りですね」


「いえ、俺のような者までこのような席に招いていただけて、感謝を申し上げますよ」


 女性の声を聞いた陽太は、すぐさま姿勢を正してキザったらしく決めている。さっきまでだらしない姿をさらしておきながら、よくやれるものだ。この陽太の変わり身の早さには、管子は嫌な表情を浮かべ、女性はおかしくて必死に笑いをこらえている。


「あっ、そうです。ちょっと頼みごとをしてもよろしいでしょうか」


「はい、なんでしょうか。できることであればお引き受けいたしますよ。なんたって、俺たちは便利屋ですからね」


 女性が改まって頼みごとをしようとすると、陽太は右手の親指と人差し指を直角にして、あごに添えるような形でポーズを決めている。管子は苦い表情が固まりそうなくらいに呆れ続けている。

 しかし、このような席に招待して持ったお礼もあるので、陽太のことはとりあえず置いておいて、管子も話を聞くことにした。


 食事会を抜け出した三人は、再び先程の除幕した祠へとやって来る。

 祠の前で寝そべっていた狐は、気配を感じて体を起こしている。


「おやっ、反応がいいな」


「そりゃそうじゃろう。同類が来たんじゃからな」


「狐里さんって、妖狐なんですか?」


「そうじゃよ。元は管狐じゃが、修行をして妖狐として生まれ変わったのじゃ。……うん?」


 女性の問い掛けに答えながら、管子は何か違うものを感じ取った。それによって、なぜ妖狐が体を起こしたのかが分かったようだ。


(なるほどのう……。そういうことか。こやつめ、オスか)


 管子は妖狐の視線の向きを確認すると、すべてを悟ったのだ。さすがは古株の妖。


「どうした、管子」


「いや……。時に、娘は結婚の予定はあるのかえ?」


「えっ、はい。ただ、これといって相手の方は決まっておりませんが……」


「そうかそうか。なら、当分の間は、問題なさそうじゃのう」


 なんとも楽しそうな表情をしてつぶやく管子の様子に、陽太も女性もよく分からなくて首を捻っている。

 そんな中、管子は妖狐に対して視線を向け、にっこりと微笑む。


(よかったのう。おぬしにも、まだ脈がありそうじゃぞ)


(ケーン!)


 どうやら、管子の考えが伝わったようで、妖狐は嬉しそうに鳴いている。

 ずっと首を捻っているあたり、陰陽師として活動するようになった陽太ですら、この時の妖狐の行動はまったく分からなかったようだ。


「さて、わっちらはそろそろ戻るとしようか。いつ何時、依頼が来るやも分からんからな」


「って、おい。お前が勝手に予定を決めるな」


「娘、すまんが、少しばかり料理を包んでもらってもよいかの」


「はい、使用人に指示をして、そうさせていただきます。本当に本日はありがとうございました」


 陽太が騒ぐも、話はしっかりとまとまってしまっていた。

 名残惜しいものの、料理を包んでもらった二人は、対照的な気持ちで平野邸を後にしたのだった。

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