46 我が子が大事です
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「リンダ!良かった。戻っていたんだね。クリストファーが連れて行ったから心配は無いと思っていたけれど。」
早朝、悪魔さんが突撃してきた。ゆっくり寝ててください。昨日は楽しまれたんでしょ?
「リンダ、ごめんね。昨日は下手に我慢したせいで、おかしな事になってしまって。反省しているよ。どうか許して。」
別に構いませんよ。レア様と仲良くしてるのは微笑ましいですし。フンだ。
「ええ。あの、驚きましたけど、大丈夫ですわ。レア様に助けていただきましたし。そうだわ。レア様にお礼を言いたいので、お茶にお誘いしてもよろしいでしょうか?」
悪魔さんはホッとしたように微笑んだ。
「ああ、構わないよ。レア、じゃない、母上も君と話したいだろう。」
「良かった。クリストファー伯からレア様と仲良くして欲しいと言われましたの。私もレア様と仲良くなりたいです。」
「そうか。まあ、クリストファーならそう言うだろうね。君をマデリーンやジオルから引き離してしまったから、母上と仲良くするのは良いかもしれないね。」
悪魔さんは何でもないことのように言う。そういうゲームなんだろうけど、本命と正妻を仲良くさせるって何だかすごいなあ。いや、正妻もレア様?でも、お母様だから……このゲームどうも理解が追いつかないわ。
「昨日のあのお姿がベルゼ様の本当のお姿ですの?」
色々考えてもよく分からない。そのうちレア様なり、クリストファー伯なりから指示があるだろうから、ゲームを意識せず、情報を集めておこうと聞いてみると、悪魔さんは急に焦り出した。
「いや、いや、違うよ!あんな獣のような姿が真の姿ではないからね。あれはなんというか、力が少し暴走してしまったんだよ。私の真の姿はあれよりは今の姿に近いよ。ちゃんと人型だし、君に美男子だと言ってもらえる姿だよ。」
本当に??ハエじゃないの??イケメンのハエ男??イケメンのハエの姿を想像しようと努力していたら、顎をすくわれた。
「ん……」
優しいキス。愛情のこもった眼差し。
「おはようのキスがまだだった。愛しているよ。私の妃。おや、顔が赤いね。」
もう!クリストファー伯みたいな大きい子供と趣味の合う奥様もいるくせに、キスなんてしないで!そんな顔で見ないで!
「寝不足です!お隣が騒がしかったから。」
悪魔さんは分かりやすく動揺した。
「聞いてたの?!あ、そ、その、レアとは、その……」
あ、レア呼び。
「あら、良いのですわ。ベルゼ様のあのお姿を見ても臆さない所を見ると、魔界の方なのでしょう?私には出来ないことをされているようですし。」
「あ、ああ、レアゼラは私の部下の1人で、ストレスが、溜まった時なんかに、私の趣味に付き合ってもらうことがあって。」
「レアゼラ?」
「ああ、レアの魔界での本名だよ。」
「レア様とクリストファー様は魔界ではどういう方なのですか?」
「あの2人に興味があるんだね。レアゼラは妖魔とリリムの娘なんだ。それで、クリストファーはレアゼラの息子だよ。」
リリム?ええっと確か夢魔で、リリスの娘よね。ということは……リリスはサタンの奥様だったような。
「ではレア様はサタン様の孫にあたられるのですか?」
だとしたら、魔界のお姫様よね?と思ったけど、悪魔さんは首を傾げた。
「どうなのかな?リリスは奔放だから、サタンとも関係はあったかもしれないけど、他にもたくさん相手がいるからね。」
あ、そういう感じなんだ。じゃあ、特に身分が高い訳でもないか。あ、あと、聞いておかなくちゃ。
「クリストファー様のお父上はどなたなのですか?」
「……さあ。それもよく分からないよ。」
ふーん。私は大きく息を吸い込む。
「ベールゼブブ様のお子ではありませんの?」
嫌な感じの嫉妬ってこんな感じかしらね?機嫌が悪くなるかしら?
「……あの、リンダもしかして、嫉妬してる??」
「いいえ?少し、気になっただけですわ。」
嫉妬なんてしてないわよ。ただの演技だからね。な、なぜそこで、幸せそうに笑うの!
