第26話:ダンジョンクルーズ停泊中にBot襲来
【コメント欄】
:美味そう
:ポチ限界で草
:待てがちゃんとできてるえらい!
:こんな平和なサバイバルある?
:飯テロやめろ
:深夜に見るんじゃなかった
甘い香りが漂うキッチン。ミサキはフライパンから見事なキツネ色に焼き上がったパンケーキを皿に移した。
「おまたせ、ポチ! ミサキ特製パンケーキだよ……まだだよ、よしと言うまてお待ちなさい」
——と、その時だった。
《まもなく、ダンジョンクルーズが来ます》
「あッ、クルーズぅ来るぞ!
……あれ使ちゃおうかな!」
ミサキはポケットからスマホを取りし翻訳アプリ——『Google Translate Pro(魔導プラグイン導入版)』を起動した。
「ポチ! まて」
ポチ(魔獣フェンリル)は、「グルル……」と喉を鳴らした。
『翻訳中……』
スマホ音声(渋いバリトンボイス):『——我を誰だと思っている。我は誇り高き狼、神をも喰らう牙、フェンリルぞ? そのような物言い、我のプライドが許さぬ。人間風情が気安く命令するでない』
【コメント欄】
:え? いま犬が喋った!?
:中の人?
:どこから声した?
:翻訳アプリか!?
:CVがイケオジすぎるだろww
:翻訳機能優秀すぎるだろ
「はぁ? 何その言い方? パンケーキは食べたくないのかな?」
スマホ音声:『ワ、我は、——神をも喰らうぞ? そ、そのような人間風情の命令は……ま、待てば、そ、それを食えるのだな?』
「よし」
パクリ。ポチは一瞬でパンケーキを丸呑みした。大層なプライドはあっけなく食欲に屈した。
【コメント欄】
:プライドどこいったwww
:食うのはええええええええ!
:中の人が食べてるの?
:よく我慢できたね、やしやし
:秒で完食してて草
:神を喰らう(パンケーキ)
:ぬこは逃げてー
:ポチは良い子
:やけどに気をつけてーー
「あんた、プライドとか言ってる割にがっついてんじゃないの。顔にシロップついてるわよ。ほらおいで、拭いてあげるから」
スマホ音声:『す、すまん主よ、かたじけない』
——と、その時だった。
《ダンジョンクルーズが到着しました》
【コメント欄】
:クルーズから
:!?
:ぬこは逃げてー
:キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!
:クルーズきたああああ
:このたいみングで
:キタコレ
:♪───O(≧∇≦)O────♪
:船長ーー! 延長確定
:初見さん!この犬、喋ります!!!
:クルーズきたああああ
:初見さんいらっしゃい!
:北
:何ここ、飯配信?
:いらっしゃい (´・ω・)っ旦~
:犬デカすぎだろww
:モフモフしてー
:しゃべる犬(CV:バリトンボイス)の枠です
「クルーズの皆さんこんにちわ、繕令嬢ミサキでーす。ダンジョンでDIYリフォームチャンネルやって、まーす。最近はダンジョンで取れた素材を使ってマヨネーズなんか作ってまーす!」
「こちら、でーす『特製ダンジョン・マヨネーズ』の卵はコカトリスの産みたて。油はダンジョン・ウォールナッツから抽出した植物油。お酢はベリーの発酵液。……化学調味料ゼロの、完全オーガニックよ。まもなく商品化して、みんなにもお届けするよー! ハイ! じゃぁ、ポチからもよろしく!」
スマホ音声:『む、無茶振りするな』
「唐揚げは欲しく無いのかな? ポチ」
スマホ音声:『……至高の酸味とコクのハーモニー。我が牙を以てしても砕けぬ美味さ……人間どもよ、この奇跡の味に平伏すがいい……』
【コメント欄】
:無茶振りに答えたーー!
:食レポ完璧かよwww
:唐揚げで買収されてて草
:ぽちかわええええええええ
:マヨネーズ買いますーーー
:どこで売るの?
:上から目線の犬w
:マヨマヨ♡
:コカトリスってなんぞ?
:アマゾン マーケットプレイス??
:マヨネーズ売ってぇーー
:犬ってマヨネーズ食べていいの?
:ダンジョン素材マヨーー
《Q. この番組を延長しますか?》
① 次へ
② 延長
【コメント欄】
: 船長、延長よろ
: wktk
: 延長よろ
: 延長
: 延長
: 見届けたい
: ぬこは逃げてー
: wktk
: クルーズは座礁してーー
——と、その時だった。
◇
【有明・そなエリア東京 執務室】
【コメント欄】
:公序良俗に反します
:通報しました
:税金払え
:公序良俗に反します
:通報しました
:税金払え
:公序良俗に反します
:通報しました
:税金払え
:公序良俗に反します
:通報しました
:税金払え
:公序良俗に反します
:通報しました
:税金払え
:公序良俗に反します
:通報しました
:税金払え
「フハハハハ! 見たか、これがITの力だ! 見ろ、あの女のあわてぶりを 」
「おい、猿渡、見てるのか? 傑作だろが! フハハハハ!」
「こんなことして何が楽しいんですか? 京極さんがそんなだから、雉岡も愛想つかしたんじゃないんですかね?」
「フハ… …フ… フ… 雉岡? そう言えば雉岡はどこだ? おい雉岡! 見ろ! 傑作だろ!? フハハハハ!」
「京極さん! 雉岡……来てないですよ、もう何日も。休職なんですって、もしかして知らなかったんですか?」
「……雉岡が、休職だと?」
「はい。適応障害ですって……ウラヌスが見えないてのも、今思えば、限界だったんすかね……」
本部からの左遷、道連れにされた最後の部下——猿渡、そして雉岡。しかし雉岡の姿はもうそこには無かった。己のくだらない見栄と執着の代償として、京極は失ったものの大きさに少しも気づいていなかった。
(第26話 完/第27話へ続く)




