↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/118

甘い香り

     ………………


 稲葉さんから離れたシャイターンは『簡易化した詠唱』によって砂塵を発生。向かい来る稲葉さんやもう一体のシャイターンに最後の一撃を与えんとする重吾、そしてビッグフッドにとどめを刺そうとする金田。前衛の三人を巻き込み、視界を遮る。

 

 金田は砂塵の中、二体のシャイターンとビッグフッドが縦横無尽に動く姿を何とか感知しようと集中しつつ、現状の分析を行う。

 ――クソッ。コイツも『簡易化』を使うのか……! 【デスクロウズ】のヤマだかが使っていた……靖穂や三本も練習しているとは言っていたが、今現状ではまだ無理なようだ……。ビッグフッドとシャイターンたちの攻撃を許すのは手痛い。シャイターンは特に後衛組の攻撃を無力化できるからな……。


 後衛組は砂塵の中を素早く動くビッグフッドに中々魔術の狙いを付けられずにいた。さらに、シャイターン二体による『風刃』の乱打が後衛組を襲う。一つ一つの攻撃は6、7ダメージ程度だが、ぶつけられるたびに魔術の詠唱を中断させられ、ビッグフッドへの攻撃を止められてしまう。

 砂塵の中、稲葉さんは感知を利用しつつ、あちこち逃げ回ることで攻撃を避けようとしていた。

 ――私や重吾の感知と予知じゃ……立ち尽くすだけでは絶対に耐えきれない。でも、こうして逃げ回っても……!


 彼女のその予想は的中する。


 「ギシャアアアアアッ!」


 『ドガァアアッ!』


 ビッグフッドが背後より飛び掛かり体重を乗せた攻撃を仕掛けてきたのだ。51ダメージを受けた稲葉さんはその場に倒れ込む。そこへビッグフッドは無慈悲な踏みつけを行なおうと足を上げる。


 『ドスッ!』


 そこへ、國山先生が放った反転回復魔術がビッグフッドに結ばれ、獣は即座に消滅。國山先生はシャイターンたちによる牽制の風刃の起動を全て見切り、当たらない位置で魔術一回分の時間を何とか確保し、稲葉さんのピンチを救った。

 だが、ビッグフッドの消失によりシャイターンが動き出す。

 シャイターンの一体は稲葉さんへ、もう一体は金田へと呪いを準備。三本はその魔術を感知し、叫ぶ。


 「重吾! お前の右に34歩の場所にシャイターンが居る!」

 

 簡易化されていない呪いの準備によりシャイターンは動きを止めている。そこへ重吾は走り、自らの狭い範囲の感知能力が敵の姿を捉えると、魔術のため手元に集中した魔力のせいで無防備となった頭部、その額の一点に鋭い突きを入れる。

 

 『ドッ……』


 稲葉さんを狙っていたシャイターンは消滅する。だが、残るもう一体は金田に向け呪いを放ち、その呪いの魔術結合によって、簡易化した風刃を連打。一発5ダメージ程度の攻撃ながら、無数の刃が金田に降り注いでいく。

 砂塵が消え、稲葉さんと重吾は最後のシャイターンへ全力で駆けだす。だが、重吾への攻撃はさらに勢いを増し、みるみるうちに瀕死へと追いやる。

 そして、稲葉さんの蹴りがシャイターンに炸裂する寸前。金田のHPは0へ……。

 だがその瞬間、同時に靖穂による回復魔術が間に合い、HPは回復される。

 シャイターンは稲葉さんの跳び蹴りにより870ダメージを受ける。消滅寸前のシャイターンはなおも諦めず、金田への簡易風刃を放とうと印相を結び続ける。が、重吾の首への軽い突きによりその術を達する前に消滅する。


 重吾は戦闘を終えてすぐ、メンバーに振り返って言う。


 「ふぅ……コリャ、この先のホール行くだけで今日は終わりそうだな……」


 三本が同じように息をつきながら言う。


 「矢本達も第四層には苦労しているらしいよ。下の層でもっとレベル上げてから行くとか言ってたな……あいつ等、僕たちよりもちょっとレベル高いはずなんだけどな……」


 稲葉さんが重吾を励ますように言う。

 

 「でも、昨日はここで撤退したんだから一歩前進だよ。今回の反省点を生かせば明日また、ここに来るときはもっと消耗なく倒せるだろうし」


 重吾はそれを聞いて笑う。


 「まあ、そうだよな。そう思って行かなきゃなあ……よし、修君の回復も終わったとこだし、次に行こう、次」


 金田は瀕死状態から回復し、伸びをしながら、先へ行く重吾の後に続く。


 「全く……。お前はいつも変わらずゲーム感覚だな……」


 金田のその呟きのあと、一行は次なるホールへと向かうため通路に入っていく。

 だが、その通路の様子は、先程と少々異なる雰囲気があった。

 甘い香りが漂い、紫色の間接照明のような灯りのほかに、何か煙のようなものが漂っている。國山先生が気付いたように呟く。


 「お香かしら……。この煙」


 重吾は振り向いて訊く。


 「お香? ……甘い匂いって言うか……香水みたいな感じですけどね」


 「香木とか、アロマとかは甘い匂いも多いのよ。でもこうした状況でそう言う匂いを嗅ぐのはあまり好い気がしないわ……」


 稲葉さんが訊く。


 「いい気がしないって……何か心当たりでもあるんですか?」


 國山先生は少々迷いながらも答える。


 「……まあ、何と言うか……この第四層の雰囲気もそうだけど、少し妖しいというか……。今までの層とは違うから、妙な効果でもあったら嫌だなと思ったのよ。でもそう言う体調の変化とかはないみたいだから……」


 そんな話をしながら前に進んでいると、三本は前方に気配を察知する。

 その気配はこの通路の先、例によって開けたホールに居る一体の『悪霊』のものである。三本はそれを感知したとたん、驚き、そしてすぐに他の面々に言う。


 「次のホールの敵を察知した。敵は一体……。恐らく……次はこの層の『ボス』だ」


 前方の通路の闇の中、甘いにおいを放つ香を振りまく存在が、侵入してくる冒険者を察知してニヤリと笑いを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。