鉄の墓場の主
今日も更新できました。
街外れの古い廃屋。そこは「廃屋」という言葉から連想される静寂とは無縁の場所だった。
近づくにつれ、内臓を揺らすような重低音が響き渡る。地面から伝わる振動が、18歳の瑞々しい肉体を微かに震わせた。
周囲の光景に、俺は思わず息を呑む。
そこには、無数の武具が地面に突き刺さっていた。ひび割れた大剣、折れ曲がった槍、そして原型を留めない盾の残骸。それらはまるで墓標のように立ち並び、夕闇の中で禍々しい輝きを放っている。食堂の老職人が言っていた「鉄の墓場」という言葉が、不穏な実感を伴って脳裏に蘇った。
「……ここか」
ガレンが声を潜める。普段の傍若無人な彼にしては珍しく、その声には警戒と、わずかな敬意が混じっていた。
廃屋の奥、巨大な炉の前にその男はいた。
岩のような筋肉を煤で汚し、背の低さと反比例の巨大な槌を羽毛のように振り下ろす男――ドワーフか。
(やはり、いたんだな。異世界にいることをより実感するな)
彼は俺たちの気配に気づいているはずだが、一度としてこちらを振り向こうとはしない。
ふと、足元に突き刺さった一本の長剣に目が留まった。
刀身は半ばから折れているが、残された根元には、素人目にもわかるほど緻密で美しい波紋が浮き出ている。
(……これが、失敗作だというのか?)
無意識に俺の右手を動かした。その折れた剣の柄に指先が触れようとした、その時だった。
「目利きもできん素人が、俺の墓場を汚すな。」
地を這うような低音。
ガレンは無言でマジックバックから「相棒」をだして、ドワーフに突き出した。
「これを修理することができるか」
さっ、と盾に目を通し残念そうな顔を一瞬した。
「そんな、ガラクタはさっさとしまって帰れ」
「貴様……!」
ガレンが掴みかかろうとするのを、俺は手で制した。この男は拒絶しているのではない。自分の技術に見合う「本物」が来ないことに、ひどく退屈しているのではないのか?
「失礼ながら。これだけの名品を打ち捨てているのは、素材に責任があるとお考えですか? それとも、これを振るう人の器ですか?」
槌の音が止まった。
ゆっくりと振り返り、俺を射抜くような視線で見据える。
「……餓鬼が。知ったような口を叩くな」
「この盾は、ガレンさんの『相棒』です。命を預ける道具に対し、持ち主がこれほどまでの執着を見せる。それは、この盾がかつて最高級の意思を持って打たれた証拠ではありませんか?」
「気に入らん。そんな大切なものをどうしてこんなふうにした。」
巨大な槌で盾をさした。
ガレンは口惜しそうに
「すべてはわしの力不足だ。」
「盾ではなく、自分の問題だと言うのだな」
「…俺の名はバルガスだ。その盾をよこせ。」
バルガスは鼻で笑い、乱暴に盾をひったくった。だが、その指先がひび割れをなぞる動きは、驚くほど繊細だった。
「……無茶な使い方をしやがって。
だが、芯にある『声』はまだ死んでいねえな。直してやる」
安堵が広がろうとした瞬間、バルガスが冷酷な条件を突きつけた。
「だが、普通の鉄じゃこの盾の『矜持』を継ぎ接ぎできねえ。霊峰の奥にある『氷晶石の核』が必要だ。それと……技術料だ。〆て大金貨3枚だ。用意できなきゃ、このまま叩き壊して墓場に埋める」
「……ふざけるなバルガス! 大金貨3枚だと!?」
ガレンが叫ぶ。無理もない。大金貨3枚は、銀貨にして300枚。先ほど現場監督から「お礼」としてもらった、あの重みのある銀貨1枚を思い出す。
食堂でどれだけ汗を流し、火に炙られても、手に入るのは一日銀貨3枚程度だ。しかも、宿代もいる。大金貨3枚を稼ぐには、今の稼ぎでは生活費を削っても半年はかかる。だが、俺たちにはそんな時間はない。
「ふっかけてるんじゃねえぞ、バルガス!」
「……。俺は慈善事業で鉄を叩いてるんじゃねえ。この盾を直すってことは、俺の命を削るってことだ。払えねえなら帰れ」
バルガスの言葉には、プロとしての断固たる拒絶があった。ガレンが悔しげに拳を握る中、俺は静かに、しかし遮るように口を開いた。
「……やります。その仕事、受けさせていただきます」
「エイド! お前、本気か!?」
ガレンが驚愕の声を上げる。バルガスもまた、初めて槌を完全に置き、俺の目を正面から見た。
「今は持ち合わせがありません。ですが、素材とお金は必ず用意します。これは『依頼』ではなく、我々の命を繋ぐための『投資』ですから」
「威勢がいいな、餓鬼が。だがな銀貨1枚の重みも知らねえ若造が、大金貨の山を前にしていつまでその顔を保っていられるかな?」
俺は心の中で自嘲した。あいにく、銀貨の重みならさっきの食堂で嫌というほど教わったばかりだ。
大金貨3枚。
だが、知っている、『本当に必要な道具と人間に、金を惜しんではいけない』ということだ。
「……あいにく、心の方はあなたの打ち損ないみたいにそう簡単には折れませんよ」
「ほう、そこまで言うならその盾を置いていけ、3ヶ月は待ってやる、金と素材を集めてこい。
集めることができなければ、『こいつ』も墓場行きだ。」
「それは、ガレンさんの大切な…。」
「お前ができると啖呵を切ったんだ、その言葉は嘘なのか、それとももう心は折れたのか、そんなに俺の打ち損ないは安くねぇぞ」
「小僧がやると言ったんだ、盾を預かってもらおう。
だが返してもらう時に傷がついていたら許さんぞ」
「そこまで、その餓鬼を信じてるのか。それでは預かっておこう」
バルガスに、盾を預けてお互い仕事に向かった。
その日の仕事はこなすだけの作業で、気持ちが入らなかった。
宿に戻り、まず謝罪した。
「ガレンさん、すいません。」
「仕方ない、直すにはこれしか手段がないのだからな。だが忠告だ、なんでも自分の言葉でなんとかなると思うな。誠意が誠意で返ってくる甘い世界ではない。
どちらにしろ、残り4日は働き、宿に2週間分の金をいれる。残った金で素材を集めるための準備と訓練だ。」
本日中にもう一話頑張ります。
一旦どこかで設定をまとめます。みなさん大好きなスキルポイントの、割り振りもそろそろおこないます。




