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第30話:寝返った猿渡(京極の部下A)

【ミサキの拠点・Adobe風のオフィス】



土の匂いがする、ひんやりとした空間。ミサキの土人形(泥ちゃん)が遊び半分で作り上げたその建物は、外観こそお洒落なサンタフェ、Adobe風だが、中は机一つない「がらんどう」のテナント状態だった。



「ここを事務所的に使おうと思ってて。まだ何もないけど、徐々に揃えてこうと思ってるの。とりあえず、ココで」



「はい。早速ですが、それで、先ほどのBot攻撃ですが、結論から言うと、これは分散型攻撃ボットネット)によるものです。それも、防災アプリ『イージス』をインストールしている、一般国民のスマホを踏み台にした……」



「……は?」



「万単位の端末を裏で乗っ取り、遠隔操作(DDoS攻撃)の踏み台にしているんです」



「く、狂ってる……」



「はい。国家プロジェクトのシステムを、個人の私怨のために悪用するとは……あまりにも悪辣です。京極さんも、甲田さんも、完全に一線を越えました」



「まって、今、甲田さんって言いましたよね、甲田さんって、荒井注テクノロジーの部長の?」



「えぇ、高田さん、いゃ、ミサキさんにとっては昔の上司にあたる方でしたね」



「…うげぇ…関わり合いたく、ないーー」



「ですよね、お気持ち察します。ですから、あとは私の方で対処しときますけど、如何ですか? 採用ってことで?」



「ですけど、採用とか雇用とか、そういうのはちょっと……。ただ、ココで好きにやってくれる分には構わないですけど……」



「ありがとう。ミサキさん……。あとはお任せください!」





【有明・そなエリア東京 執務室】



「どういうことだ甲田!! なぜ書き込めない!!」だだっ広い執務室に、京極の怒号が響き渡った。



「いやー、参りましたね。向こうのファイアウォールに完全に弾かれてます。こっちのダミー通信の癖を完璧に見抜かれましたわ」甲田はヘラヘラと笑いながら、エラーが滝のように流れるモニターを指差した。



「しかもタチの悪いことに、弾いたトラフィックの負荷をこっちのサーバーに跳ね返してきてますね。イージスのメインフレーム、今パンク寸前っすよ」



「ふざけるな! 数百万台の通信だぞ! それをどうやって防ぐというのだ!」



「向こうのエンジニアが、中々のやり手すね。……いやー、相手に不足無しっすね、うちのEVEちゃんも感心してますわw」



京極はバンッ!とデスクを叩き、血走った目で立ち上がった。「システムがダメなら物理だ! こうなったら直接乗り込んで、あの女を引きずり出してやる!」



「え? 乗り込むって、あのダンジョンにですか?」部屋の隅で縮こまっていた乙野(営業部長)が反応した。



「そうだ! これは最前線の視察であり、直接指揮だ! 乙野、甲田! 貴様らもついてこい!」



「ええー? 私もですか?」と甲田が不満げに首を傾げる。「ひぃぃっ! む、無理ですって!」と乙野が後ずさる。



「うるさい! 全員行くぞ!」怒りで完全に我を忘れた京極は、スーツのジャケットを引っ掴み、二人を連れて執務室を飛び出していった。





【ミサキの拠点・Adobe風のオフィス】



「猿渡さん! 嘘みたい! あの荒らしBot、ピタッと来なくなりましたよ!」ミサキがスマホの画面を見せながら、がらんどうのオフィスに顔を出した。



「ええ。イージスのダミー通信が持つ特有の癖……バックグラウンド実行による『画面解像度ゼロ』のフィンガープリントをWAFで弾くように設定しました。今頃、向こうのサーバーは跳ね返ったエラーの処理でパンクしているはずです」



「……解像度ゼロ。なるほど、フロントエンドの盲点ですね。甲田部長、そういう泥臭いところ見落としそう。さすがです、猿渡さん」



「さて、とりあえず今日のところはもうこれで帰りますけど……また明日も、ここへ来てもよろしいですか?」



「え? ああ、お好きに使ってくださって構わないですよ。このオフィス、どうせ誰も使ってないですから。……っていうか」



「はい?」



「猿渡さんって、あの入り口の結界、普通に抜けられるんですよね? 行き来が自由にできる人なら、別に私の断りなんか必要ないと思うんですけど」



「結界? そう呼ぶんですか、あれを……」





【ウラヌス内部・アクアライン側の森】



ザクッ、ザクッ……。猿渡は、ウラヌスの入り口へと続く森の土を踏みしめながら歩いていた。「……ふぅ。しかし、本当に空気がいい所だ。あっちの淀んだ世界とは大違いだな」木漏れ日を見上げ、猿渡は大きく背伸びをした。



ふと、視線の先に青白い光の膜——現実世界への出口が見える。「……これから帰るったって、またあの橋をずっと歩いて渡るのか……」猿渡の足取りが、ピタリと止まった。



……ふふっ。こんなこともあろうかと、一応キャンプ道具は持ってきてるんだよね。



「ここをキャンプ地とする!」



木々の間にテントを広げながら、初老の男はまるで少年のように、清々しい笑顔を浮かべていた。



(第30話 完/第31話へ続く)

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