58 月の女神は笑った
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うちの屋敷で開かれた私とレナの婚約パーティー。私達は王家に養子が入ることを聞かされた。アルス王子で婚約者はマデリーン伯爵令嬢らしい。
この展開は予想してなかったわ。もう、ゲーム跡形もないわね。ヒロインが婚約しちゃってるじゃない。あ、番外編?R15ヴァージョンみたいな?
というわけで、学園に通うのは私、マデリーン、レナ、ルナになるのね。マデリーンは私のこと覚えているのかしら?
「リンダ姉様、ご挨拶も終わりましたし、4人で休憩しましょう。」
「そうね。」
長ーい謁見式の挨拶が終わり、最後の一人の祝福を受けた後のレナの提案に私は頷いた。悪魔さんも異論はないようで、私とレナと悪魔さんとジオルは控室の一つに入った。軽い食事が出されて一息つく。
「皆様に祝福いただいて幸せでしたわ。」
サンドイッチとお茶を堪能していたら、レナが嬉しそうに言った。
「そうだな。」
ジオルがあまり興味がなさそうに言う。
「ああ、とても幸せだよ。我々の婚約を皆が祝福している。リンダ、世界一幸せな夫婦になろうね。」
「え、ええ、そうですわね。」
「まあ、ベルゼ様は本当にリンダ姉様を愛しておられますのね。」
「もちろんだ。この瞳も、唇も、この白い果実も。」
悪魔さんは胸元に手を入れようとしてきたので、咄嗟に避けたら紅茶のカップが飛んでジオルに当たってしまった。半分くらい入っていた紅茶がジオルの頭に全部降り注ぐ。
「きゃ!ジオル様!」
レナが控えめながら叫んだ。
「ま、まあ、私、なんで御無礼を。」
私は焦ってハンカチで拭こうとして、悪魔さんに止められた。
「すぐに侍女が来るよ。ジオル、大丈夫だな?」
「ああ、大丈夫だ。姉になる方にお茶を頂いて光栄だ。」
金髪の王子様は引き攣った笑顔を見せて着替えるために出て行った。
やってしまった。皇太子の婚約者はマナーのマの字も知らない。王子の頭にカップを飛ばしたって社交界に駆け巡るわ。それにジオルも呆れたでしょうね。
「リンダ、大丈夫だから。」
悪魔さんにぎゅっと抱きしめられる。
「すぐ噂が広まってしまいますわね。私は皇太子妃に相応しくないと。」
「そんな事を言うやつは左遷するよ。それに、噂が広まれば、ここにいた誰かが喋ったことになる。徹底的に調べて牢獄に入れよう。分かっているな。ここにいないものにも言っておけ。この事を漏らしたものは厳罰に処す。」
後半は使用人を見ながら低い声で命令した。
使用人達は一斉に頭を下げた。
まあ、お城じゃなくてうちでやってるパーティーだから、大丈夫かもしれない。
「リンダ姉様は本当に愛されておいでですわね。羨ましいわ。」
「そ、そうね。」
「愛するに値する人だからね。リンダ、君の部屋へ行こう。レナ、ジオルを頼むよ。」
「はい。今日はたくさんお話ししますわ。」
あ、私もジオルと話したかったけど、後日お詫びに伺いましょう。仕方ないわね。
私と悪魔さんは連れ立って部屋まで歩いた。使用人達は皆、恭しくお辞儀をするけど、目が笑ってて恥ずかしい。あーこれって初夜になるの?いや、婚約だけで、結婚じゃないから違うわよね??なんて思っていると部屋に着いてしまった。
ランが迎え入れてくれて、お茶を淹れてくれる。良かった。お茶会モードだわ。
「美味しいね。君の部屋で飲むお茶は最高だよ。ラン、リンダが王宮に入ってからもお茶を淹れておくれ。」
「はい。光栄ですわ。私は生涯お嬢様にお仕えする所存です。」
「ありがとう。でも、ランも結婚して良いのよ。結婚しても私の侍女を続けてくれれば良いわ。ねえ、ベルゼ様。」
「そうだね。侍女が結婚していて悪いことなど何もないよ。良い相手を探して紹介しよう。」
「まあ、ありがとうございます。」
ランが嬉しそうで良かった。
「ランが幸せなら私もとても嬉しいわ。ベルゼ様ありがとうございます。」
「君が嬉しいことを沢山したいな。教えておくれ。先程のことで気になっていたんだけど、人前で胸を触られるのは嫌?」
「嫌ですわ。それに胸が開いたドレスが好きになれなくて。別に他の方が着るのは構わないのですが、私はできれば違うデザインが嬉しいです。」
「そうなの?君の胸は素晴らしいのに。まあ、学園の制服は胸が開いていないデザインだから安心して。デザイナーに君好みのドレスを作らせて流行らせてみようか。」
