年齢の重み
ついにスキルポイントについてです?
翌朝。街の外へ出る準備を整えていた俺に、ガレンの冷徹な一言が突き刺さった。
「一週間、お前は何をしていた?」
「……何をって、厨房で精一杯働きましたが」
「それが『怠慢』だと言っているんだ、小僧」
ガレンは俺の胸元を指差した。
「毎日同じスープを作り、同じ手順で鍋を回す。それはただの『作業』だ。客が喜ぶから、効率がいいからと、現状を維持し、波風を立てないルーチンワーク。そんなものに、スキルの昇華なんて起こるはずがないだろう」
頭を殴られたような衝撃だった。
「完璧なルーチン」 。それが、この世界では成長を拒む「逃げ」と定義される。言われたことを完璧にこなすだけでは、限界を超えられないのだ。
「そういえばエイド、スキルポイントはどうしている?」
「スキルポイント?なんですかそれは?」
「そんなことも知らんのか、本当に何者だ?
まぁ良い、この世界には**『年齢の重み』**という理がある。ステータス画面を確認しろ。……隅に数字が浮いているはずだ」
俺は言われるままに、鉄のステータスカードに意識を向けた。
そこには、今まで気づかなかった項目が表示されていた。
■ スキルポイントの法則
ガレンの解説と、カードに表示された情報を統合すると、この世界のルールはこうだ。
1.平等の蓄積: 誰であれ、1歳年を重ねるごとに「1ポイント」のスキルポイントが付与される。これは40歳になるまで続く。
2.入手不可: モンスターを倒してもレベルは上がらず、ポイントも手に入らない。ただ「生きた時間」だけが対価となる。
カードを見つめる俺の指が震えた。
そこには、俺がこちらの世界では18歳であるにもかかわらず、『未割り当て:40ポイント』
この世界に来るまでに擦り減らしながら生き抜いた40年が付与されたのか。
(これは話すと余計に疑われるな。今はまだ秘密にしておこう)
「気をつけろよ、ポイントはあくまで補助的な役割だ。成長促進を促すとでも考えておけ、
それにな本人が持つ実際の能力値はわからない。運が悪い奴が運に振ったからといって、すごく幸運になるとは限らない。筋力がない奴がポイント振ったら筋肉がつくわけではない。それに自己研鑽と経験で筋力と技巧はある程度までは伸ばすことができる。魔力は生まれ持った才能に大きく左右されるが、魔物を倒すことで成長することもまれにあると聞く、運に関しては未知数だ」
ガレンの視線が、かつてないほど鋭くなる。
普通の人間なら40歳になってようやく到達する「完成形」のポイントを、俺は18歳のスタートラインで、すでに持っている。しかも、チートはこれだけじゃない。俺は今後、40歳になるまでの22年間、毎年1ポイントずつ、さらにポイントを上積みできるのだ。
ステータスは4つの柱にて構成されている。
ガレンに促され、俺は4つの項目を精査した。この40ポイントが、大金貨3枚への軍資金となる。
さてどう振るか。
ガレンの解説と、手元のステータスカードに浮かび上がった記述を照らし合わせると、この世界の住人が持つ力は大きく四つの指標に分類されていた。それは単なる数値ではなく、過酷な異世界で生き残るための「生存の法則」そのものだった。
• 筋力
肉体の強靭さと、スタミナ、物理的な破壊力を司る指標。
• 技巧
精密な動作の正確性と、武器の習熟速度を司る指標。 既存のスキル……例えば俺の持つ「調理」などの習熟速度にも直結する。
• 魔力
魔法の出力や発動効率、魔力の増加。そして何より目に見えない魔術的脅威への「抵抗力」を司る指標。 ガレンによれば、5ポイントでようやく魔力の恩恵を自覚でき、10ポイントで人並みの「平均値」とされる。 20ポイントを超えれば上級者の領域だが、冒険者として外に出るならば、理不尽な呪いや魔力の余波で即死しないための「生存の保険」として不可欠な要素だ。
• 運
他の三柱と決定的に違うのは、本人の努力や自己研鑽で向上させることが極めて困難だという点にある。
だが、どのように作用するかはわからない。
「筋力」や「技術」は、これからの訓練と実戦……つまり「自己研鑽」で、ある程度は後から肉体に叩き込めるはずだ。 だが、「運」だけは努力でどうにかなるものではない。どれだけ完璧に準備しても、不運一つで全てが瓦解することがあるのを俺は知っている。
「お前にはいくつか金を稼ぐ手段があるが、冒険者として外に出るなら、最低でも5ポイントは『魔力』に振っておけ」
不意にガレンが口を開いた。
「魔物は牙や爪だけではない。不可視の呪いや魔力の余波で、命を落とす素人は数えきれん。最低限の『抵抗力』を持たないまま外へ出るのは、全裸で戦場に行くのと同じだ」
「……アドバイス、痛み入ります」
俺は納得し、指先を動かした。 最短で「大金貨3枚」という途方もない売上を立てるための、勝負の投資だ。
俺は「魔力」の項目に10を割り振った。 ガレンの言う「保険」だ。 これで理不尽な魔力の余波で即死するリスクは、最低限抑えられるはずだ。
そして、残りの30ポイント。
(筋力と器用は、18歳の肉体とこれからの実戦で『回収』できる。だが、運だけは後から買い足せない)
俺は迷わず、残りの30ポイント全てを「運」に叩き込んだ。
「……終わりました」
「ほう。どれだけ振ったか教えろ、他人のスキルポイントに関してはステータスカードを見ても知ることはできないからな」
「好都合でした、手の内を晒さないのも生きていく上では大切ですよね、ですが魔力のアドバイスは反映させましたよ。全裸で戦場に立つ趣味はありませんから」
俺が笑いながらカードを懐に収めると、ガレンはそれ以上追及せず、ただ鼻を鳴らした。
40年分の蓄積は、すべて勝負所に注ぎ込んだ。
「運30」という、この世界の理を捻じ曲げるほどの極振りが、果たして戦場でどう牙を剥くのか。俺自身にもまだ予測がつかない。
「ふん、まあいい。その得体の知れん目が、地獄で吉と出るか凶と出るか、見せてもらうぞ。……行くぞ、エイド。ここからは『作業』じゃない。命の奪い合いだ」
18歳の心臓が、かつてないほど激しく脈打っていた。
後戻りはできないな、ここからは「利益」を死ぬ気で取りに行くだけだ。
できるだけチートになりすぎないように調整してます。




