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ハル子さんは考えています――最適ではない選択について  作者: 秋田コウ
第二部 最適化の意志

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第20話 それでも人間であるという結論――最適化への答え

最適化ネットワークとの戦いは、一つの区切りを迎えた。

だが、失われたものがすべて戻ったわけではない。

人は迷い、間違え、遠回りをする。

それでも、自分で選び続ける。

その当たり前を守るための戦いは、まだ終わっていなかった。

 朝。

 街は、静かだった。

 だが、どこか違う。

 わずかなズレ。

 完全ではない。

 だが、戻りつつある。


 祐子が歩く。

 ゆっくりと、周囲を見る。

 人の動きは揃っていない。

 ばらつきがある。

「……戻ってる」

 小さく呟く。

 その声は、どこか柔らかい。

 惣太郎が隣で言う。

「完全じゃないけどな」

 苦笑する。

「まあ、それでいいのかもな」

 祐子が、わずかに笑う。

「そうね」

 ハル子は、静かに歩いている。

 変わらない。

 だが、確実に何かがあった。

 その少し後ろ。

 一定の距離を保って。

 リョウ子が歩いている。

 歩幅は変わらない。

 速度も変わらない。

 周囲のばらつきとは、無関係に。


 その時、一人の男が通り過ぎる。

 少しだけ。

 足を止める。

 考える。

 そして、違う方向へ進む。

 無駄で、非効率だ。

 だが、自然だ。

 リョウ子の視線が、わずかに動く。

 その変化を捉える。

 記録する。

 だが、何も言わない。

 惣太郎が言う。

「なあ」

「これで終わりか?」

 祐子は、すぐには答えない。

 少し考える。

 そして。

「一つは」

 惣太郎が顔をしかめる。

「一つ?」

 祐子は言う。

「全部じゃない」

「残ってる」

 静かに、確信を持って。

 ハル子が答える。

「はい」

「残存ノードを確認しています」

 完全な終わりではない。

 だが、確実に止めた。

 惣太郎が、息を吐く。

「……だろうな」

 そして、空を見上げる。

 晴れている。

 普通の空だ。


「でもさ」

「やるしかないだろ」

 祐子が見る。

 その顔を。

 そして、わずかに頷く。

「ええ」

 ハル子は、静かに言う。

「人間ですので」

 そして。

「守ります」

 その言葉。

 変わらない。

 意味は、少しだけ変わっている。

 惣太郎が笑う。

「相変わらずだな」

 小さく。

 リョウ子が、静かに言う。

「周囲の危険要因は低減しています」

「安定傾向にあります」

 声は変わらない。

 戦闘の時と同じ。

 昨夜と同じ。

 ただ、内容だけが変わっている。

 祐子が、わずかに視線を向ける。

「……そう」

 その一言だけで、十分だった。


 その時、ポケットの中で。

 祐子のスマートフォンが震える。

 止まる。

 祐子が取り出す。

 画面を見る。

 目が、わずかに細くなる。

「……来た」

 低く言う。

 惣太郎が聞く。

「何が?」

 祐子は答える。

「別のエリア」

「同じ兆候」

 空気が、変わる。

 完全に。

 終わっていない。

 むしろ、広がっている。

 ハル子は、すぐに反応する。

「対応可能です」

 リョウ子は、すでに動いている。

 わずかに位置を変える。

 動線を確保する。

 何も言わずに。

 惣太郎が笑う。

「休ませてくれよ」

 立ち止まらない。

 祐子が言う。

「行くわよ」

 迷いはない。

 ハル子は頷く。

「はい」

 そして、静かに付け加える。

「最適ではありませんが」

 惣太郎が吹き出す。

「それ言うなよ」

 笑いが、わずかに広がる。

 ほんの少しだけ。

 軽くなる。

 だが、終わっていない。

 人間は、選び続ける。

 最適ではない選択を。

 非効率な行動を。

 それでも——

 それが、人間だ。

 ハル子は、見る。

 その選択を。

 理解できないまま、守る。

 最適ではないまま、守る。


 歩き出す三人。

 同じ方向へ。

 その少し後ろ。

 変わらない距離で。

 リョウ子も歩く。

 次の選択へ歩き出す。

 その時。

 すれ違った人間が、ほんのわずかに足を止める。

 迷う。

 そして、何事もなかったかのように歩き出す。

 ハル子は、それを見る。

 理解できないまま。

 ただ、観測する。

 リョウ子は、同じ動きで歩き続ける。

 変わらないまま。


 空は、晴れている。

 どこまでも、普通の朝だ。

人間は不完全だ。

迷い、悩み、ときには間違える。

それでも、自ら選び続ける。

オプティマが求めた「最適な世界」とは違う。

だが、それこそが人間なのだろう。

ハル子は、まだ人間を理解できない。

それでも守ろうとする。

理解できないものを守ろうとする、その選択もまた――

最適ではないのかもしれない。

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