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54 神として

54

 しまった!!


 ショゴスになって、新妻を愛していたのだが、急に動かなくなったので、気絶したのかとしばらく続けてしまった。気絶したのはその通りなのだが、ショゴスの中に頭まで入ってしまい、窒息していた。


 その事に気付いて血の気が引いた。その瞬間、いつもの人型に戻っていた。リンダと睦まじくしていなければ戻れるようだ。


 もちろん、愛しい人をすぐに蘇生させる。完全に死んでしまうと生き返らせるのは困難だが、間に合った。私が力を注ぐと、あっさり彼女の心臓が動き出す。呼吸もすぐに安定した。青白かった肌がいつもの輝くような真珠色になり、頬にふんわりと桃色が差す。


「ふう。」


 疲労感と脱力感が襲う。どうしてこう上手くいかない。正式に妻にした。彼女も従っている。なのに、上手くいかない。


 彼女がアナトと分かれた時にこの想いがあったなら、こんなに苦労することはなかっただろう。私も同時期にバアルと分かれた。バアルとアナトは夫婦なのだから分かれた時点で、ベールゼブブとアスタルテが夫婦になれば良かったのだ。


 だが、私がほぼ今と同じような状態で分かれたのに対して、彼女は幼い姿だった。


 彼女はバアルの妻の一人とされたが、私は特になんとも思わなかった。アナトが身分を与えるために決めた形だけのものだ。アスタルテは地母神の性質が強かったので、バアルの妻と定められた後に、何人もの男と関係を結んでいる。


 そう、何人も……


「私のリンダ。体が安定しないのは私の嫉妬のせいなのかな。君の過去の男達を全部殺せば、この体も安定するだろうか。ああ、君なら女もいるんだろうね。マデリーンも君に夢中だし。」


 可愛い寝顔に口付けてみるが、目を覚さない。しばらく柔らかい唇を楽しんでいたが、無理に起こすのも可哀想で、二人の未来のために何故こんなにも体が安定しないのか探ろうか、と私は虚空を見つめた。


 考えてみれば私たちは本当に結ばれたのか?と疑問になってくる。私とリンダはスライムでわちゃわちゃやっていただけでは無いだろうか?


「シキョウ。」


 部下を呼ぶ。元は東洋の者で止める鏡と書いてシキョウと読むらしい。私の気に入りの一人。隠された呪術を炙り出すのが得意だ。


「御前に。」


「答えよ。私とリンダは結ばれていると思うか?」


「は、ご、ご結婚されたのですから結ばれておられるのでは?」


「そうではない。肉体的にだ。見てみろ。」


 私はリンダとの行為の映像ををシキョウの頭に投げた。


「うお!!は、いや、ど、どうでしょうか?」


 シキョウはブルブル震えている。せっかく、秘蔵の映像を見せてやったのに、煮え切らん答えしか得られない。だが、間違いなく結ばれているなら、この反応ではないだろう。忌々しい。


「まあ良い。映せ。私とリンダの逢瀬を邪魔している力を知りたい。」


 シキョウはあからさまにホッとして、顔をくるりと変形させた。頭は平べったくなり、光はじめ、やがて鏡となる。リンダが見たら驚くだろう。目を白黒させる彼女は可愛いに違いない。よし、今度見せてあげよう。


「呪いが複数ございます。術としてかけられたものは一つ。それ以外はお二人に執着する者達の念が呪いのレベルまで高まったように見えまする。それらが一つと成り、お二人の逢瀬を邪魔しているのでしょう。」


「複数か。一つ一つ映せ。」


「はっ。これが術の呪いでございます。」


 シキョウが映し出した映像には、金髪碧眼の聖女然とした女。魔女マデリーンだ。この女はやはり殺すべきだな。そして、隣には同じく金髪碧眼の血筋としては我が兄のジオル。こいつも共犯か。ならば、マデリーンと一緒に……いや、待てよ。もしかして、この男は……


 アスタロトの地位や権力を守るため、私が造ったアスタロトのダミーの側には側近中の側近が仕えていない。ジオルのリンダへの執着ぶりと、裏切られたはずのリンダが思った以上にジオルを大切にするのを見ていると……


「側近を殺したらまた恨まれてしまうな……」


 愛しい妻は部下想いだ。どれだけ傷ついて泣いて私をなじるだろう。考えただけで胃が痛い。


 ああ、そう言えばマデリーンもリンダのお気に入りだったな。だからこの二人を生かしていたのだった。仕方がない。殺さずになんとかするか。


「次を。」


「ははっ。」


 映ったのはレア、クリストファー、マデリーンの母親、リンダの両親、リンダや私に想いを寄せている貴族達。思ったより数が多い。鬱陶しいことだと思っていると、リンダが映し出された!


「なぜリンダが映っている!!」


「そ、それはリンダ様の強い恐れや、嫌悪の……」


「……嫌悪だと?」


「あ、いやいや、清らかなリンダ様には世俗的な交わりに未だ恐れや、戸惑いが強いものかと……」


 なるほど、リンダとしてはまだ交わっていないという認識なのだな。


「そうか。では、核となっているのはマデリーンとジオルの呪詛か?」


「は、呪詛も強い要素ではございますが、核となっているのは、その……」


「はっきり言え。」


 イライラする。記憶の一部を無くしたままのリンダが私を恐れるのは分かる。分かるが、まさか術式を整えた魔女より強力とは思えない。万一そうだとしたら、彼女は世界が終わるほどの恐怖を抱いていた事になる。そんな事はないだろうから、レアゼラとクリストファーだろうか?


「は、リンダ様の恐れは思いの外お強く……ひっ!」


 私は持っていた杯を投げていた。フツフツと怒りが込み上がる。誰かが要らぬことを言ったに違いない。だから、リンダは酷く私との行為を恐れているのだ。


 そうだ。アルスが、リンダに嫉妬させようなどと言ったから誤解を解いていない。レアゼラ、クリストファー、アルスあたりが有る事無い事吹き込んだに違いない。可哀想に、怖かったのだね。私が君に害をなすはずがないというのに。


 リンダの頬を撫でると瞼が開いた。


「あ、ベルゼ様?」


 まるで花のようだ。甘い香りが私を虜にする。


「リンダ、恐れる事はないのだよ。私は急ぎすぎた。」


「は、はあ。」


 リンダはフルフル震えている。怖がる事はない。それをじっくり教えてあげる。


「やり直そう。君がこんなに怖がっているんだから。」


「え?!」


 そんなに驚かないで。私はこの国の神だよ?

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