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炭鉱と未知の鉱石

遅くなりましたが更新できました。

「試験の具体的な内容と日程については、周辺の魔物の動向を見極めた上で、追って連絡する。それまで腕を鈍らせるなよ」

 ギルド長室に響いた重みのある声を背に、俺は推薦の証である黒い書状を懐に収めて退出した。Dランクへの切符は目の前にあるが、組織のトップが慎重になるほど、ランクが上がることには意味がある証拠でもある。焦る必要はない。試験の内容が確定するまでの時間を、俺は地力強化の時間として有効活用するだけだ。

 ギルドを出た俺は、そのまま訓練室へと向かい、ガレンさんに状況を報告した。

「ギルド長からDランクへの昇格試験を推薦されました。内容は追って連絡とのことです。それと、中央鋳造所のボルグさんから、人手不足の炭鉱の手伝いを指名依頼で頼まれました。

「ほう、小僧。炭鉱の採掘は、体幹と足腰の粘りを試すには絶好の現場だ。あの『負荷石』の重みに耐えてきたお前の足腰が、実戦環境でどう機能するか見てこい」

 ガレンさんは不敵にニヤリと笑い、俺の背中を押した。

 翌日、日課を終わらせ俺は街外れに位置する中央鋳造所管轄の炭鉱へと足を運んだ。

 現地は、もうもうと立ち込める煙と鉄の匂い、そして魔物の活性化による緊張感でピリピリとした空気が漂っていた。他の冒険者が防衛に人員を割かれているせいで、採掘の生産ラインが完全にストップしかけているらしい。

「おう、よく来たな小僧! 暇そうなお前が来てくれて助かるぜ」

 現場で出迎えてくれたボルグさんは、豪快に俺の肩を叩いた。現在、魔物の警戒で人手が足りず、奥の優良な鉱床まで手が回らないこと、さらに作業員のスタミナ不足や道具の摩耗が激しく、生産性が著しく落ちているという現状を聞かされる。

「了解しました。一度やり方や注意点を教えていただかませんか。」

 俺は仕事のスイッチを入れ、手渡された重い『採掘用つるはし』を握りしめた。

 薄暗い坑道へと足を踏み入れると、ボルグさんが隣のベテラン風の作業員を顎でしゃくった。

「おい新入り、まずはセオリーを叩き込んでやる。力任せに叩けばいいってもんじゃねえぞ。岩盤ってのはな、よく見ると『石の目』って流れがある。その流れが交差する、一番もろい『中心の点』を狙うんだ。そこを外すと、一発でつるはしの刃が死ぬし、中の鉱石まで粉々になっちまうからな、あとその足や腕に巻いてる『負荷石』は外しておけ、炭鉱の中は何があるかわからないからな」

言われた通り『負荷石』は外し作業員の仕事を凝視する。

 ベテラン作業員が手本としてつるはしを振るう。金属音が響き、綺麗に四角く岩が割れた。

 なるほど、ガレンさんとの素振りと全く同じだ。全体の構造を把握し、「中心の点」を突く。こちらの世界での採掘技術もまた、自分の技術を活かすことができる。

「よし、やってみろ」

 つるはしを構え、俺は目を細めた。他の作業員たちは焦りと疲弊から、力任せに打ち付け、火花を散らして道具を刃こぼれさせていた。

(線で追うな、教えてもらった石の目の『中心の点』だけを見ろ……!)

 俺はガレンさんとのトレーニングで培った「狙った一点に力を『置く』感覚」、そして体内に定着し始めた微かな『魔力の流れ』を、つるはしの先端へと集中させた。教わった通りのクラックの交差点を見極める。

 ストン、と無駄な力を抜き、最小限の力で鋭く刃先を「置いた」。

 パキィン、と小気味良い音が響き、驚くほど滑らかに、かつ大きな塊のままで良質な鉄鉱石が切り出されていく。道具にかかる負荷は最小限。刃こぼれひとつしない丁寧な道具扱いは、教わったセオリーを完璧にトレースしていた。


「おい、マジかよ……新入りの採掘スピード、おかしくねえか?」

「道具が全然摩耗してねえぞ。岩の隙間を的確に抜いてやがる……」

 周囲のベテラン作業員たちが手を止め、驚愕の目で俺の手元を凝視し始める。だが、俺の「作業」はこれだけで終わらなかった。

 黙々と中心の点を突き続けていた、その時だった。

 こちらの「運」が作用したのか、大きく削り落とした岩盤の最奥から、これまでの鉄鉱石とは明らかに一線を画す、鈍くも神秘的な銀色の輝きが姿を現した。

(……これは、まさか)

 精錬前だというのに、周囲の光を吸い込んで淡く発光しているかのような原石。こちらの世界において魔法伝導率が最も高く、市場では国家予算級の取引すら行われるという希少鉱石——『ミスリル』だった。

「お、おい! ミスリルの原石だぞァ!?」

「こんな浅い層から出るなんて、どんな確率だ……!?」

 坑道内が一気に色めき立ち、報告を受けたボルグさんもドタバタと大きな足音を立てて駆け込んできた。

「ハッ、お前本当に何か持ってるな、小僧! このキナ臭い時期にミスリルを引き当てるとは、とんでもねえ強運だ!」

「ボルグさん、このミスリルですが、ひとつ相談があります」

 採掘終了後、俺は手に入れたミスリルの原石を前に、ボルグさんへ単刀直入に切り出した。通常ならギルドや鋳造所に高値で買い取られるアセットだが、今の俺が求めているのは目先の現金ではない。

「このミスリルを素材として、私の『新しい装備』を仕立てていただきたいのです。もちろん、加工賃や不足する素材の対価としては、これまで貯めた銀貨をお支払いします」

 ボルグさんは俺の炊き出しでの貢献、そして今日見せた「道具を一切傷つけない圧倒的な技術」を思い返すようにスープを思い切りすすり、ニカッと獰猛に笑った。

「全ては無理だが少しなら分けてやってもいいぜ。装備にそんなにはミスリルは必要ない。それにお前みたいに道具を大事にする奴になら、俺たちの鋳造所の最高峰の技術を貸してやる。だが俺からも条件だこの前のスープをここでも作ってくれ。酔っ払って襲った謝罪の意味も兼ねてお前専用の特製装備を打ってやるよ」

 契約は成立した。

 鋳造所の激しい火花と、赤く焼けた金属の匂いを見つめながら、すべての因果が、ガレンさんの「足」になるという真の目的に向かって、急速に収束し始めていた。

お疲れ様です。

おやすみなさい。

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