新たる剣
更新です。
夜中にかけてあと一話更新です。
ミスリルを発見してから5日間、日々の日課をこなし、ギルドでスジ肉と骨を分けてもらい、中央鋳造所での炭鉱作業とスープを作っていた。ミスリルが取れすぎると怪しまれると感じた俺は『負荷石』をバレない位置につけ炭鉱作業も、手伝わせてもらった。
ボルグはどうせ来るならと依頼にしてくれた。条件は1日銀貨3枚で炭鉱に関しては出来高だ。
薄暗く熱気に満ちた工房の奥から、ボルグさんが一本の細身の長剣を携えて現れる。その刀身は、鈍く深い鉄の黒みの中に、まるで神経が通っているかのように神秘的な銀の光条が走る、実に見事な仕上がりだった。
「待たせたな小僧。注文通りのブツだ」
「美しいですね。これが……例のミスリルですか」
「全部ミスリルにしちまうと、軽すぎて遠心力が乗らねえし、強度にムラが出る。だから、お前が掘り出したあの最高品質の『鉄鉱石』をベースに、ミスリルの原石を絶妙な比率で融け合わせた【ミスリル・スチール(ミスリル鋼)】で打ってやった。お前が仕込みにこだわったあのスープと同じ、素材の『配合比率』の妙ってやつさ、あとはミスリルが高値で売れたから、この剣は無料にしてやる、あとは今日までの料理と炭鉱で
銀貨30枚だ。」 ボルグさんはニカッと獰猛に笑い、剣と銀貨が入った袋を俺に手渡した。
受け取った瞬間、俺の脳内にある前世の常識が小さく悲鳴を上げた。
見た目は重厚な鉄の剣だというのに、手首に伝わる重量が通常の鉄剣の半分ほどしか感じられない。それでいて、刃先を軽く指先で弾くと、キィンと極めて高密度で硬質な金属音が響く。軽さと剛性の完全な両立。
すごい出来だ。これなら、俺の限られた肉体でもなんとかなるかもしれない。
試しに、いつも通りの素振りをおこなう、手に吸い付くようだ。
「素晴らしいです、ボルグさん。」
「おう。そいつを使って生き残れ、それでスープ以外の料理も食べさせてくれ」
俺は満足して頷き、新調した剣を腰に帯びて鋳造所を後にした。
その足で俺が向かったのは、いつものギルド地下の訓練室だ。
扉を開けると、ガレンさんが木剣を片手に床に腰掛けていた。俺の腰元に目を留めると、その鋭い眼光がわずかに細められる。
「ほう。随分といい剣を得たな小僧。ただの鉄じゃねえ」
「はい。ミスリルを鉄と合金とのことです。私の筋力でも『最速の一点』に剣を置くための、最適だとおもいます」
「ハッ、道具に頼るか。いいだろう、その道具の価値を測ってやる。……おい、構えろ」
ガレンさんが無造作に立ち上がる。
俺はあえて『負荷石』を巻いたままの状態を選択する。新装備の性能ももちろんだが、自分のこれまでのトレーニングの成果を正確にするためだ。
鞘に入ったままのミスリル鋼の剣を構え、体幹の芯を意識する。
「いくぞ」
言葉と同時に、ガレンさんの木剣が容赦なく俺の首元へと迫る。いつもなら、その圧倒的な風圧と速度に対して、鉄剣の「重さ」による遠心力に上半身が振り回され、体幹がブレてワンテンポ遅れていた。
だが、今は違う。
負荷石のせいで足首は鉛のように重いが、手に持つ剣が圧倒的に「軽くて頑丈」なため、上半身の切り返しが驚くほどスムーズに行える。
ガシィィン!
