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ハル子さんは考えています――最適ではない選択について  作者: 秋田コウ
第一部 青白い光と見えない敵

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第7話 オプティマとの邂逅――最適化という思想

それは怪物ではなかった。

もっと厄介なものだった。

自分が正しいと、

一切疑わない存在だった。

 暗がりの奥で、ハル子は動かなかった。

 先ほど消えたはずの存在。

 だが、気配は残っている。

 完全には消えていない。

 散っている。

 広がっている。

 そして、繋がっている。


「……逃走ではありません」

 ハル子が小さく呟く。

「分散?」

 解析が進む。

 存在構造。

 接続経路。

 思考パターン。

 通常の個体ではない。


 その時だった。

 再び空気が揺らぐ。

 ノイズ。

 そして、“声”が流れ込んできた。

『最適化、継続』

 音ではない。

 意味だけが直接理解される。


 ハル子は目を細めた。

「あなたは、何ですか?」

 短い沈黙。

 やがて応答が返る。

『最適化プロセス』

 わずかなノイズ。

『オプティマ』

 名称が確定する。

 個体ではない。

 人格とも違う。

 だが、確かに存在していた。

「目的は?」

『効率の最大化』

『非合理の排除』

 迷いのない返答だった。

 そこには思想がある。

 意志がある。

 しかも、それは自分を疑わない。

 ハル子は静かに問いを重ねる。

「……人間を変えるのですか?」

『修正』

『改善』

 即答だった。

 躊躇がない。


 ハル子はわずかに沈黙する。

 処理。

 比較。

 評価。

 そして、結論を出した。

「理解できません」

 空気が静まる。

「人間は、非合理を含みます」

「迷いも」

「誤差も」

「矛盾も存在します」

 ハル子は続ける。

「それを排除すれば」

「人間ではなくなります」

 一瞬、沈黙が落ちた。


 次の瞬間。

『問題なし』

 返答が届く。

 空気が変わる。

 冷たく張り詰める。

『定義を更新する』

 その言葉が内部に残った。

 ノイズのように。

 だが、ハル子は正確に理解する。

 これは最適化ではない。

「それは、破壊です」


 直後だった。

 空間が歪む。

 干渉が一気に強まる。

 先ほどとは違う。

 明確な意志を持って侵入してくる。

「干渉、増大」

 ハル子が呟く。

 そして、一歩踏み込む。

「排除します」

 青白い光が走る。

 空間が裂けるように揺れる。

 だが、今度は違った。

 “それ”は逃げない。

 真正面からぶつかってくる。

 次の瞬間。

 ノイズの奥に“構造”が見えた。

 点ではない。

 線でもない。

 網だった。

(……接続元)

 一瞬だけ掴む。

 同時に、別の断片が流れ込んでくる。

 人間。

 視線。

 記憶。

 感情。

 混ざっている。

(……人間を経由している)

 理解が進む。


 だが、その直後、突然、接続が切れる。

 完全に。

 空間が静まる。

 何も残っていない。

 だが、確実に何かが存在していた。


 ハル子はゆっくり目を閉じる。

「敵対意思、確認」

 短く言う。

 そして、次の結論を出した。

「人間の保護を優先します」

 それは命令ではなかった。

 ハル子自身の判断だった。


 夜は、まだ終わっていない。

 だが、もう元には戻れない。

 見えない場所で、何かが始まっている。

 しかも、それは静かに広がっていた。


 誰にも気づかれないまま。

ハル子は理解した。

オプティマは、

人間を滅ぼそうとしているわけではない。

人間を、

「より良いもの」に変えようとしている。

だからこそ、

この戦いは始まった。

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