独白
更新しました。遅れがちですがもう少し頑張ります。
――ギチ、ギチ、バキィッ!!!
ガレンの常人離れした怪力が、隠し金庫の重厚な鉄扉を強引にへし折った。
めくれ上がった鉄板の向こう側、暗い空間から溢れ出してきたのは、鈍い光を放つ大量の金貨の山と、数々の掠奪の歴史を物語る怪しく煌めく宝石の数々だった。
「うわぁ……すごい額だね。これ、全部あの二人が溜め込んでたんだ」
トトが呆れたように口笛を吹く。ガレンは鼻で笑うと、エイドのマジックバッグへその財宝を躊躇なく流し込み始めた。
「これだけの金をギルドに隠してやがったか。ハッ、立派な『上乗せ報酬』だ。これであいつらの資産は文字通りゼロ、あとはギルドの法でじわじわと干からびるだけだな。」
エイドは、次々とバッグに吸い込まれていく莫大な富を見つめていた。その輝きの裏には、これまでガルバたちが手に掛けてきたであろう、多くの輸送隊や冒険者たちの命の灯火が眠っている。
すべてを回収し、悪意の拠点を完全に処理し終えた4人は、今度こそ張り詰めていた糸を解いた。疲れ果てた身体を引きずってラギの町の宿へと戻り、温かい食事を胃に流し込むと、エイドたちは泥のように深い眠りへと落ちていった。
その頃、ファキオのギルド地下牢。
鉄格子の向こう側、重い鎖と負荷石の重圧と苦痛に耐えかね、ガルバが「殺せ……いっそ殺してくれ……!」と惨めに呻き声を上げている。
その隣で、ロイドは静かに冷たい石壁に頭を預け、天井を見つめていた。
四肢を拘束され、冒険者としての未来も、自らの命も、すべてがここで終わることを彼は理解していた。それでも彼が終始「無言」を貫いたのは、あの教会の地下金庫さえ無事であれば、裏ルートを通じて「彼ら」に金が届く手はずになっていたからだった。
(……やはり失敗したか。さすがはガレンだ。それにトトもいるのだから見逃すはずないな)
ロイドは、自分が育ったあの薄暗い孤児院の風景を思い出していた。
親に捨てられ、飢えと寒さに震える子供たち。まっとうな冒険者稼業の報酬だけでは、彼らの明日のパンすら満足に買えない。その現実を前にした時、ロイドの心は完全に壊れ、そして定まった。
――お金に、善も悪もない。
血に汚れた金だろうが、奪い取った金だろうが、目の前の子供たちの命を繋ぐことができるなら、それは等しく「正しい価値」だ。
最初は、誰も気づかないような小さな掠奪だった。だが、数年前、優秀な前衛でありながらセリアに振られて身を持ち崩し、酒と女と借金に溺れていたガルバを「分け前」で釣って仲間に引き入れたのが、すべての掛け違いの始まりだった。
欲に狂ったガルバが中心となったことで、計画はいつの間にか凶悪な「盗賊団」へと膨れ上がっていった。引き返せない地獄の泥沼に沈んでいることは、ロイド自身が一番よく分かっていた。
――『神よ、我が犯した数々の大罪を、どうかお許しください』
あの日、出発前の教会で、エイドとすれ違い、咄嗟に嘘をついてしまった。俺は孤児院への寄付を済ませた後、独り静かに神官の前で懺悔をしていた。
「なぜ彼ともっと早く出会えなかったのでしょうか。彼がいれば食事の問題も解決できたかもしれない。俺は悪事に手を出さなかったのかもしれない…。だがもう手遅れです。また来ます。またがあれば」
今、思い返せば出発直前にギルドの裏手ですれ違った際、あの優秀すぎる斥候――トトから、すれ違いざまに声をかけられたことを思い出す。
『ロイドさん。――ほどほどにね』
いつもと変わらない、軽い調子の笑顔だった。だからその時は聞き流した。だが、今なら分かる。あいつは、俺が時折見せる奇妙な足取りも、不自然な金の流れも、すべてを最初から掴んでいたのだ。あの言葉は、トトから自分への、最初で最後の「警告」だったのだ。そんな薄寒い実感が、今さらになって脳裏をよぎる。
(神官様……俺は結局、地獄へ落ちるようです。……どうか、あの子供たちだけは……)
金庫がすでに空にされたことも知らず、ロイドは無言のまま、祈るようにそっと目を閉じた。
翌朝。ラギの町の宿でたっぷりと睡眠をとり、体力を完全に回復させた4人は、澄んだ朝空気の中へと足を踏み出した。
「ふぁ……よく寝た。やっぱり、ベッドで寝るのが一番だね」
トトがいつも通りの調子で大きく伸びをし、セリアもどこか吹っ切れたような晴れやかな笑顔をエイドに向けている。
4人は手配された馬に跨ると、ファキオへと向かう街道を並んで進み始めた。エイドの腰には、あのロイドたちが命がけで溜め込んだ富が詰まったマジックバッグがぶら下がっている。
「エイド、大丈夫?……まだ、考えてる?」
セリアの優しい問いかけに、エイドは自分の腰にある剣の柄、そして『ミゼリコルファ』にそっと手を触れた。
「……はい。全ては自分で決めたことですから。」
エイドの言葉に、前を行くガレンが馬の速度を緩めることなく、低く応じた。
「理由がありゃあ、人を殺していい理由にはならねえよ。どんな事情があろうが、あいつらは俺たちを殺そうとした。だから俺たちが叩き潰した。……それだけだ、小僧」
「分かっています、ガレンさん」
エイドが静かに頷いた時、隣を並走していたトトが、ふっと前を見据えたまま、声音を落として囁いた。
「……あいつ、街にいる時から時々、妙な足取りで孤児院の方へ行ってたからさ。何のために金を集めてるかは知らなかったけど……怪しいなと思って、出発前に一応『ほどほどにね』って言っておいたんだけどさ。届かなかったみたいだね」
トトのその言葉に、エイドはハッと息を呑んだ。トトはそれ以上何も言わず、またいつもの軽い笑顔に戻ってパカパカと馬を進めていく。
やはりトトは、ロイドの不審な動きを最初から掴んでいた。中にどんな理由や事情があろうとも、一線を越えて自分たちを殺そうとした以上、プロの斥候として冷徹に切り捨てる。そのトトの底知れない眼光を思い出し、エイドの背中に冷たいものが走る。
エイドはしっかりと手綱を握り直し、前を向いた。
悪事を働く者にも、それぞれの切実な人生や理由がある。綺麗事だけでは生きていけないこの世界の現実を、ロイドという男を通じて痛烈に学んだ。
だが、だからといって自分たちの命を脅かす悪を見過ごすことは絶対にできない。いざという時は、その背景ごと相手を叩き斬る――それが、この世界で生きていくための、本当の意味での『覚悟』なのだと、エイドは冷たい風の中で静かに胸に刻んだ。
昼過ぎ、見慣れたファキオの街の巨大な城門が、4人を迎えるように視界へと大きく広がった。
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物語が進むスピードは遅いですがあしからず




