それぞれの夜
更新しました。最近は夜遅い更新でごめんなさい。
一日目の予定ルートを無事に消化した一行は、街道沿いの開けた岩場に馬車を止め、宿営(野営)の準備に入った。
夕闇が周囲を包み込み、焚き火の炎がパチパチと音を立てて爆ぜる中、ガレンがフンと鼻を鳴らして自身の腰に下げた古びた革袋に手をかけた。
「おい小僧ども、だらだら火を熾してねえで、これでも見とけ」
ガレンが袋に腕を突っ込むと、その小さな見た目からは想像もつかないほど巨大な鉄鍋が、まるで手品のように取り出された。
時間の経過すら停止し、どれだけ荷物を詰め込もうが重さが変わらないという伝説級のアイテム『マジックバッグ』だ。
「『黒鉄の休らぎ亭』から、小僧が考案した、ワイルドボアのもつ煮込みを持ってきてやった。さっさと食べるぞ」
蓋を開けた瞬間、じっくりと煮込まれた濃厚な味噌と香草の芳醇な香りが、夜の冷気の中にふわりと広がった。
「おいおい、まじかよ! 魔物の内臓なんて本当に食えるのか」
ガルバが真っ先に身を乗り出し、スープをスプーンですする。「美味い……! クソ寒い野外で、宿屋の出来立ての味が食えるなんて最高じゃねえか!」
セリアは恐る恐る一口目を口に入れ、そのあとはニコニコしながら無言でスプーンを動かしていた。
「エイド、魔物の内臓を食べれるようにするなんてびっくりだよー。それにガレンさん、マジックバッグとはおそれいったよ」
トトも嬉しそうにおかわりの器を差し出す。ガレンのマジックバッグから出た温かい料理と、エイドの極上のもつ煮込みを囲み、長旅の疲れを癒やす温かい団欒が訪れていた。
「ロイドさんどうですか、内臓をなんとか食べれるようにしたのです」
「うまい。まさか魔物の内臓を食べる日が来るとはな」
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一同が食後の片付けを終えた頃、ガルバがパチパチと燃える焚き火を眺めながら口を開いた。
「ロイド、今回の夜間の警備配置はお前に一任する。決めてくれ」
指示を受けたロイドは、いつもの冷徹で合理的なプロの顔に戻り、淀みのない口調で告げた。
「あぁ。全行程の初日だ、油断は禁物だが体力も温存せねばならん。三交代でいく。
第一陣は、俺とガルバ。まずはベテランで全体の警戒網を確立する。
第二陣は、エイドとセリア。新人と後衛魔術師の組み合わせだが、エイドの感知能力があれば問題ないだろう。
第三陣の朝方は、トトとガレンさんだ。最も襲撃の可能性が高まる薄明かりの時間帯は、斥候と最高戦力で固める。……これでどうだ?」
「文句ねえな。完璧だ」
ガルバが頷き、配置が決定する。
非常にバランスの取れた、戦術的に非の打ち所がない配置だ。エイドも「さすがロイドさん、無駄のない綺麗なローテーションだな」と素直に感心し、自分の担当時間に向けて、一度馬車の陰で仮眠をとることにした。
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### 【第一陣:ガルバ & ロイド】
「おい、ロイド。珍しいじゃねぇか。俺と組むなんて」
豪快に笑いながらガルバはロイドに話しかける。
「言われてみればそうだな」
ロイドは相変わらずの仏頂面だ。
「ふーん。それよりも、なんかやらかしてないだろうな?」
「何も問題はない」
「ならいいけどよ。久しぶりの一緒の時間だ、話すことあれば話そうぜ」
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### 【第二陣:エイド & セリア】
パチパチと静かに燃える焚き火の前で、エイドは隣に座るセリアに、昨日から考えていた魔法の疑問を投げかけていた。
「セリアさん。魔法について少しお聞きしたいのですが……。魔法を発動する際、『無詠唱』というものは、可能なんでしょうか? 神官さんからは『無詠唱』でできると言われているのですが」
