62 みんなでマッサージ
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あー、気分が良いわ。
淑女学園なんて嫌で仕方なかったけど、部屋も食事も悪くない。勉強も普通の性教育で恐れていた突然服を脱ぎなさいとかのセクハラ系じゃなかった。先生は今のところ全員女性。歴史や魔法、御作法の勉強も難し過ぎず、為になってそこそこ楽しい。お昼はみんなで食べていて、女子会気分だ。庶民の生活を見る遠足なんかの行事もあるらしくてワクワクする。
特に良いのがマッサージの授業。一人ずつ担当の先生がいて個別で受ける。先生にマッサージしてから私もしてもらえる。本当に気持ち良くていつも寝てしまうの。終わった後、少し体が重い時もあるけど、眠ると快調になる。肌の艶も良いわ。アデール先生、私のマッサージ師として契約してもらえないかしら。
「リンダ様、ご機嫌ですわね。」
マデリーンがにこにこしながら話しかけてくれる。
「今日もマッサージを受けられるかと思うと嬉しくて。とても体の調子が良いのよ。」
「私もですわ。マッサージって大切ですわね。」
「この学園、もっとおかしな事させられると思っていたから嫌だったんだけど、来てよかったわ。そういえば、マデリーン様は凄いわね。歴史も、算術も、魔法もスラスラ答えてしまうもの。」
「あ、たまたま、母が先に教えてくれた事か多くて。私は庶民として育ちましたから、学校はありましたけどあまり十分ではなくて、大体の勉強は母から教わっていたので。」
マデリーンのお母様は強力な魔女。でも、これはマデリーンが教えてくれるまで、知らない事よね。
「マデリーン様のお母様はとても優秀なのね。」
「え、いえ、庶民の少し学がある程度で、貴族の方々から見ればお恥ずかしいことですわ。あ、それから、よろしければマデリーンとお呼びいただければ。」
「え?ええ、ではマデリーンと呼ばせていただくわ。私もリンダで良くてよ?」
「いえ、リンダ様のような素敵な方を呼び捨てにはできませんわ。」
「まあ、素敵だなんて、マデリーンの方がとても素敵よ。羨ましいわ。この金色の髪。皆の中で私だけ浮いているもの。」
「いいえ。皆の中でリンダ様が輝いておられるのです。」
二人で褒めあって盛り上がっていたら、ノックされてエマ先生が入ってきた。今は昼食をマデリーンと二人で食べている。ルナとレナは体調を崩して寝ているの。
「リンダ様、マデリーン様、今日は特別授業を行うことになりました。この一月でお二人ともマッサージがお上手になられましたので、王子に実践していただきます。夫の疲れた体を癒し、円満な夫婦関係を築きましょう。お昼を召し上がられたら、マッサージ室へおいで下さい。今回は大部屋で行います。」
実践……。
「リンダ様……あ、あの、大部屋でしたらきっと何もございませんわ。」
よほど顔色が悪かったのかマデリーンが遠慮がちに慰めてくれる。
「え、ええ、そうね。」
「あ、宜しければ、今度お互いマッサージをし合ってみませんか?女同士の方が楽しく盛り上がれそうで。」
「え?ええ、構わないわ。マデリーンとは仲良くなりたかったから嬉しいわ。」
マデリーンは、ぱっと明るい顔になった。
「まあ、なんて嬉しい事でしょう。私もアルス様の相手をする元気が出てきましたわ。」
私たちはそんな話をしながら昼食を食べ終え、マッサージルームに向かった。
「ん?」
「え?」
何故かそこには悪魔さんとジオルがいた。すでにマッサージ用の軽装に着替えている。
でも、ジオル?アルスじゃないの?
