67 新しい人生?
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「どうしたの?怪我をしたの?」
「た、たすけて。毒草を食べたみたい。」
ああ、地獄に仏だわ。ありがとう仏様。悪魔の端くれでも助けてくれて。
「人間の毒消しだよ。飲んでみて。」
神秘的な青い髪と緑の瞳が私を覗き込む。私はゴクっと差し出された毒消しを飲んだ。甘くて飲みやすい。
「とりあえず、安全なところに行こう。」
私はコクンと頷いた。あ、でも、私水から出たらどうなんのかしら?体が水と同化してたはず……あ、下半身が魚になってる。魚なのに外に出て大丈夫だらうか?でも、もう無理。考えが纏まらない。
私はそのまま抱えられた。どうも大丈夫みたい。
しばらくは意識があったけど、すぐに途切れて夢の中に入って行った。
気がつくと私は小さなプールに寝かされていた。毒が抜けたのか苦しくないし、水温も心地良かった。でも、相変わらず足は魚。最奥まで行かずに離脱したから、人間に戻れてないんだわ。
「あ、目が覚めたんだね。」
ドアが開いて、命の恩人が顔を出した。彼のこと知ってるわ。巻き戻る前の学園時代にお菓子をあげたら感激してくれたロード・メイマリン君。男爵家の庶子で平民だけど、商人になって大成功する人。ゲームでも攻略キャラの一人だけあって知的な美形だ。
でも、この世界では私と彼は初対面のはず。こんな状態の私を何故助けてくれたのか?彼はやり手の商人だ……商売になると思われた?と言うことは、売られる?もしくは見せ物枠?
「どう?毒は抜けたかな?居心地はどう?人魚の常識が分からなくて。」
私も分かりません。でも、体半分のあったかい水は気持ちが良い。
「ええ、毒も抜けたようですし、快適ですわ。」
「良かった。聞きたいことがあるんだけど、人間の男と恋に落ちて子供を産んだリザイアという人魚を知らない?僕の母なんだ。」
え?!お母様??
「ご、ごめんなさい。私、人魚になったばかりで。」
「え?人魚は生まれつきではなくて、変化していくのかい?元々君はなんだったの?」
えーっと、蛇?いや直前は蜘蛛だった。その前は人間か悪魔だった。あ、女神だったかも。いや、でも、その一部というか人格の一つというか。あれ?私、なんだろう?
「もともとは人間だったのですが、悪魔に蛇にされてあの洞窟に転送させられて、色々食べているうちにこの姿になりました。」
た、多分、これで合ってるよね?
「じゃあ、人魚の知り合いは誰もいないの?」
「はい。お役に立てなくてすみません。」
「いや、良いんだ。人魚がいただけでも父の話が嘘ではないと確信できた。君のように美しい母を想像できて、嬉しいよ。君はこれからどうしたいの?人間に戻る方法を探すのかい?」
「ええ、あの洞窟の最奥まで行けばなんとかなる気がしていて。」
「そうなのか。じゃあ、一緒に行こうか。ダンジョン探検は初めてじゃないだ。」
「え?良いんですか?」
とても、ありがたい申し出だけど、ロード君暇なの?
「うん。君がいたんだから、母もあそこにいるかもしれないから調べてみたい。そうだ、その前に何か食べておいた方が良いね。とりあえず人間のご飯を持ってくるよ。」
何から何まで、なんて良い人なのかしら。本当に、お腹すいてたのよ。
ロード君はご飯にお刺身を乗せた海鮮丼を持ってきてくれた。この世界でもこの手の料理はあるのよね。ただ、味は醤油じゃないから和風な感じはしない。
食べたら何かに変身するかもしれないけど、その時はその時よね。
「食べられそう?魚にしてみたけど。肉の方が良ければ用意するよ。あ、サンドイッチの方が良いかな?」
「大丈夫です。美味しそう。」
私はプールサイドにテーブルを置いてもらってロード君と一緒にご飯を食べた。マグロみたいな赤身と白身魚をミックスしてタレに漬け込んだお刺身はとても美味しい。お米も食べられて幸せ。基本的にこの世界の主食はパンなのよね。
「そうだ。名乗ってなかったね。僕はロード。平民だよ。」
「あ、私はえーっと、人間だった頃はリンダでした。」
「可愛い名前だね。君のこと詳しく知りたいな。」
「え、はい。あの、おかしな話になるので、信じて貰えなくても構いませんが、怒らないで貰えますか?」
「OK。神に誓って怒らないよ。」
神ねえ……。
「えーっと、私はその神とか悪魔的な男性に気に入られて監禁された女神が精神を守るために作った人格らしくて。」
あ、既にロード君の目が点になってる。
「う、うん。続けて。」
「その男性の部下に嫉妬されて体を追い出されて蛇にされて、あそこに居たんです。あの洞窟の中では食べたものを取り込むみたいで、蛇から蜘蛛になって、水の精霊みたいなものになって、最後に魚を飲み込んでしまって、今の姿に。最奥に行けば人間に戻れると思うんですが、そこからどうするかは考えが、まだ、まとまっていなくて。追い出された体には私なんかより強くて素敵な女神の人格がちゃんと残っているの。女神は、こんな風に人格が分かれて別の女神になったりするらしいから、私はもう今までの私とは別人として生きていくしかないかもしれません。」
「……つまり、君は女神様なんだね。」
「え、あ、あの、どうなんでしょう。私には本当人間程度にしか力がなくて、小女神とか、小悪魔とかかも……。」
「小悪魔……小女神……うん。分かったよ。それで、生まれたばかりなら今の君に恋人とか伴侶は居ないんだよね?」
「え、ええ。」
多分居ないわよね?
「じゃあ小女神とか小悪魔と人魚と人間のハーフは釣り合いがとれてると思わない?」
確かになんだか釣り合ってる気がするわ。
「え、ええ、まあ。」
「よし!じゃあお付き合いしよう。君は僕の恋人としてここにいれば良い。僕は平民だけど、父が男爵なんだ。魔法も使えるから魔法学園にも入学してるし、別にビジネスもしていて収入もある。貴族のようにはいかないけれど、平民としては苦労させないよ。」
「え?でも、会ったばかりですよ?」
突然だなあ。
「そうなんだけど、人魚には人を惹きつける魅力があるって父は言ってた。君を見て本当にそうだと思ったんだ。君はとても魅力的だ。君と付き合いたい。僕には魅力がないかな?」
うーん、これから一緒にダンジョン攻略するのに突き放すのもどうだろう。魅力がないかと言われると、美形だし、助けてくれた恩人だし……でも、うーん。
「お、お友達からで如何でしょう?」
「うん。じゃあ友達からでよろしく。」