「えっ……!? 無詠唱ですって? ……って、それよりもう『魔法』を覚えたの?」
セリアは驚いたように、エイドの顔をまじまじと見つめた。
「実は昨日、神官さんより魔術書を貸していただき、なんとか習得することができました」
「嘘、普通はそんなの、1週間ぐらいかけてじっくり覚えるものよ……!」
セリアは驚愕しつつも、コホンと咳払いをして話を戻した。
「あっ、質問は『無詠唱』についてだったわよね。結論から言うと、基本は『無詠唱』よ。これもスキルを使うときと理由は一緒。だけど『魔法』を覚えたばかりの頃は発語して唱えることも多いわよ。言葉っていうのはイメージを固定しやすくするから。それに、発語した方が効果が上がると言った文献もあったはずよ」
セリアは論理的に魔法の本質を教えてくれる。
「あと、今回覚えた『魔法』のことは秘密にしておきなさい。教会が持つ『魔術書』は神官しか見ることができないのよ。今度一度その神官を紹介しなさい、もしかしたら私が学んだ『魔法』とは何か違うかもしれないから」
「わかりました。そういえばセリアさんは魔法で水を作れましたよね。この瓶に水を入れてくれませんか」
「そんなこと?もちろん良いわよ。」
エイドは集中しセリアの周りの魔素の揺らぎを見つめた。
「ありがとうございます。」
セリアに隠れるように瓶にエイドは『サナファン』
を唱えた。
(これで中身は聖水に、なっているはずだ。念の為に持っておこう)
「何かしたみたいだけど、わざわざ隠してやるということは言えないことだと思うから深くは聞かないけど、あなたはもう少し慎重になったほうが良いわね」
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### 【第三陣:トト & ガレン】
夜が深まりかけるころ。見張りを交代したトトは、暗闇の中で静かに佇むガレンに声をかけた。
「ガレンさん。エイドのやつ、やっぱり凄いね。Cランクになりたてとは思えないくらい真面目に持ち場を警戒してるし、何より周りの空気を柔らかくする天才だよ」
「フン、あいつはまだ甘い」
ガレンは腕を組み、冷たい夜風に視線を向けたまま低く唸る。
「だが……あいつのあの『他者への配慮』ってやつは、ただの甘さじゃねえ。周囲の状況を完璧に把握し、先回りして不快を潰す。あれは一種の、極限まで磨かれた『戦術』に近い。あいつは無自覚に、戦場をおもてなしの場に変えようとしてやがる」
「あはは、おもてなしの戦場か。彼らしいや。でも、だからこそ目が離せないんだよね」
トトは静かに笑った。
「そういえば、『起こり』を察知して潰す技術を教えたのはトトだったな」
ガレンの目が細められた。
「勝手に教えて、ごめんねー。ダメだったかな?」
「それは構わんが……お前がその技術をどこで体得したのかが、少しばかり気になるな」
トトは少し考え、いつもの軽い調子で、
「それは秘密」とだけ答えた。
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何事もなく穏やかに夜が明け、朝霧が立ち込める二日目の朝がやってきた。
メンバー全員がそれぞれの見張りを無事に終え、朝食を済ませて再び二台の馬車へと乗り込む。
今回はガレンという心強い護衛もいるし、自分は与えられた輸送の仕事をきっちりこなすだけだ。エイドは背中の短剣、そして背嚢の中の漆黒の魔導書の感触を確かめ、軽く肩の力を抜いた。
「よし、今日も頑張ろう」
御者の鋭い掛け声とともに、車輪が再び冷たい地面を蹴る。
ロイドが指定した、あの見通しの悪い「深い渓谷の迂回路」――そして、太陽が真上に昇る『正午』の刻に向けて、二台の馬車は静かに進み始めるのだった。
(第45話・完)
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