手段と目的
投稿だいぶ遅くなりました。
翌朝、全身を襲う凄まじい筋肉痛とともに目が覚めた。ベッドから這い出すだけで、錆びついた機械のような軋みが体に走る。だが、俺は止まらなかった。
起床とともにランニングのためにストレッチをおこない、街の中をランニングする。ランニングの後は今日からは素振りだ。ひたすらに身体をいじめぬく。今の俺にできることはそれだけだ。宿の外壁沿い、人影のまばらな広場で、雑念を払うべく俺はガレンに買ってもらった鉄剣を構えていた。
「……重いな、相変わらず」
昨日、鞘から抜くことすらままならなかった鉄の塊。今日はどうにか正眼に構えることはできるが、剣先が小刻みに震える。
一回、二回と振り下ろす。十回を数える頃には、前腕の筋肉が熱を持ち、握力が目に見えて落ちていく。筋力「0」という絶望的な数値が、重力となって俺の腕を引きずり下ろそうとしていた。
「——何をしている」
背後からかけられた声に、俺は震える腕で剣を収めた。ガレンだ。彼は俺の無様な素振りを、品定めするような冷ややかな目で見つめていた。
「見ての通りです。少しでも剣に慣れておこうと思いまして」
「なぜ振る」
「ミゼリコルファを使わずに生きていくために、そしてあなたの足になるためです。それを成すための手段が欲しいんです」
「あなたの足になるために」と言った時、ガレンの瞳がわずかに細められた。それは嘲笑だったのか、あるいはかつての仲間に向けられたような残影だったのか。
「……手段と目的を履き違えてはいないようだな。だが、その素振りは『手段』としても三流だ
お前がいくら剣を振ろうと、正面から魔物と打ち合える筋力がつくまでには、数年はかかるぞ
そもそも、お前が持つ資質とはちがう。」
ガレンは俺から鉄剣をひったくると、淀みのない動作で一閃した。風を切る音すらしない、最小限の動き。
「お前には力がない。なら、自分の力に頼るな。敵の攻撃をいなし、重心を見極め、相手の力を利用しろ、相手の動きを制限しろ、形なんぞ必要ない。お前の剣は殺すための道具じゃない。俺が来るまで、時間を稼ぐための盾だ」
その言葉は、俺の思考にストンと落ちた。
確かに、正面から対峙するのは最悪の手だ、まずは相手の勢いを逃がし、矛先を逸らし、糸口が見えるまで「場」を維持する。今の俺に求められているのは、まさに生き残るための技術だ。
目的は、生き残って商売を成立させること。
剣を振ることは、そのための手段に過ぎない。
その後の行軍中、俺はガレンに教わった「受け流し」の軌道を頭の中で反芻しながら歩いた。
再びゴブリンが、あらわれた。
すぐに、ゴブリンが持っている棍棒を振りかぶり飛びかかってきた。
反射的に、腰の剣に手が伸びた。
昨日の俺なら、ただ狼狽えて立ち尽くしていただろう。だが今は、重い剣を無理に振るのではなく、最短距離で鞘から出し、敵の攻撃を遮るように「置く」ことだけを意識した。
ガッ、と鈍い音がして、ゴブリンの攻撃を鉄剣の平に当て、軌道を逸らす。
「……今のは、悪くない。忘れるなよ小僧」
ガレンの短い評価。ガレンはそこに何もなかったかのようにゴブリンを倒した。
(最短距離で出したはずの剣先が、まるで吸い込まれるようにゴブリンの武器に当たった。技術にしては出来過ぎている。これが、俺が全振りしたステータスの……因果の歪みか。素直には喜べそうもないな。
運が良かっただけだ、俺にはまだ何の技術もない)
いろいろ考えている中、ガレンはゴブリンの胸近くにナイフを刺し、開いていた。
「魔石があったぞ、ゴブリンから出るのは珍しいな。」
「ゴブリンの身体を開くのですか?」
「昨日も、見ていなかったのか。自分のことをとやかく考える前に目の前のことを常に見ておけ。
魔物からの素材は魔石や肉、皮だな。ゴブリンからは魔石ぐらいだな。魔石はサイズによって金額が違うが、ゴブリンから取れるのは小さいものしかない。
今日はギルドに戻り、昨日の薬草と魔石を売るぞ。」
ギルドに戻り、薬草と魔石をうったが銀貨一枚にしかならなかった。依頼として受けたものでもなかったことが大きかった。
宿に戻り、昨日からの日課になった、スクワットを終えた俺は服の中にある錠剤に触れた。
ガレンに言われた通り、今は現実ともっと向き合うべきだ、自分のことでウジウジしている時間はない。
ガレンの助けになれればとだけ思っていたが、だが今は、それ以上に「この世界で、自分の足で立ちたい」という欲求が芽生えている。
確約できませんが、もう一話頑張ります。




