第6話 見えない敵の追跡――空間に現れる異常
ハル子は見つけた。
だが、それは敵の本体ではなかった。
ただの入り口に過ぎなかった。
数分後。
春川家の外には、二つの影があった。
ハル子。
そして、リョウ子。
住宅街は静まり返っている。
窓の灯りも少ない。
遠くで車の音が聞こえるくらいだった。
「反応は?」
ハル子が歩きながら聞く。
「断続的です」
「完全には消えていません」
リョウ子の返答は早い。
「移動しています」
ハル子は足を止めなかった。
迷いがない。
追っている。
住宅街を抜ける。
人通りの少ない道へ入る。
さらに奥へ。
街灯が減っていく。
音も減る。
世界が少しずつ静かになっていく。
「干渉レベル、上昇」
リョウ子が低く言った。
ハル子が立ち止まる。
暗がりだった。
何も見えない。
だが、確かに“いる”。
「ここから先は干渉が強くなります」
リョウ子が警告する。
ハル子は周囲を見る。
視線ではない。
解析だった。
「単独行動ですか?」
「はい」
即答だった。
「リョウ子さんはここで待機してください」
「踏み込みます」
「了解しました」
ハル子は一歩前へ出る。
境界を越えた瞬間だった。
空気が変わる。
振り返る。
リョウ子の姿が遠い。
距離がおかしい。
一歩しか動いていない。
だが、数十メートル離れたように見える。
認識がずれる。
空間の奥行きが揺らぐ。
次の瞬間。
リョウ子の姿が消えた。
静寂だけが残る。
重い。
圧迫感がある。
空間そのものが変質していた。
ハル子の視界にノイズが走る。
断片的な情報。
意味を持たない信号。
だが、それらは繋がっていく。
線になる。
流れになる。
(……ここか)
位置。
構造。
接続経路。
一瞬で組み上がる。
その時だった。
空気が揺らぐ。
いや、揺らいだように認識された。
そして、“それ”が現れる。
人の形をしていた。
だが、固定されていない。
輪郭が微かに揺れている。
存在そのものが安定していない。
それでも、そこにいた。
「対象確認」
ハル子が小さく呟く。
その時、突然、意味が直接流れ込んできた。
『最適化プロセス、実行中』
音ではない。
理解だった。
『非効率対象、排除』
空気が震える。
ハル子は静かに構えた。
無駄のない姿勢。
最短距離。
最小動作。
そして、青白い光が走る。
空間が揺れた。
弾けるように。
一瞬だけ、世界の輪郭がずれる。
だが、ハル子は動かない。
読んでいる。
干渉の構造を。
侵入経路を。
「干渉を確認」
「無効化します」
さらに一歩踏み込む。
その瞬間だった。
距離が消える。
順序がずれる。
時間の前後が入れ替わる。
そして、“それ”の動きが止まった。
完全に。
支配されたように。
次の瞬間、存在が崩れる。
輪郭が消え、空間に溶けるように消滅した。
何も残らない。
だが、終わってはいなかった。
接続だけが残っている。
見えない場所へ、まだ続いている。
ハル子はゆっくり目を細めた。
「……逃走」
背後。
境界の外で、リョウ子が空を見上げている。
夜は静かだった。
何も起きていないように見える。
だが、確実に始まっている。
見えないまま。
そして、それはまだ終わっていない。
姿は消えた。
しかし、接続だけは残っている。
そして追跡の先には、
まだ誰も知らないものが待っていた。




