第32話:お母さん登場と怪獣映画の終わり
【木更津市・アウトレットモール付近】
「ひぃぃぃっ! 追いつかれる! 京極様、追いつかれますぅぅ!」
「うるさい! ベタ踏みしろォ!」
ズシンッ! ズシンッ! ビルほどに巨大化した泥のゴーレム(泥ちゃん)が、アウトレットモールの駐車場をショートカットしながら、黒塗りの公用車を追いかけていた。
泥ちゃん(心の声):『謝レェ! シッポ踏ンダノ、謝レェェ!!』
泥ちゃんに悪気はない。ただ尻尾を踏まれた謝罪を求めているだけなのだが、端から見れば完全に怪獣映画のクライマックスである。
◇
【ウラヌス上空・高度1,000メートル】
『うおおおお! 現場のGAMIっす! 下見てください! マジで泥のバケモノが黒塗りセダンを追いかけてます!』
《来場者数が30,000人を突破しました》
《ランキング入り:『空撮』カテゴリで1位にランクインしました》
【コメント欄】
:ガミ仕事早すぎwww
:空撮とかテレビ局かよ
:てか何に乗ってんのそれ!?
:羽ばたいてない?
:それはどういう仕組み?
:ぬこは逃げてー!!
:命懸けすぐる
(視聴者数:32,011 ↗ ↗ ↗)
ガミは震える手でフリスクのケースを開け、中身を放り投げた。ポンッ! 白い煙と共に、巨大な翼竜が現れる。かつて木島を助けるために空を飛んだトラウマを乗り越え、彼は再びワイバーンの背にしがみついていたのだ。
「兄ちゃん、俺これ以上リアルワールドの地表に近づくのヤダぜ? 自衛隊怖いし」
「わかってる! ここでいい! ……ああっ! 見ろみんな、アウトレットの先に……戦車だ!」
◇
【ミサキのログハウス】
「はぁ? 何やってんのあの子!?」
ガミの配信画面を見たミサキは、飲んでいたプロテインを吹き出した。「泥ちゃんじゃん! ちょっと目ェ離した隙に、何あんな巨大化してんの!」ミサキはスマホを放り投げ、リビングの窓を開け放った。
「ポチ! 出番よ! 最速で行くよ!」
「ガウッ!」
◇
【付近自衛隊展開ライン】
「対象、ロックオン! 射撃準備よし!」
封鎖線を敷いた自衛隊の10式戦車が、接近してくる泥巨人へと砲身を向けた。
「た、助かった……! 撃て! 早くその泥人形を撃ち殺せ!」車から転がり出た京極が、地べたに這いつくばりながら絶叫する。
「撃てェェェッ!」
——ドッゴォォォォンッ!!
戦車が火を噴こうとした、まさにその瞬間。上空から、隕石のような速度で『銀色の巨狼』がアスファルトに突き刺さった。
=≡≡≡≡(っ´Д`)っ ズサー!!
凄まじい衝撃波で戦車が浮き上がり、砲弾の軌道が明後日の方向へと逸れる。舞い上がった土煙の中から、一人の女性が姿を現した。
「コラァァァァァァッッ!! 泥ちゃん!! 何やってんの!!」拡声器も使わない、素の怒声。しかし、その声は戦車の砲撃よりも鼓膜を震わせ、戦場全体を氷結させた。
——ピタッ。 泥巨人の動きが、完全に止まった。
泥ちゃん:『ドロ……!?(マ、ママ……怒ッテル……!)』
ミサキは仁王立ちになり、腰に手を当ててビルサイズの怪獣を睨み上げている。
「お昼寝から起きたらいないと思ったら、こんな所で人様に迷惑かけて! 車潰したらどうすんの! 怒られるの私なんだからね!」
『ド、ドロォォォ……(ゴ、ゴメンナサァァイ……)』
シュルシュルシュル……先ほどまで威容を誇っていた泥巨人が、みるみるうちに縮んでいく。数秒後、ミサキの足元には、元のトカゲサイズに戻った泥ちゃんが「キュゥ……」と小さくなって反省していた。
「まったくもう。ほら、帰るよ!」
ミサキは泥ちゃんをヒョイと抱き上げると、ポチの背中に飛び乗った。
「あ、お騒がせしましたー。うちの子がすいません」ポカンと口を開けている自衛隊員たちに向かって、ミサキはペコッと軽く頭を下げる。
「え……お、お母さん……?」
「じゃ、失礼しまーす」
「ち、千代乃……?」足元で腰を抜かし、泥まみれになりながら呆然と見上げている京極。しかし、ミサキの視界には、今にも潰されそうだったその『元・お客さん』の姿など、文字通り1ミリも入っていなかった。
「行くよポチ!」
「ワォォォン!」
銀色の巨狼は一瞬にして加速し、光の膜〔ウラヌス〕の中へと消えていった。残されたのは、排気ガスを上げる戦車と、完全に置き去りにされた京極だけだった。
【コメント欄】
:お母さん強すぎワロタ
:オチが完璧すぎるwww
:母親の怒り>>>>戦車の主砲
:あの大怪獣、ただの迷子だったのかよww
:無慈悲なガン無視で草
(第32話 完/第33話へ続く)




