悪名2人
更新しました。
翌朝、日の出と共にエイドがギルドの裏手に赴くと、そこにはすでに腕を組んで佇むガレンの姿があった。朝日を浴びるその巨躯は、それだけで圧倒的な圧迫感を放っている。
「遅いとは言わねえが、覚悟はできてるだろうな、小僧」
「はい。よろしくお願いします」
「よし行くぞ」
ギルドの訓練室に着くと同時に、ガレンの拳がその腹部に容赦なく叩き込まれた。
めり込むような衝撃。息を吸うことすらできず、エイドは泥の上に膝をついて激しく咳き込んだ。
「がはっ……!? ごほっ、ごほっ……!」
「反応が遅い。肉体の反応速度なんざ、限界があるんだよ。お前みたいなヒョロガリがまともに前衛を張るなら、体内の魔力を常に循環させ、肉体を内側から強制駆動させる『身体強化』を無意識レベルで発動させるしかねえ」
ガレンは冷酷に言い放ち、エイドの襟元を掴んで無理やり立たせた。
「いいか、心臓や身体の動きに合わせて魔力を動かすんじゃねえ。全魔力を無理やり引きずり回せ。死にたくなきゃ、集中しろ」
それからの数時間は、文字通りの地獄だった。
ガレンから放たれる微量の威圧に晒されながら、エイドは体内の魔力を無理やり頭から爪先、そして再び心臓へと循環させ続ける。少しでも流れが滞れば、ガレンの容赦ない木剣が飛んできた。
集中力を、エイドはここで全て注ぎ込んだ。視界が脱水症状のようにチカチカと明滅し、全身の毛細血管が焼き切れるような痛みに襲われながらも、エイドは必死に魔力の奔流にしがみついた。
「……フン、午前中で潰れるかと思ったが、根性だけはあるな。今日はそこまでだ。残りの時間は、リーダーの仕事をしてきやがれ。訓練の方法は教えたからな。明日からは自分でやれ」
ガレンが木剣を収めた時、エイドは全身から湯気を立てて泥の中に大の字に倒れ込んだ。
昼過ぎ。筋肉痛と魔力疲労で鉛のようになった身体を引きずり、エイドはトトと合流してギルドの受付へと向かった。
用件は、霊峰へ同行してくれる臨時の「魔術師」の募集だ。大金貨5枚という破格の報酬を提示し、受付の掲示板に依頼書を出そうとしたのだが――。
「ええっと……エイドさん。申し訳ありませんが、この依頼、受ける方はいないと思いますよ?」
相談に乗ってくれた受付嬢は、困ったように眉を下げて書類を押し戻してきた。
「どうしてですか? 報酬としては相場よりかなり高いはずですが」
「金額の問題ではないんです。……パーティの構成メンバーに『ガレン』と『トト』の名前が入っていますよね? ファキオの街でこのお二人の悪名……いえ、有名すぎる実力を知らない者はいません。そこへさらにガルバの一件です。普通の魔術師なら『生きて帰れない地獄に連れて行かれる』と思って、誰も近寄りませんよ、あと報酬が高すぎて余計に不安がられてます」
隣でナイフを弄んでいたトトが、「あはは、ボクたち嫌われちゃってるねえ」と肩をすくめた。
エイドは愕然とした。戦力が揃いすぎていることが、逆に新しい仲間を拒む壁になっていたのだ。
「……打つ手なし、ですか」
エイドが頭を抱えると、受付嬢は周囲を気にするように声を潜め、カウンター越しに顔を近づけてきた。
「……エイドさん。これはギルドの公式な斡旋ではありませんが。裏切る心配がなく、どんな危険な場所にも文句を言わずに同行し、かつ確かな魔術の腕を持つ戦力を手に入れたいのであれば……『奴隷』を買い受ける、という選択肢もありますよ」
「奴隷、ですか……?」
その単語を聞いた瞬間、エイドの脳裏に、前世の現代地球的な倫理観が強烈な拒絶反応を起こした。人間を売り買いする。それに手を染めるのか、という嫌悪感。
「ええ。この街の西区には、訳ありの元冒険者や、犯罪奴隷として売られてきた魔術師を扱う大手の商館があります。手元に資金があるのなら、検討してみる価値はあるかと」
「……分かりました。少し、考えてみます」
エイドは重い足取りでギルドを後にした。
夕方、満身創痍の体と重い割り切れない気持ちを抱え、エイドは拠点にしている宿屋へと戻ってきた。
食堂の椅子に疲れ果てた様子で腰掛けたエイドを見て、厨房から出てきた気風のいい女将さんが、ドスンと温かいスープの皿を置いた。
「あんた、酷い顔してるねえ。ガレンの旦那にしごかれたのかい?」
「それもありますけど……ちょっと、悩み事がありまして」
エイドは温かいスープを一口啜り、その熱さに少しだけ救われながら、思い切って女将さんに切り出した。
「女将さん。この街の『奴隷』って……やっぱり、酷い扱いをされているんでしょうか。実は、パーティの魔術師を探すために、奴隷市場に行くことを勧められて」
女将さんは一瞬だけ驚いたように目を見張ったが、すぐにフッと寂しげに笑い、エイドの向かいの席に腰掛けた。
「なんだい、そんなことで悩んでるのか。あんた、根が真面目で優しいんだねえ。……いいかい、エイド。この街での奴隷ってのはね、綺麗事じゃない。家畜みたいに扱われる奴だっているさ。でもね」
女将さんはエイドの目を真っ直ぐに見つめた。
「理由はどうあれ、一度あそこに落ちた奴らは、自分の力じゃ二度と這い上がれないんだ。買い手がつかなきゃ、鉱山で使い潰されるか、見せ物小屋で死ぬのを待つだけ。……もしあんたが、まっとうな飯を食わせて、戦力として敬意を持って扱うつもりがあるなら、あんたに買われることは、その奴隷にとって『地獄からの救い』になるかもしれないんだよ」
「救い、ですか……」
「そうさ。背に腹は代えられないんだろ? あんたらがこれから行く場所は、生半可な綺麗事で生きて帰れる場所じゃないはずだ。あんたのその優しい財布と大金貨はね、誰かの命を買い取って、新しい生き方を与えるために使うこともできるんだよ」
誰かの命を買い取り、新しい生き方を与える。
女将さんの言葉は、エイドの凝り固まった倫理観に、新しい視点を与えてくれた。
奴隷制度を肯定するわけではない。しかし、この理不尽な異世界で「全員が生きて帰る」という目的を達成するため、そして行き場を失った誰かを結果的に救うためであるならば、その選択から目を背けるべきではない。
一つずつ、課題を解決する。それが自分のやり方だ。
「……ありがとうございます、女将さん。食事おいしかったです。黒鉄の煮込みは最近どうですか」
「聖水がなくなって最近は出してないんだよ。良い解決案があれば教えておくれよ、それと滞在は残り5日の予定で大丈夫かい。」
「また出かける予定ですのでそのままで大丈夫です。
聖水ですか、さすがにそればかりは私では何とも(作れるけども広めるのは禁じられてるから神官様に相談してみよう)」
「そうだわね。まぁ何かわかれば教えておくれよ。」
翌日。エイドの手元には、大金貨27枚。
エイドは覚悟を決め、トトを伴って、西区にある奴隷商館の重い鉄の扉を叩くことになる。
誤字脱字と因果関係に違和感あれば教えてください。
ブックマーク、感想いただけると嬉しいです。
頑張って日々更新をしてますが何とかこの1章を終えたいと考えてます。できれば150話以内に




