第11話 祟り神は最強の守り神(中編)
翌日、陽太は車を運転して、管子とともに先日訪れた平野邸へとやって来る。
「相変わらずの豪邸だな。前回は夜で分かりにくかったが、やっぱりでけぇ」
「うむ。じゃが、さすがにもう怪しい気配はない。無事に祓われたという証拠じゃな」
「失敗してたら、陰陽師は名乗れねえぜ。とりあえず、お嬢さんに会いに行かないとな」
ガードマンに通行許可をもらい、敷地内の駐車場に車を停める。
車から降りる前に、陽太はしっかりとネクタイや髪を直している。相変わらず、若い女性の前ではカッコつけたがるようだ。まったくいつからこうなったのやら。管子はため息をついつい漏らしてしまっていた。
呼び鈴を鳴らすと、依頼主である女性が出てくる。
「ああ、安倍さん、狐里さん、お待ちしておりました」
「またお会いできて嬉しいです」
「ご招待感謝するぞ。このバカタレの言葉は軽く聞き流しておいておくれ」
「おいっ!」
女性が頭を下げて出迎えてくれたので、それぞれに挨拶を返す。あまりにもキザったらしい陽太の言葉にイラついたので、管子はつい憎まれ口を叩いてしまう。
一連のやり取りを見ていた女性は、思わず笑ってしまっていた。
「して、完成した祠というのはどこにあるのじゃ?」
陽太のことは放っておいて、管子は女性に電話で話していた祠のことを尋ねている。
そしたら、女性はなぜか気まずそうに視線を逸らし始めた。なんとも意味が分からない行動である。
しかし、招待した手前、案内しないわけにはいかない。女性は諦めて陽太と管子を祠の場所まで案内することにした。
女性に案内されてやってきたのは、屋敷の敷地の一角だった。そこにはずいぶんと大きなものが、布をかけられた状態で置かれていた。これが建て直された祠だという。
「いやはや、元の位置からここに移設したのか」
「はい。お父さんが壊してしまったことを大変反省しておりまして、お詫びも兼ねて自分で保護すると言い出したんです。それで、元の位置から移設して、屋敷の敷地内に建立してしまったんです」
「なるほどのう。それは間違ってはおらぬと思うよ。どのような形であれ信仰を示すというのであるのなら、低位の神とはいえど、その力を存分に発揮してくれるからのう」
女性の話を聞いて、管子はとても納得している。
だが、同時に警告も行う。
「じゃが、信仰心を失った時、そのしっぺ返しを受けることを十分に理解されよ。崇めれば守り神として益をもたらし、ぞんざいにすれば祟り神として災いを運ぶ。それが日本の八百万というものじゃからな」
「はい、肝に銘じておきます」
しばらくすると、狐憑きから回復した女性の父親が現れる。
「おお、先日はありがとうございました」
「ご無沙汰しております。もうすっかりよろしいようですね」
「ああ。見ての通り、すっかり元通りですよ。いやはや、神仏というものはいかなる時もきちんと向き合わねばならないと学びましたよ。今後は気をつけますとも」
「うむ、殊勝な心掛けじゃな」
女性の父親は、ずいぶんと丁寧な口調で話している。普段はずいぶんと真面目で立派な人間だとよく分かる。
あの日はお酒に酔い過ぎて、ついついため込んでしまっていたものが出てしまったのだろう。なんとも踏んだり蹴ったりだったようである。
そんなわけで、身内だけでのひっそりとした除幕式が行われる。平野家の家族と屋敷で働く使用人、それと呼ばれた陽太と管子の本当にこじんまりしたものだった。
すべてが終わると使用人を家の中へと引き揚げさせ、平野親子と陽太と管子だけがその場に残る。
「で、どうすりゃいいんだ?」
困った陽太は、平野親子に声をかけている。父親と娘は顔を合わせると、父親が陽太へと話しかける。
「私に取り憑いていた神様はどちらに?」
「ああ、ここにいるよ」
狐憑きの原因となった祟り神のことを聞かれたので、陽太は懐から形代を取り出す。そこには狐の模様の描かれており、狐憑きの原因となった文字通り狐の動物霊が封じられている。
「こいつは年月を経て力を得た妖狐じゃ。管であったわっちよりも数段力が強いだけのな。神とは名乗れるようなものではないが、妖狐であればその力は強力じゃ。きちんと崇めてやれば、それなりの見返りはしてくれるぞ」
「そうですか。ですが、きちんと祀ることを約束した以上、解放して下さいますか?」
「ああ、その気持ちは十分に汲み取ったよ。これだけの祠があれば、満足してくれるだろう」
父親の決意を聞いた陽太は、形代を目の前に突き出して、祠に向かって術を使う。
「解!」
形代が爆発して、散り散りになると同時に、目の前に狐が姿を見せる。それは、取り憑いていた時の禍々しいものではなく、比較的どこにでもいそうな狐だった。
ただ、しっぽが二つに分かれており、動物ではなく妖だということがはっきりと分かるようになっていた。
『ケーン!』
解放された妖狐は、嬉しそうに鳴いている。
「そこに、狐様がいらっしゃるのですか?」
「ああ、新しい祠にも満足してくれているみたいだ」
「まったくじゃのう。あの時とは違って、本当に穏やかなようじゃ」
妖狐の姿が見えない平野親子の代わりに、陽太と管子がその様子を伝えている。
嬉しそうだと聞かされて、二人はとてもほっとした表情で祠を眺めるのであった。




