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黒鉄の煮込み

本日二度目の更新です。

気付いたら40話を越えてました。今後ともよろしくお願いします。

仕入れを終えたエイドは頭にある考えをもとに街の端にある石造りの教会へと足を運んだ。


 厳かな礼拝堂の扉を叩き、出てきた修道女に

「聖水を分けていただきたい」と切り出すと、

当然ながら不審そうな顔をされた。本来、聖水はアンデッド対策や儀式、病人の治療に使われる神聖なものだ。それを「魔物の内臓を洗うために使いたい」などと言い出す冒険者は前代未聞だった。

だがエイドには確信があった。ミゼリコルファの魔を祓うことができた『聖水』なら内臓ぐらい簡単に魔を祓うことができるだろう。

 背筋を真っ直ぐに伸ばし、自分が何を目的として実験を行おうとしているのかを論理的に説明した。決してふざけているわけではなく、命を無駄にしないための試みであるというエイドの熱意に満ちた態度に、修道女は驚きつつも、奥から年配の神官を呼んできてくれた。

「面白いことを考える若者だ。命の恵みを余すことなく頂こうという姿勢は、神の教えにも背かぬ。……ただし、聖水も無限にあるわけではないからね。それに本来は君の胸にある短剣に使ったりするものでもあるのだけどね。」

エイドに緊張が走った。(なぜミゼリコルファをもっていることをしっている)

 神官は優しく微笑み、

「そんなに構えなくても大丈夫ですよ、あなた方が立ち寄った村の司祭から全教会に通達があったのですよ、それにアンダーテイカーの皆様と私たちは切っても切れない関係ですのでなんとなくわかってしまうのですよ、今聖水を少しお分けしますのでお待ちください。無事に完成したら教えてください。孤児院の食事の改善にもつながりますし、今後のあなたのためにお渡ししたいものもありますので」


本来なら相応の寄付が必要な『聖水』を、小さな小瓶に一杯だけ、分けてくれた。エイドは深く感謝し、小瓶を大切に懐に収めてへ『黒鉄の休らぎ亭』へと戻った。

 ここからが前世の知恵と、この世界の法則の融合だ。

 まず、ボウルに張った綺麗な水へ、教会で分けてもらった『聖水』を数滴垂らす。

 内臓をその聖水入りの水に浸けた瞬間、チリチリと微かな音を立てて、肉の表面から紫色の薄い靄のようなものが立ち上り、空気中に霧散していった。魔力的な変質が、聖水の持つ浄化作用によって完全に中和・揮発していく。確認のために探索の応用として内臓の周りに魔素の揺らぎがないかを確認する。

(よし、揺らぎもないし問題ないはずだ)

その後、切り分けた内臓に粗塩を大量にまぶし揉み込み、臭みの最大の原因である残留ドリップを限界まで引き出していく。じわじわと表面に不気味な色の水分が浮き上がってくると、それを冷水で何度も、濁りが完全に消えるまで徹底的に洗い流した。

 次に、大鍋に湯を沸かし、宿の裏庭から摘んできたハーブや香味野菜とともに内臓を投入する。「茹でこぼし」の作業だ。一度沸騰させてアクを完璧にすくい取り、肉を一度引き上げてさらに冷水で洗う。この段階で、作業場を覆っていたあの魔物特有の嫌な生臭さは、ほとんど消え去っていた。

 内臓を、モツとレバーに小さく切り分け、宿にあった安価な赤ワインと、たっぷりの根菜、そして独自の調合を施したスパイスとともに、大鍋でじっくりと煮込み始めた。

 火にかけて数時間。厨房だけでなく、階下の食堂全体に、これまでに誰も嗅いだことがないほど、濃厚で芳醇な、そして脳髄を震わせるほど香ばしい香りが広がり始めた。

「……信じられない。これがあの内臓の匂いだって言うのかい……?」

 香りに誘われて厨房にやってきたロルフが、信じられないといった様子で大鍋を覗き込む。鍋の中では、深い赤ワイン色に染まったモツとレバーが、野菜の旨味をたっぷりと吸い込んで、トロトロと音を立てて踊っていた。

「完成です。器を出してください」

 エイドは手際よく木製のお椀に煮込みを盛り付け、最後に宿特製の固い黒パンを添えて、ロルフとマーサの前に差し出した。

「宿の新名物候補、**『内臓の煮込み』**です。どうぞ、温かいうちに」

 ロルフとマーサは、ゴクリと唾を呑み込んだ。目の前にある料理が「廃棄物の内臓」であるという知識が頭をよぎるが、それを遥かに凌駕する圧倒的な香りが、彼らの食欲を激しく刺激している。

 マーサが意を決してスプーンを取り、スープとともにモツの一片を口へと運んだ。

「――ッ!?」

 口に入れた瞬間、マーサの身体が硬直した。

 生臭さやえぐみ、苦味など、1ミリたりとも存在しなかった。徹底的な下処理によって極限まで研ぎ澄まされた内臓は、噛む必要すらないほど口の中でとろけ、赤ワインと野菜の濃厚なコク、そして聖水によって純化されたレバーのクリーミーな旨味が、爆発的な勢いで口いっぱいに広がっていく。

「美味い……! 美味すぎるよ、何だいこれは!?」

 ロルフも夢中でスプーンを動かし、黒パンをスープに浸して口に放り込んだ。

「柔らかい……! それに、この濃厚なコクはなんだ! 高級店で出す牛の煮込みだって、これほどの深みはないぞ! これが、あのタダ同然の内臓だって言うのか!?」

「はい。聖水で魔力を中和したことで、内臓が本来持っている濃厚な旨味だけを抽出できました。仕入れ値はこれまでの肉の数分の一以下。これなら、他所に負けない価格で、最高の名物として出せます。今回は赤ワインで煮込みましたが、ここの元々の名物の黒ビールで煮込んであとは宿の味にしてください。」

 エイドの言葉に、マーサはエイドの両手を強く握りしめた。

「ありがとう、エイド……! これならいける、この宿は、あたしたちの『黒鉄の休らぎ亭』は、まだ続けれそうだよ。(思った以上の手際だったね、認識を改めないとね)」


 一方そのころ、ガレンはギルド長のもとで話をしていた。

誤字脱字と因果関係に違和感あれば教えてください。

ブックマーク、感想いただけると嬉しいです。

なお次の更新は明日を予定してます。


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