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昇格

更新できました。

翌朝、完璧に整えられたベッドから目覚めたエイドは、旅の疲れが嘘のように消え去っているのを感じていた。

 階下の食堂へ降りると、まだ客のいない静かなフロアで、マーサが昨日と同じように難しい顔をして帳簿とにらめっこをしていた。エイドの姿に気づくと、彼女は深くため息をつきながらペンを置いた。

「おはよう、エイド。よく眠れたかい? ……さっそくだけど、昨日の続きを話させてもらうよ」

 マーサは、近くに新しくできた大手の綺麗な宿屋に客を奪われている現状と、最近の食材高騰による経営の逼迫を包み隠さずエイドに打ち明けた。

「今のうちのメニューじゃ、価格競争にも勝てないし、仕入れ値を削れば味も落ちる。何か、安く仕入れられて、他所には絶対に真似できないような『美味い宿の名物料理』が必要なんだよ。あんたのあの、異常に几帳面で鼻の利く手際を見込んでの頼みだ。何か知恵はないかい?」

 全ての条件をクリアする答えは、すでにエイドの心の中で決まっていた。

「マーサさん。それなら、誰もが見向きもしない『魔物の内臓モツやレバー』を使いましょう。それを、とろけるような『煮込み料理』にするんです」

「正気かい、エイド!?」

 マーサがガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。その顔には、驚愕と、明確な拒絶の色が浮かんでいる。

「あんな『魔』がある、呪われた部位を食えってのかい? 魔物の内臓には変質した『魔』が溜まるから、どれだけ洗って火を通したって、毒性や強烈な苦味は消えやしない。冒険者だって行き倒れの浮浪者だって、あんなものは絶対に口にしないよ。廃棄が常識さ!」

「普通のやり方なら、確かにそうです」

 エイドは少しも怯まず、前世のプロフェッショナルな『目』でマーサを見つめ返した。

「でも、適切な『処理』を施せば、それは最高の食材に化けます。試したことないので確約は致しかねますがマーサさん、俺を信頼してくれませんか?」

 エイドのその、揺るぎない自信に満ちた頑固な眼差しに、マーサは気圧されたように言葉を呑んだ。やがて、彼女は諦めたように肩を落とし、苦笑いを浮かべた。

「……はぁ、本当にあんたって子は、とんでもない頑固者だねえ。分かったよ、 その代わり、完成するまでは材料は自分で調達しておくれ」

「ありがとうございます。さっそく、仕入れに行ってきます」



 エイドはまず、素材の調達と報告を兼ねて冒険者ギルドへと足を運んだ。

 大きな石造りの建物の重い扉を押し開けると、朝の時間帯ということもあり、大勢の冒険者たちでごった返していた。エイドが受付の窓口へ向かおうとしたその時、ギルドの掲示板の前で、一人の職員が大きな声を張り上げた。

「これより、今回の商会護衛任務における特別評価に基づき、ランクアップの布告を行う! 登録名――エイド!」

 その声が響いた瞬間、騒がしかったギルドが一瞬で静まり返った。

 職員の手によって、掲示板に一枚の羊皮紙が貼り出される。そこには『鉄の牙』のガルバたちが提出した『評価』の内容が、ギルド上層部の承認印とともに克明に記載されていた。

『新人の枠に収まる器ではない。戦闘における応用力、および職人級の解体技術を鑑み、Cランクへのランクアップを強く推薦する』

「おい、冗談だろ……? Cランクって、あの新入りがか!?」

「『鉄の牙』のガルバが直筆で推薦してやがるぞ……!」

 周囲の冒険者たちから、驚愕、羨望、そして面白く思わない古参たちからの痛烈な嫉妬の視線がエイドに突き刺さる。しかし、エイドは至って冷静な足取りで窓口へと進み出た。

「エイドさん、おめでとうございます。ギルドマスターからも正式に承認が降りました。これが新しいランクの証明です」

「ありがとうございます、しかし私はDランクへの昇格試験と聞いていましたが」

「私どもはギルド長よりCランクと聞いておりましたが(やっぱりギルド長の、いつものやつか)」

(ギルド長め、絶対に確信犯だな。しっかり依頼書を確認していなかった俺の落ち度か。だが金が必要な俺にはちょうどいい)

 エイドは新しいプレートを受け取ると、そのままギルドの解体場へと向かった。用件はランクアップの余韻に浸ることではなく、食材の仕入れだ。

(昨日、ワイルドボアを倒した際に2匹分手に入れたが実験が失敗したことを考えると少ないし。上手く行った後のことを考えると先に根回しも必要だ)


 解体場へ入ると、職人たちが今朝運び込まれたばかりの魔物の解体作業に追われていた。エイドは顔見知りの解体職人に声をかける。

「すみません。ワイルドボアの『内臓レバーとモツ』を、あるだけ譲ってほしいんです」

「はぁ? 内臓だって? エイド、あんな呪われた廃棄物をどうするつもりだ?筋とは違うんだぜ」

「少し、実験に使いたくて。どうせ捨てるものなら、安く譲っていただけませんか?」

 職人は怪訝な顔をしたが、本来なら処分するのにも手間がかかる廃棄物だ。「物好きな奴だ」と鼻で笑いながら、今朝仕留められたばかりのワイルドボアのレバーと腸を、タダ同然の超格安で、大きな樽に大量に詰めて譲ってくれた。

誤字脱字と因果関係に違和感あれば教えてください。

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