夜魔の香
………………
三本は暗闇の奥、怪しげな煙立ち込めるホールの中央に立つ人型の悪霊に向け、電撃を放つ。
『バチバチバチィイッ!』
電光に包まれるホール、そしてその悪霊の姿が一行の瞳に映る。そこに立っていたのは背に茶色の翼を持ち、脚がフクロウの如く鋭い爪を生やした黒い衣をまとう女性だった。彼女はその足に壊れた足枷を嵌め、口には檻のような口をふさぐ拘束具が付けられている。
そして、彼女は最低限の動きでその電撃を避け、翼を広げ羽ばたくことで、立ち込める煙を通路に差し向ける。
――何だ? あ、頭が……ぼうっと……。
その煙を戦闘でもろに吸い込んだ金田は意識が朦朧とする。
そして、三本は他の前衛二人が煙を避け、とっさに口を覆う中で立ち尽くす金田の身体に微弱な魔術結合が結ばれていることを発見する。
――魔術? この煙がヤバいのか……? いや、とにかく奴のステータスを確認しなくては始まらない……!
三本はとにかく前に出るように前衛組に指示しつつ、金田の解呪を行う。魔術結合は単純で触れるのみで解呪が可能であり、金田もすぐに意識を取り戻した。
全員が一定間隔で散らばるように前に進み、目の前の、翼をはばたき空へ舞い上がる敵のステータスを確認する。
リリス HP10000/10000
・|戦闘点《BATTLE POINT》:1050
・|知力点《INTELLIGENCE POINT》:2200
・|感知点《SENSE POINT》:1500
・|予知点《PRECOGNITION POINT》:820
・|技能点《TECHNIC POINT》:1000
『甘い煙』『惑いの声』を使用する。
靖穂はステータスと行動から分析を開始する。
――今までのボスと毛色が違う……。魔術の種類も少ないし……ステータスがすごく高い。でも……何だろう、この違和感は……。あの枷や口の拘束……。特に口の拘束は魔術や使用すると表示されている『惑いの声』の邪魔になるんじゃないの……?
疑念を抱きつつも靖穂は反転回復魔術を用意。
國山先生は、その技能点の高さから反転防護魔術により防御力を低下させようと準備を始める。
三本も解呪されるか避けられるであろうことを見越しつつ、電撃魔術を用意する。
前衛組の三人もそれぞれ別方向から一メートルほど空中に浮遊するリリスに向け攻撃のため走って近づいて行く。
もっとも素早くリリスの下に到達した稲葉さんは回転を加えた跳び蹴りを放つ、が、リリスはふわりと脚部を更に空中に上げ、宙で寝そべるような姿勢をとり、その蹴りをすんでで避け、次に攻撃を仕掛ける重吾の方を見る。稲葉さんの蹴りが空ぶる中で、重吾は大きく飛び上がり、リリスに掴みかかろうとする。
リリスはそれを見て、重吾の放物線起動をすり抜けるように、床に降り立つ。そして最後に攻撃を試みる金田のバットスイングを床に立った途端にゆらりとその振りに対応して寸前で避ける。その瞬間、リリスは既に目線を別の場所に向けていた。
『バチバチバチィイッ』
リリスは自分当たる電撃の着弾地点を調整、手元に着た電撃をその瞬間に解呪することで無力化。全ての行動が彼女の手の内。だが。
「!ッ」
三本の電撃がリリスに着弾するのと同時に國山先生の反転回復魔術がリリスの背に当たり、リリスを守る強固な魔力の防護が崩れる。彼女はすぐに解呪を試みようと背についた魔術結合に手を向けるが、その隙を見逃すほど前衛組はのろまではなかった。
『ガスッ』
金田の振り向きざまのバットスイングはリリスの腕に少々のズレはあれど当てることができた。560のダメージを見て、金田はこのボスの厄介さを悟る。
――当て感が悪ぃ……! クリーンヒット、いや、そもそも当てるのがキツい上に防護削ってコレ。一万もHP削るのは何時間かかるんだよ……!
そう思いつつも次なるスイングを用意する金田の横を抜け、稲葉さんが跳び蹴りをリリスに放つ。リリスはその攻撃を見つつ、その次に控える重吾の攻撃、その後に確実に来る靖穂の魔術、金田のスイング、三本の電撃、そして予測不能の國山先生の魔術……。これらを総合的に加味したうえで、完全に見きった稲葉さんの攻撃を敢えて受けるように、攻撃の軌道上に自身の胴体を上昇させる。
リリスは稲葉さんの跳び蹴りを受け、地上に叩き付けられる。合計1020ダメージを受けるが、重吾や金田との距離は少々離れた。
靖穂の魔術がリリスに放たれる。が、リリスはその反転回復術を先程の三本の電撃宜しく手で受け止め、解呪。そこへ國山先生の拘束魔術が飛来。リリスは動きを止められ、焦るような素振りを見せつつすぐに解呪を始める、が、國山先生は魔力を更に注ぎ、一瞬でも長く拘束を保つ。
『ヴァリヴァリヴァリイイイッ!』
リリスの背に強力な電撃がしっかりと当てられ、1310ダメージ。また、リリスによる拘束魔術の解呪が邪魔され、前衛組の三人が近づく隙を生む。金田はバットを振りかぶり、重吾は腕を突き出し、稲葉さんは床を踏みしめる。
リリスはその三人が自らの拘束を解呪すると同時に攻撃を加えることを知っている。そして、その状況を打破する方法も知っていた。
リリスは口の拘束具を破壊せんという勢いで口を開き、歌を歌おうと必死に、もがくように、声を発する。その声は美しく、悲惨さを思わせる響きを発する。
『ドサッ……』
――金田君に重吾君……!? それに……三本君も?
重吾と金田、そして三本がその声を聞き、突如としてその場で倒れ、眠りに落ちる。その姿に國山先生は戸惑い、リリスの次なる動きに警戒を強めるのだった。