「リンダ!!会いたかったよ。我が愛しの婚約者殿!!」
悪魔さんが芝居がかって抱きついてくる。私は軽くかわして、お辞儀をした。
「ベルゼ様、ジオル様、ご機嫌麗しくおめでとうございます。ですがマデリーン嬢の婚約者はアルス様では?」
悪魔さんはめげずに、にこにこ笑って答えてくれた。
「うん。そうなんだけど、アルスには公務があって、ジオルが空いていたんだよ。別にマッサージだから良いかと思って。アルスもジオルも別に気にしないと言っていたから。マデリーンは気になる?」
「え、ま、まあ、別に構いませんが。」
「じゃあ、そう言う事で始めようか。」
「ベルゼ様、ちょっと待ってください。レナの意見は。」
「レナ?レナなんて、あ、そうか、そうだね。君の妹だった。じゃあ、通信魔法で。」
悪魔さんにしたら部下だから逆らうわけないものね。でも、記憶がないはずで、レナが女夢魔だと知らないはずの私が、ここで納得するのおかしいでしょう。仲の良い妹の婚約者が他の令嬢のマッサージ受けるのよ。
悪魔さんは術式も呪文も使わず、指をちょっと動かしただけで、レナの顔が空間に大写しになった。さすがだわ。私、この手の魔法どうも苦手。音声だけでも色々準備しないと無理なのに。
「きゃ!あ、ああ、み、皆様……。」
レナが驚いている。そりゃそうよね。
まあ、布団で寝ていた割には髪も整ってるし、タイミングは良かった感じだわ。酷い寝相の時でなくて。
「レナ嬢、加減の悪いところ申し訳ないが、君の婚約者のジオルにマッサージの体験をしてもらう。その時、マデリーン嬢や他のマッサージ師に触らせても構わないかな?」
「え、あ、はい。皇太子様の御心のままに。」
「ありがとう。では、ゆっくり休んで。」
用が済むと、ぱっと映像は消えた。
「そう言う事だから問題ない。じゃあ始めようか。」
軽いわ。これってそんなに軽いことなのかしら?
「ではこちらに。」
ある程度間隔を開けて、二つ並んだベッドにジオルと悪魔さんはそれぞれ寝そべった。
「そうだわ。いっその事、私がジオル様のマッサージをしますわ。以前お茶をかけてしまったお詫びに。」
「え?リ、リンダそれは酷いよ。私がいるのに。」
「ありがたいお申し出ですが、兄上をお願いします。お詫びという事でしたら、終わりましたらお茶会を致しましょう。」
「ああ、そうしよう。それが良いよ。マッサージは私にしておくれ。さあ、マデリーン嬢、弟を頼むよ。」
「は、はい。」
むむむ、折角、ジオルと話すチャンスなのに。まあ、良いわ。ジオルのお茶会に行けるならその時話しましょう。ジオル、私のこと覚えてるの?やっぱり無理かしら?
「分かりましたわ。ベルゼ様、失礼します。」
「ああ、嬉しいな。よろしくね。」
仕方ないので、私は悪魔さんの背中に手を置いて体重をかけぎゅっと抑えた。まずは全身を圧迫、これがなかなか気持ち良いのよ。その後は、軽く肩、腰、足とほぐして、腕もほぐす。手のひらのつぼを適当に刺激して、足裏のツボも刺激、それから強めに肩、腰、仰向けになってもらって優しくデコルテとお腹にオイルマッサージ。一通り終えると汗をかいていた。
悪魔さんは、何も話さず、私に身を委ねていて、なんだか不思議な体験だった。私、魔王の体をコネコネしてる。
「ありがとう。とても気持ち良かった。良く勉強したんだね。とても上手だよ。」
終わった後、私の手を取って頬に当てながら褒めてくれる。ああ、顔が良い。いっそ、何も覚えていなければ、幸せなんでしょうね。ちょっとキスの感じ。このまま、ちょっと顔を近づけたら……
「マッサージは好きですの。3日に一度はマッサージの授業がありますから、練習の後、先生にしてもらうとよく眠れて、次の日はとても調子が良いですわ。」
ダメダメ。せっかく、アスタロト姉様が守ってくださった記憶よ。私は良い感じの雰囲気を弾き飛ばそうと早口に言った。
「そうか。君の調子が良いなら嬉しいな。もっと回数を増やそうか。」
「ふふ、先生が大変だからやめてくださいませ。私は毎日でも嬉しいですが。」
「うっ……」
どうしたのよ。少年の熱っぽい目で見つめて来ないで。あ、マッサージで揉み起こしでも起こったかしら?
「どうなさいました?」
「い、いや、無垢な君が尊すぎて、破壊力が……。」
なんだろう?別に無垢じゃないわよ。スライムだのショゴスだの、オオカミだの相手にしたのよ?貴方のせいで。とは言え、なんだか具合が悪そうなので、ハンカチで汗を拭うと、感極まったように唇が動いて、キスされてしまった。妙に気持ちがこもった感じで恥ずかしい。
「やっぱり個室にすれば良かった。今からでも。い、いや、今日も授業の最後はマッサージの予定だったね。お茶会の約束もあるし、そこまで我慢するか……」
「あの?」
「リンダ、きっと私たちは幸せになれる。今生、うんと君を幸せにするよ。だから、恐れないで。リラックスして私に従って。」
「はい。」
まあ、選択肢がありませんからね。
あれ?マデリーンがすごい顔した気が??どうしたの?




