44 悪魔さんとレア王妃
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私はどうなったのでしょうか?黒ライオンもどきに襲われて、初夜だというのに快感も何もなく、ただただホラーだった気がする。
気がする割に、意識がなかったというか、正気を保つために脳が記憶を消去したのか、逃げようとした瞬間、ガバッと押し倒されてからの記憶がない。
あのライオンが悪魔さんの本性なのかしら?ベールゼブブってハエだと思ってたけど?
「リンダ、リンダ……」
いたあああああ!!ちょ、ちょ、現在進行形!!ら、ライオン、まだ居たの!!終わったのかと思ったら、ちょっと意識飛ばしてただけですか!!
「皇太子さま!ベルゼ様、落ち着いて!花嫁が死んでしまいますわ。」
え?だ、誰?誰かが助けに来てくれたの??
「クリストファー!リンダ嬢を連れて別室に!!」
「レア王妃様!?」
「邪魔をするな!!」
「落ち着かれませ。貴方らしくもない。そんなお姿で人間の女に噛み付いたらどうなるかお分かりでしょう?それとも、初夜に花嫁を殺す遊びなのですか?」
怖いこと言わないで!!
「そ、そんな事をするはずがないだろう!」
そ、そうよね!悪魔さんは悪魔だけど、私を愛してるのよね?!ああ、ぜーんぶ嘘で、私はアスタロトとかの有名どころじゃなくて、ジオルもマデリーンもアディード公爵家のみんなも悪魔さんの部下で、私をいたぶるためとかだったら嫌すぎるわ!
「リンダ嬢、ここは危険です。レア様に任せて。こちらへ。」
「は、はい。ありがとうございます。」
私は咄嗟に救いの手を掴んでしまった。クリストファー伯に引っ張られるまま、死地を抜け出したんだけど、あれ?これ大丈夫??皇太子の妻が寝室から逃げ出してるよ?クリストファー伯と一緒に??
とは言え、あのままだったら本当に死んでいたかも。
「さあ、こちらへ。」
私は引っ張られて、え!?壁!?ぶつかる!!
と思ったら隠し部屋なのか、壁をすり抜けた。
「もう大丈夫ですよ。朝までここに居ましょう。ベッドも飲みものも食べ物もありますし、トイレもありますので。」
至れり尽くせりね。ここはシェルターなの?
部屋は薄暗いけれど、灯りがあり、テーブルとソファーと食器棚、食料棚が見える。奥にはベッドとトイレがあるのだろう。
「あの、何が何だか分からないのですが、お助けいただいたようで、ありがとうございます。」
私がとりあえずお礼を言うと、クリストファー伯は優しく微笑んだ。
「いいえ。どちらかと言えば貴方は被害者なのです。貴方には酷なことを申し上げますが、これはゲームでして。」
えーっと、私に酷なこと?ゲーム世界を再現したのは知ってるけど、ゲームって、え?
「あの、ええっと詳しくお聞かせ下さい。どう言うことなのですか?」
「では、お茶を淹れましょう。お座り下さい。」
私はソファーに座り、クリストファー伯が入れてくれたお茶を飲んだ。なかなか美味しい。
「では、お話ししますね。実は、この世界はベルゼ様とレア様のゲームなのです。」
「レア様の?」
「ええ、皆さんが、私とレア様の仲を勘繰っておられますが、私とレア様は親子なのですよ。」
「え?ええ!!」
レア様とクリストファー伯が親子?!それって王妃様が浮気して子供を作ったって事??世の中、貴族や王族に愛人が居るのは当たり前でも、王妃の不義の子供はあまり当たり前じゃないわよ!そこはできないようにするか、王の子として育てるか、どこかに養子に出すにしても、秘中の秘になるでしょう??
「ああ、いえ、この世界ではありません。元々の世界。魔界でのこと。あ、リンダ嬢は父が悪魔ベールゼブブだとは知らされていますよね?」
「え、ええ、知っていま……」
父??
「あの、え?父??って誰?」
「ここではベルゼ様と呼ばれている方です。私は魔界ではレア様とベルゼ様の息子なのです。」
はい??
それからクリストファー伯から聞いた話を整理すると、悪魔さんとレア王妃様はこの世界では親子だが、魔界での真の関係は夫婦なのだそうで、この世界は2人の関係を刺激的にするためのゲーム。なんと、親子の禁断の恋をドキドキ体験!夫婦の倦怠期に超おすすめ!私はそのゲームの重要な駒の1人。私との初夜は2人の心を盛り上げる一大イベントで、悪魔さんの乱心、レア様の乱入で、2人で大いに盛り上がる予定なのだそうで……
「そ、そうなんだ……あの、じゃあ私がアスタロトって言うのは??」
「設定だと思います。アスタロト公爵は魔界におられますから。」
「そ、そうなのですか……」
クリストファー伯はよしよしと頭を撫でてくれた。
「申し訳ないのですが、設定を知った上で、父と母のゲームにご協力頂きたいのです。報酬はゲーム後の貴方の幸せな人生でいかがでしょう?」
「しあわせな人生?」
「そうです。貴方は当て馬役ですので、最終的に父に捨てられますが、その後の人生を保障します。好きな人と結婚させて差し上げますし、もちろん経済的にも恵まれた人生です。」
つまり、ジオルと結婚もできるってことよね。もしかしてマデリーンともできるのかしら?
冗談はさておき、ベールゼブブの息子って悪魔よね?多分、というか、私じゃ絶対勝てないわよね。と言うことは選択肢はない。
「分かりましたわ。どうすれば良いのですか?」
ミルク色の長い髪を緩く結んだ美男子は満足そうににっこりと微笑んだ。




