65 チョロい精霊君
ジオル目線です。
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桜の花びらが風に散る。薫風は甘く、君は美しい。紅茶に入れたブランデーで、酔った君が転んだ拍子に唇が当たり、俺の中でファンファーレが鳴り響いた。
会ったこともないのに、なぜか焦がれた人。マデリーン嬢は前世俺が愛していた人だと言う。
ああ、ああ、麗しの君。王妃に愛人は付き物だ。それが義理の弟で何故いけない?あまり例がないだけだ。実際、俺は兄に言われて、腹違いの妹と婚約しているじゃないか。
「ジオル様、大丈夫ですか?本当に申し訳ございません。私、不器用で不作法ばかりしてしまって。本当は王妃なんて務まらないのですわ。」
「あ、あの、そんな事はないが、王妃になりたくないのか?」
「ええ、あまり。でも、そうも言ってられませんし、学園で作法の授業を頑張りますわ。」
可哀想に。なりたくもない王妃になる為にお妃教育をさせられているのだな。婚約パーティーの時も俺にカップをぶつけたせいで酷く叱られたに違いない。
「君の唇を奪った責任をとりたい。」
俺は意を決した。
「え、いえ、ぶつかっただけですし。」
「君が未来、王妃でもそうでなくても、私の忠誠は貴方のもの。出来ることなら貴方の安らぎとなりたい。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「リンダ!」
俺はぎゅっとリンダを抱きしめていた。
「え?ええっと?」
先ほどの言葉は貴婦人に対する忠誠と、愛人への立候補の有名なセリフ。恋愛小説から来ているのだが、彼女が知らないはずはない。俺は受け入れられたのだ。
「はい。その辺りで。」
忘れていたが、マデリーン嬢も居たんだな。侍女は人払いしたから居ないが。
「宜しゅうございましたわ。お二人が仲良くなられて。」
「え、あ、ああ。」
「リンダ様、私もリンダ様をお慕いしております。アルス様にも許可をいただきましたわ。どうか私の忠誠もお受け取りくださいませ。」
「え?あ、あの……」
リンダが戸惑っている。助け舟を出すべきか?
「リンダ様、私がお嫌いですか?」
「そんな事ないわ!大好きよ。でも、忠誠なんて……」
「お受けくださいませ。私たち3人は前世固い絆で結ばれておりましたのよ。」
「マデリーン!覚えているの?!」
「え!リンダ様も!」
前世?え?本当に共通認識があるような事なのか?
二人は熱い抱擁を交わしている。
「とりあえず、リンダ様とお話がしたいので、帰りますわ。」
「そうね。記憶がある者同士で計画を練りましょう。ジオル様、また近いうちに。」
二人は帰ってしまった。何かハブられたぞ!思い出せ!思い出すんだ俺!!ぐぐぐ、と頭に力を入れて絞り出してみる。ポロっと何かが溢れた。
「ジオル、煮詰まった時はお風呂が良いわよ。サウナとか最高なんだから!」
頭の中に響いた前世の記憶?に言われるまま、俺はサウナに入り続けてぶっ倒れた。
ぐるぐる回る視界の中、断片的に何かが回る。最終的に確信できた記憶。それはリンダを深く愛しているという事。俺はリンダのために生きるだろう。
だ、だが、今は、誰か水持ってきてくれ。