ガレンさんの無慈悲な一撃を、俺は最小限の軌道で、正確に『最速の一点』で受け止めた。ミスリル鋼の驚異的な剛性がガレンさんの剛力を面で逃がし、俺の体幹はピシリともブレない。
「……ほう」
「道具のおかげですかね。」
数合の手合わせの後、ガレンさんは木剣を引き、獰猛に口元を歪めた。
「上出来だ。お前の貧弱な骨格でも、その刃なら俺のフットワークにギリギリ追いつける。合格点をくれてやるよ」
心地よい筋肉の疲労感を覚えながら宿に戻ると、入り口の前で待ちかねたようにギルドの受付嬢が立っていた。彼女の表情はいつになく硬く、その手にはギルド長の捺印がある厚手の封書が握られている。
「エイドさん、お待ちしておりました。……ギルド長より、正式な通達です」
手渡された封書を開き、俺は書面に並ぶ数字と条件を鋭い視線で確認した。
「これが……Dランクへの昇格試験ですか」
「はい。本来ならギルド内での模擬戦などが行われるのですが……今回は『実戦任務』が指定されました。近くの町までの荷物輸送の護衛をし、再度護衛しながらこの街まで戻ってくる任務です。明日の昼出発で1週間で戻ってくる工程となっております。なお審査役としてこちらにはBランクのパーティーが同行します。」
提示された試験内容は、初めての護衛任務だ。今まではガレンさんに守ってもらっていた自分が他の誰かを守らなければならない。ガレンさんの「足」として隣に立つためにも必要なことだ。
腰元のミスリル鋼の剣が、まるで俺の決意を促すように、鈍く銀色の光条をきらめかせた。
「分かりました。返事は後ほどさせていただきます。」
俺は受付嬢に静かに告げた。
気づいたら宿も残り2日になる。ということはこの街に来て1ヶ月になる、ガレンさんの相棒の期限は残り2ヶ月で、食事などで使い残りの手持ち銀貨が50枚になっていた。
宿代の残り泊数が僅かの中、このハイリスクな実戦任務を受けるべきか。そして、戻った後の生活基盤をどう直すべきか。
一人で考え判断するには、今回は少々、難しい。
それに俺はあの人の『足』になるのだから。
俺は懐に書状を仕舞い込むと、本日二度目となるギルド地下の訓練室へと足を運んだ。
ガレンさんは、まだそこにいた。壁に背を預け、持ち込んだ酒瓶を傾けている。
「……また来たか。合格点をやったはずだが、まだ物足りねえか?」
「いえ。相談です」
俺は受付嬢から渡されたばかりの、Dランク昇格試験の書状を差し出した。ガレンさんは面倒そうに片目でそれをスキャンし、フンと鼻を鳴らす。
「護衛任務か。今の時期に実戦をぶつけてくるとは、ギルド長も人使いが荒い。ガレンさん、今の私の実力で、この任務を受けるべきでしょうか」
「小僧、本気で聞いてんのか?」
ガレンさんは酒瓶を床に置くと、据わった眼光で俺を正面から射抜いた。
「お前が俺の『足』になるための期限と『相棒』の期限は残りたったの2ヶ月だ。いつまでD級ごときに足踏みしてやがる。敵を倒すことだけが戦いじゃねえ。運ぶべき荷を傷一つなく目的地にデリバリーする護衛は、お前のその『いなす剣』が一番活きる現場だ。Bランクの面々が同行するなら、最高の訓練だろうが。行かねえ理由がねえな」
相棒からの、迷いのない背中押し。ガレンさんの言う通りだ。ここで現状維持を選択することは、2ヶ月後の機会損失に直結する。
「……分かりました。この案件は受注します。もう一つ、宿の件です。滞在期限が残り2日となり、先ほど女将から『戻ったら今後の部屋も含めて大事な相談がある』と匂わされました。家賃の値上げか、あるいは別件か。戻った後、拠点を変えるべきでしょうか」
俺の問いに、ガレンさんはニヤリと醜悪に笑った。
「あの宿の女将は、この街の裏も表も知ってる老舗の古狸だ。ただの家賃交渉ならわざわざ勿体ぶらねえよ。お前が今回の任務で『使える人間』かどうかを値踏みして、別の難題を仕掛けるつもりだろうさ。拠点を変えるかどうかは、一週間後、お前が化けの皮を剥がされずに生きて戻ってから決めろ」
「なるほど、ますます、手ぶらでは戻れませんね」
まずは明日の昼、この試験を最速かつ完璧にクリアしてDランクの地位をもぎ取る。宿の件は、それからだ。
「アドバイス、感謝します」
「ハッ、死ぬなよ、小僧(不服かもしれんがお前にはミゼリコルファがあることを忘れるなよ)」
ガレンさんの激励を背に受け、俺は訓練室を後にした。
まずはギルドの受け付けに向かい「受注」のサインを出し、明日の出発に向けて、限られた時間で最大限の準備を整えるとしよう。
もう少し文章量を増やします。読んでみて少し物足りなさを感じてます。
誤字脱字、因果関係のミスあれば教えてください。
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