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最初の試験

更新できました。

北門を通過し、馬車が街道へと入ると、車輪が立てるゴトゴトという一定の振動が車内に響き始めた。御者台には弓手のロイドが座り、周囲の索敵を兼ねて馬の手綱を握っている。

 狭い馬車の荷台で俺と向かい合わせに座るガルバ、セリア、トトの3人は、すでにプロの顔つきに戻っていた。

「さて、エイド」

 腕を組んだリーダーのガルバが、大剣の柄をトントンと指で叩きながら俺を見た。

「門を出る前にお前の『役割』の提案は聞いた。だが、一週間の遠征だ。まずはお前の『持ち物』を監査させてもらうぞ。ちなみに不十分と感じたら、試験は不合格でここで帰ってもらうぞ。お前が何を持っていて何ができないのかをそして何を必要としているのかを、見極めさせてもらう。」

「了解しました。当然の要求です。」

 俺は頷き、遠征用のバックパックの中身を一つずつ取り出して座席の空きスペースへと整然と並べていった。

• 女将さんからもらった。特製燻製肉と硬焼きパン(一週間分)

• 調理用の包丁 & 解体用ナイフ

• それらを研ぐための通常の砥石 & 先ほど買い足したミスリル用砥石

• 下級ポーション1本

• 塩と数種類の香草類


「塩と香草まで入ってる。道中でも美味しいスープを売ってくれるのかしら?」

 セリアが少しだけ口元を緩める。だが、その隣で斥候のトトの鋭い目が、並べられた品を的確に見抜いていた。

「……いや、スープ屋の荷物にしちゃ不自然なくらい手堅い。武器用と調理用で砥石を完全に使い分けて用意してる。コストの無駄がない。ガルバ、こいつやっぱりただの新兵じゃないぞ」

「ふん、道具のメンテを怠る奴から死んでいくのは戦場の鉄則だからな。その点、こいつの管理能力は合格だ」

 ガルバが満足そうに鼻を鳴らす。

 バックパックから並べられた物資の監査は、これで問題なくパスした。俺は「ひとまず第一段階はクリアか」と内心で息を吐き、パッキングを戻した。

「次は装備の確認だ、その剣と手袋、ブローチの他には何かあるか」

「装備品ではないですが手と足につける『負荷石』があります。」(ミゼリコルファは俺にとって不要な武器だ、あの短剣を見せると最悪の場合使わなければならない、それだけは避けなければ)


 ――だが、トトの猫のような鋭い視線は、まだ俺から外れていなかった。

 トトの目が、バックパックではなく、俺の「上着のふところ」へと向けられる。

 衣服のわずかな不自然な膨らみ。そして、パッキングの最中も俺が無意識にそこを庇うように僅かに半身を引いていた違和感。一流の斥候であるトトの目を欺ききることはできなかった。

 トトの目が「そこに何を隠している?」と無言で問いかけてくる。

 トトがスッと手を動かし、俺の懐の得物に直接触れようと指を伸ばしてきた。

 そこに仕込んであるのは、ガレンさんに指示されて懐に忍ばせていた、鞘すら漆黒に染められた細身の短剣。物質の肉体ではなく『魂』に突き刺さり、死を受け入れた者にしか牙を剥かない不吉な刃――ミゼリコルファ。

 他者の力を奪い取り、死を受け入れた者にしか刺さらないその不吉な刃に対して、俺は狂いそうなほどの嫌悪感と拒絶反応がある。

 絶対に、見せるわけにはいかない。

 

 トトの指先が触れる直前、俺はポーカーフェイスを完璧に維持したまま、トトの手首を掴まない絶妙な距離感で、自分の手を遮るようにスッと差し入れた。相手に敵意を抱かせず、拒否をした。

 トトの動きが止まる。車内の空気が一瞬で張り詰めた。

「……なぁ、エイド。バックパックの中身は上等だ。だが、その懐にまだ何か、別の『武器』を仕込んでるだろ。それも見せてもらおうか」

 トトの低い声に、ガルバの眼光がビジネスライクな警戒を孕んで鋭くなる。セリアも息を呑んで俺の懐を凝視した。

 俺は眉一つ動かさず、完璧にコントロールされた声のトーンで、理路整然と言葉の壁を構築した。

「――お見せすることはできません。これは私にとっては使わないと誓っている『武器』なのです」

「おい小僧、舐めるなよ」

 ガルバが腕を組み、大剣の柄に手をかけながら威圧感を強める。

「何が入ってるかも分からねえ武器を抱えたまま、背中を任せられるか。チームのリスク管理として、開示は絶対だ。出せ、出さなければ試験は不合格だ」

「それでも、…お断りします。

では、馬車から降ろさせていただきますね。申し訳ありません」

 俺はガルバの据わった目を正面から見据え、素直に謝罪をした。

 トトは、じっと俺の目を観察していた。俺が懐の得物を抜こうとしないこと、そしてそこに殺気や、チームをハメようというギラついた欲が一切ないことを、その鋭い観察眼で正確に査定したのだろう。

 やがて、トトは俺の懐からゆっくりと視線を外し、肩をすくめて座席に背を預けた。

「……よし、分かった。そこまで言うなら、それ以上はいいよ、エイド。ガルバ、こいつの言う通り、俺たちに牙を剥く気はねえわ。これ以上無理やり引きずり出して、空気を最悪にする必要もねえ」

 トトはそう言って、ニヤリと不敵に笑った。

「ま、前衛が誰にも言えない強力な切り札の一つや二つ持ってる方が、一週間の遠征じゃかえって頼もしいしな。必要以上の詮索は冒険者のルールに背くことになる。……ここは俺に免じて、見逃してやってくれよ」

 

 トトは俺が何かを隠していることを看破しながらも、俺の合理性とプロとしての目つきを信じて、あえて深追いせずに「黙認」することを選んでくれたのだ。結果として、俺がアンダーテイカーであることも、誰にもバレずに守られた。

「……チッ。トトがそこまで言うなら、今回は不問にしてやる。試験は続行だ」

 ガルバがようやく大剣から手を離し、背もたれに深く体重を預けた。セリアもホッと胸を撫で下ろしたが、その目はまだ俺の底知れなさに戦慄している。

「だがな、お前がその『武器』のせいでチームに損害を出したら、その時点で試験は失格だ。お前がただの口先だけの男か、それとも実戦の現場で役に立つか、きっちり測らせてもらうぜ」

「ありがとうございます。期待以上のパフォーマンスをお見せしましょう」

 俺は上着の襟を軽く整え、懐のミゼリコルファとポケットの白い錠剤を、より深い闇へと隠した。

 馬車は揺れる。左右には見渡す限りの深い緑と、魔物の領域へと続く未舗装の街道が広がっていた。

 絶対に人に見せないとそして使わないと誓った懐の重みと、それを巡るトトとの無言の目線。ただの新米から「油断ならない、だが独自の防衛ラインを持つプロ」として認められた俺を乗せて、馬車は最初の現場フィールドへと突き進んでいく。

誤字脱字、因果に違和感あれば教えてください

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