掘り出し物
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ギルドの受付でDランク昇格試験の「受注」に正式なサインを済ませた俺は、その足で一度宿へと戻っていた。明日の昼の出発に向け、まずは遠征用バックパックの荷物の棚卸し(パッキング)を終わらせるためだ。
翌朝、一階の食堂を通り抜けようとした時、厨房の奥から女将さんが鋭い足取りで現れ、俺の前にどさりと重みのある麻袋を突き出してきた。中からは、ハーブと塩、そして燻製の芳痕な香りが漂ってくる。
「おい、エイド。これを持っていきな」
「これは……保存食ですか?」
「ただの干し肉じゃないよ。数日煮込んでも型崩れしない特製の燻製肉と、油でしっかり揚げて水分を飛ばした硬焼きパンさ。一週間の護衛任務なんだろ? 道中でまともな飯が食えるとは限らないからね」
プロの料理人が作った、極めて保存性と栄養価の高い常備食。本来ならそれなりの銀貨を支払うべき高品質なアセットを、まさかのコストゼロ(無償)での提供。
「助かります、女将さん。戻ったら必ず、この分の付加価値はお返しします」
「ふん、おためごかしはいいよ。……あんたに死なれたら、あたしも困るんだ。お願いしたい『大事なこと』もあるんだからね。必ず生きてここへ戻ってくるんだよ。それにこれは先払いでもらってた宿泊費用分だよ。気にせず貰っていきな」
やはり、ただの家賃交渉ではない。ガレンさんの見立て通り、女将さんは俺を値踏みしている。
俺はしっかりと麻袋を受け取った。
「分かりました。必ず、戻ります」
女将さんに、鍵を返却する。
俺は、市場に行く前にズボンの裾を捲しあげ『負荷石』に手をかけた。
カチリ、と金具を外す。
「――っ」
床に落ちた負荷石の重苦しい金属音と同時に、自分の身体がまるで重力から解放され、そのまま天井まで浮き上がってしまうのではないかと思うほどの、圧倒的な「軽さ」。
だが、俺の真の狙いは肉体の軽量化だけではない。
『運』を元に戻すことだ。
(手持ちのキャッシュは銀貨50枚。この『運』を利用して、市場から使えそうなアイテムをスカウティングする)
俺は銀貨を多めに握り締め、羽のように軽くなった足取りで、街の西側にあるジャンク市へと向かった。
怪しげな露店が並ぶ通りを、五感を研ぎ澄まして歩く。普段なら見向きもしない泥にまみれたガラクタの山。その中で、俺のアンテナが2つのアイテムを捉えた。
一つ目は、妙に心惹かれる「黒く汚れた歪な石のブローチ」。
二つ目は、油と泥に塗れて片隅に放置されていた、薄汚れた「黒い革手袋」。
「おい小僧、そいつらが気になるかい? 二つまとめて銀貨3枚でいいよ。どれも遺跡のガラクタさ」
売人の男の投げやりな言葉に、俺は心の中で完璧な勝利を確信しながら、ポーカーフェイスのまま銀貨3枚を支払った。直感が告げている。これらはすべて、今の俺に必要だ。
道具屋に行き、ミスリル合金用の砥石を買った。道具の手入れを怠ると碌なことがないことはまだ最近学んだばかりだ。(銀貨3枚)
ついでだが、塩と香草類も買っておいた。(銀貨1枚)
燦々と降り注ぐ太陽の下、俺は約束の場所である北門へと足を踏み入れた。
そこには、頑丈そうな大型の馬車と、見覚えのあるBランクパーティー『鉄の牙』の4人が揃っていた。
「おう、エイドじゃねえか! ギルドから話は聞いてるぜ!」
豪快に笑いながら、身の丈ほどもある巨大な大剣を背負った男が歩み寄ってくる。彼がリーダーのガルバ。前衛の【近距離・攻撃特化】大剣士だ。
その後ろには、静かに魔導書をめくるローブ姿の女性魔導士セリア(【中距離・魔法使い】)、
馬車の御者台で長弓の手入れをしている鋭い眼の弓手ロイド(【遠距離・スナイパー】)、
そして、俺の姿を見るなり音もなく傍らに進み出てきた双剣の青年――斥候のトト(【中距離・斥候】)がいた。
「よろしく、エイド。……ん? お前、それどこで手に入れた?」
挨拶もそこそこに、斥候のトトが俺の装備を凝視した。猫のような鋭い目が驚愕に細められる。トトの視線は、俺の胸元のブローチ、手元のはめた黒手袋、そしてバックパックの隙間から覗く砥石へと目まぐるしく動いた。
「昨日、西のジャンク市でまとめて買ったのですが……何か珍しいものでしたか?」
「まとめて!? 嘘だろ、お前とんでもない強運だな……!」
トトは息を呑み、周囲に聞こえないよう声を潜めて俺の戦利品を指差した。
「まずそのブローチ、ただの石に見えるように擬装された古代の『身代わり魔導具』だよ。一度だけ致命的な物理衝撃を完全に中和して霧散させてくれる最高の保険だ。……それに、その黒手袋! これ、魔力を完全に外へ漏らさず、外部の魔力探知も遮断する特殊な獣皮で作られた隠密用の魔導衣類だよ。そんなの、普通なら銀貨数十枚はぐたらねぇ。……どこにそんな鑑定眼を隠し持ってやがった!?」
トトの見事な目利き(解説)を聞き、俺は内心で大きくガッツポーズを作った。
黒手袋があれば、今後周囲の目を欺いて『負荷石』のオン・オフを完全隠蔽できる。トトの目利きによって、効果がわかり素晴らしい装備へと化けた。
「素晴らしい情報をありがとうございます、トトさん。これで今回の任務の生存率が跳ね上がりました」
「おいおい、そんなお宝を隠し持ってたのか。頼もしいじゃねえか!」
大剣を肩に担いだリーダーのガルバが、獰猛な笑みを浮かべて歩み寄ってくる。俺はミスリル鋼の剣に手をかけ、彼らの目を見据えた。
「ガルバさん、今回の私の役割について提案があります。皆さんの布陣は素晴らしい攻撃力を誇りますが、純粋な『盾役』がいません。私はガレンさんから『いなし』と『受け流し』の技術を徹底的に叩き込まれました。ガルバさんが大剣を振り抜いた後のわずかな隙、あるいはトトさんの目をすり抜けてセリアさんやロイドさんの後衛にアプローチしようとする敵の足止めは、すべて私が引き受けます。皆さんは防御を気にせず、最大火力を出力してください」
俺の明確なプレゼンテーションを聞いた『鉄の牙』の面々の目が、一瞬で変わった。
「……ほう。ガレンの旦那の『技術』を学んできてやがるのか。ただのスープ屋じゃねえな。
だがな、このパーティーのリーダーは俺だ、俺が決める。弁は立つようだが実際には剣で魔物を狩り切ることができないのだろう。」
ガルバが不敵に笑う。
「だがそうやって自分を売り込もうとする姿勢は気に入ったぜ、エイド。お前がその剣と、トトが見抜いたその魔導具で敵をせき止めてくれるなら、俺は文字通り『全員消し飛ばす』ことに専念できる!あと今回はお前の試験でもあることを忘れるな。」
ガレンさんとの相棒の期限は残り2ヶ月。
背水の陣を敷いた俺を乗せて、護衛の馬車がゆっくりと、街の外へと動き出した。
みなさま感想お待ちしております。