「そう?ふふふ。可愛い人だ。」
悪魔さんは、私の手を片手で握って撫で始める。
「昨日の失態で反省したんだ。やっぱり我慢のし過ぎは良くない。君のお腹の子供は、肉体的には人間である君と、妖魔と悪魔のハーフのレアの子供である私の子で特異だろう?医者に聞いても、妊娠期間が分からないみたいなんだ。普通の人間のように産まれるかも知らないけれど、10年くらいかかる可能性もあると言われて。」
「そ、そんなにですか??」
急に話を変えられたけど、10年は長い。
「君と子供の健康を考えたら、魔法空間で育てる方が良いそうなんだよ。元の体に戻った時にできた子供はずっとお腹で育てられる。約束するよ。だから今回は我慢してくれないか?」
「え、ええ。子供の健康のためなら。」
子供がいるとか眉唾だけど、いるならちゃんとしてあげたい。女はみんなそうなのか、私がそうなだけなのかは分からないけど、誰の子でも、自分のお腹に来てくれた子は大切だもの。
「ありがとう。じゃあ、少し我慢して。」
い、今すぐなの!?止める間も無く、何か力が行使される。
「あ、ああ!!」
体の中身を引き摺り出される感覚。痛みは強くないけど、違和感が強い。
「息をゆっくり大きく吸って。ゆっくり吐いて。大丈夫だからね。」
「は、はっ、ううう。」
うう、出産の練習してるみたい。
「もう少し、もう少しだよ。」
いや!連れていかれる。私の子!
「あ、ああ!!」
涙がぼろぼろ流れた。
悪魔さんの手には綺麗な光。中の胎児は見えない。
「終わったよ。すぐ戻るから少し休んでいて。大事に育てるからね。」
悪魔さんは私の頭にキスをして消えてしまった。
涙が止まらない。うう、子供と引き離されただけでこれじゃあ、もし死んだりしたら、気が狂うかも。子供って偉大なのね。ああ、あの子の事だけは何とか幸せにしなくちゃ。
「リンダ嬢、父が魔界に戻ったようなので、打ち合わせを……!!」
「い、いきなり入って来ないで下さい。」
「あ、いや、申し訳ない。父がいないうちにと急いでしまって……なぜそんなに泣いているのです?」
「い、いえ、何でもないのです。目に埃が入って、こすったら酷くなって……」
「そ、そうでしたか。見せて。」
クリストファー伯は治癒魔法を使ってくれた。腫れぼったくなった目が爽やかになる。良い人ね。あ、悪魔と妖魔のクォーターか、あれ?今の体は人間なのかしら?じゃあ人で正解?ややこしいわね。
「ありがとうございます。あ、そうだわ。厚かましいのですが、協力の件で私の子供の幸せも保証してもらえませんか?」
「え?あ、ああ、報酬のお話ですか。それでは貴方の子供の幸せを保証する代わりに、貴方が好きな方との結婚は保証はなしにしましょう。貴族ですし、政略結婚もありということで。」
「酷い趣味とか、生理的に無理な方でなければ良いですわ。」
好きな人と結婚出来ないのは悲しいけど、このくらいの妥協はするわ。子供のためだもの。
「ええ、ではそれで。打ち合わせはレア様のサロンでお茶会にしましょう。」
「はい。すぐに用意しますわ。」
着替えなくちゃと、クリストファー伯が出ていくのを待っているのに、なかなか出ていかない。どうしたのよ。
「あの。」
しばらくして、意を決したように口を開いた。
「はい?」
「父のことがお好きなのですか?」
??変なこと聞くのね。私が好きでも嫌いでも、関係ないでしょう?ヒロインはレア様なんだから。
「好きとか嫌いとか、考えていませんわ。話の流れで婚約して結婚して、そして捨てられるのですもの。強いて言えば、趣味も合わないし、ご縁はなかったのでしょう。」
クリストファー伯はホッとしたように笑ってミルク色の髪をかき上げた。
「そうですか。貴方が泣いていたから、その、安心しました。我々は協力者ですし、困ったことは何でもお話し下さい。きっとお力になります。」
「ありがとうございます。」
「では。後ほど。」
クリストファー伯はやっと出て行ってくれた。着替えよう。レア様のサロンてことはレア様が居るのよね。ドレスはレア様が引き立つように淡い色が良いかしら?