やったー!とりあえず、この1番のストレス、セクシー過ぎるドレスとおさらばよ。
でも、意外だわ。学園の制服って清楚系なのかしら?マデリーンの清楚な制服が見られるのは楽しみね。ルナもレナもマデリーンも本当に童話のお姫様タイプの美少女だから、絵になるでしょうね。
あ、私だけ黒髪!金髪美女の中で一人黒髪、日当たり次第では赤髪。なんだろう、このボス感。悪役令嬢感が凄いわ。今日も王子にカップぶつけるし、もしかして、このままマデリーンを虐めるの?で、階段から落ちて……いやいや、アルス様と婚約してるなら多分大丈夫。それに、これ、多分続編とか番外編じゃなくて、悪魔さんの都合のやり直しよね?番外編とか続編て言われてもなんの知識もないのよ。
「リンダ?」
「あ、申し訳ございません。ぼんやりしてしまって。」
「疲れたんだね。ベッドで休もう。今日は泊まらせてもらうよ。」
「え、そ、そうなんですか?」
「うん。可愛い婚約者と添い寝がしたいんだ。大丈夫。君はまだ学園で教育を受けていないから何もしないよ。今回は私と眠るレッスンだよ。」
「まあ、なんてお嬢様を大事にしてくださって。」
ランが感動している。今回、ランはベルゼ様を嫌う要素がないものね。私もまだ、SM趣味は知らないことになってるし、説明するわけにもいかない。
私と悪魔さんは眠る用意をしてベッドルームに向かった。
そして、入った瞬間、後ろ向きに抱きつかれて胸をほぐされる。やーめーてー!!
「あ、あの、あん、な、何もなさらないと……」
「いや、だって、見られている時は嫌だと言うから、ここまで我慢したんだよ。これくらい愛する人への挨拶じゃないか。」
この世界の常識的にはそうですね。
「でも、でも、この常識は良くないと思います。うう……」
「うーん。そうかな?素晴らしい習慣だと思うんだけれど。」
その位置で喋らないで!首に息がかかるの!ゾワゾワしちゃうの!
「ひ、ひっく。」
「え?な、泣かないで!分かった。止めるから。」
悪魔さんはオロオロして私の顔を覗き込んだ。
「泣き止んで。ああ、こんなに涙が。」
私の目元に唇を寄せて飲み始める。うーん。反応に困るわ。
「も、もう大丈夫です。」
「君を幸せにしたいんだ。愛し合って、二人で全てを手に入れたい。」
顔が良い。むちゃくちゃ愛されてる。記憶さえなければ、きっと私の方が惚れ込んでしまっていると思う。
「も、もう大丈夫です。おやすみなさい。」
私はそそくさと布団に潜った。ため息をつきながら悪魔さんも入ってくる。
私は速攻で眠ったふりをして、抱きしめたり、撫でたりしてくるのに無言の抵抗をした。しばらくすると諦めたのか、悪魔さんは起き上がってはなれて行ったようだ。薄めを開けて行き先を見ると、部屋のテーブルに座って、指を鳴らした。
「我が君様。」
すぐに返事が来て、ルナ姫が立っていた。ルナは人外確定だと思う今日この頃。
「相手をせよ。」
「望外の喜び。」
おーい。おーい。ここで始めるの?さすがに場所移すよね??と言う私の希望的観測は見事に外れて、悪魔さんはトゲトゲが妙に芸術的で美しいムチを取り出した。
振り下ろされるムチを嬉しそうに受けるルナ。服はボロボロで血が飛び散るけど、恍惚とした表情をしている。私は薄目をやめて完全に目を見開いていた。
「我が君様、我が君様……」
痛そうなのに、自分を傷つける男を愛し気に呼んで体をくねらせるルナは夜の蝶というか蛇というか、とにかくおどろおどろしい美しさだ。はあはあと息を荒くする様に私もドキドキと興奮してしまう。
ようやくムチが止まり、ルナは悪魔さんの首に縋りついた。悪魔さんは私のいるベッドに背を向けていて、それに抱きつくルナがこっちを見ている。私は薄目に戻して寝たふりを再開する。
ルナは勝ち誇ったように微笑んだ。バレてるかもしれない。ランプの光を反射させキラキラと輝く金髪。この世の果てのような紫の瞳には快楽と狂気。あ、ダメ。私はぎゅっと目を閉じる。魂を抜かれそうだった。
しばらくすると、ベッドに誰か入ってきた。私の髪を持ち上げて何かしている。あ、頭に何か当たった。キスかな?
「君がつれないから、夢魔と遊んでしまった。怒らないよね?君が眠っている間のたわいない夢だよ。」
悪魔さんは寝ている私をヨシヨシと撫でてくる。別に怒りませんよ。ルナは夢魔なのね。レナもそうなのかしら?夢魔の双子?同一人物とかもありそう。
そんなことを思いながら目を閉じていると、いつの間にか本当に眠ってしまった。




