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43 く、喰われる!!

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「はー」


 お母様は深くため息をつく。


 式が終わったので、私とお父様、お母様は別室に入り一連の儀式である別れの儀を行っている。これが終わると私は正式に公爵家を出たことになる。


 別れの儀というのは一時間ほど親子で閉じこもって別れを惜しんだり、話をする儀式。特に決まりはないけど、結婚の心構えを教えてもらったり、母と娘がアクセサリーやハンカチを交換することが多い。


「娘をこんなやり方で取られてしまって……。」


 うちは、お母様の愚痴大会と化しています。


「ま、まあまあ。陛下がご無事で、リンダも幸せそうだし、良かったじゃないか。」


 お父様、私は確かに今、幸せです。


 でも、キスで貰った力が消えたら多分あまり幸せではなくなると思います。そろそろ切れかけてるのか、冷めた感覚と幸せが併存してきたわ。


「何がです!こんな馬鹿なことはありませんわ。騙された上に、みすぼらしい結婚式。しかも、出席者が信じられません!何故クリストファー伯が出席しているの?アルス王子もいないと言うのに。」


「ああ、まあ、それは確かに……」


 お父様も反論できない。


 出席者については私も思った。兄弟のアルスも、もちろんジオルもいないのにクリストファー伯が来ていた。


 クリストファー伯は悪魔さんの乳母の子供。こういう関係なら、側近中の側近になる事も多いけど、クリストファー伯は悪魔さんのお気に入りでもなく、側近でもない。


 じゃあ、誰が呼んだのか。答えは多分、王宮に出入りする人なら誰でも分かる。


「レア王妃は恥を知るべきですわ。こんなに少人数の結婚式に愛人を侍らせるなんて。」


 そう。クリストファー伯はレア王妃の愛人と言われる人なのよ。


「う、うむ。だが、あまり大っぴらに騒ぐなよ。姑だぞ。リンダに辛く当たられたらどうする?」


「まあ!そんな事になったら次の王妃を推薦しますわ!!」


 お母様は怒り心頭だ。


「おいおい。皇太子の実母に無礼だろう。こんな話より、リンダと話そう。私達の娘が立派になって……」


 お父様はしみじみと私を見つめる。


「それも不満だわ。まだ、この子は17歳よ。二、三年後に結婚するはずだったのに、せめて18までは手元に置けると思っていたのに、常識的にも早すぎるわ。」


「そうでもないだろう。このくらいの歳での結婚は貴族ならよくある事だよ。」


「リンダは魔法学園を卒業していないのよ。ああ、学歴のない王子妃と言われたら……」


「魔法学園なんて、行かない貴族も多いんだから、心配する事じゃない。エメルダ、いい加減機嫌を直せ。こんな別れの儀は可哀想だろう。」


 そう言われて、お母様は私を見つめる。目に涙が盛り上がっていく。


「リンダ……別れの儀なんて嫌よ。私の娘は貴方一人だけ。あんな酷いジオルの事もあったのに、どうして王家に貴方を渡さなければいけないの。嫌です。母は貴方を離しません。」


「お母様!私も別れの儀なんて嫌ですわ。私はずっとアディード家の、お母様とお父様の娘です。王家なんて知らないわ。」


「リンダ!!愛してるわ。」


「おいおい。リンダまで何を言い出すんだ。ちゃんとベルゼ様の妻として皇太子妃として役目を果たすのだぞ。」


「はい。お父様。アディード家と国民のため王家に尽くしますわ。ベルゼ様はSMや拷問好きの上に妄想癖ですけれど、王としては申し分ない資質をお持ちですから。」


 お父様の顔が凍りつく。


「SM……妄想……拷問!!リンダ!!リンダ!!いつでも帰ってこい!!我が家の扉はいつでもお前に開かれている!何が別れの儀だ!!」


「リンダ、もうこのまま一緒に帰りましょう。やっぱり、この結婚は我慢できないわ!」


 別れの儀の意味が変わってきている。


「失礼いたします。別れの儀のお時間は終わりました。これにより皇太子妃様は公爵家を出られ、王家の一員と成られました」


 もう一時間経ったのね。なんだかほぼお母様の愚痴で最後の方は離婚話だったわ。


「待って頂戴。殿下の幸せを願って。」


 お母様はお気に入りのアクセサリーを私の首に掛けてくれた。三日月の形のペンダント。宝石が散りばめられてとても綺麗だ。


 私はハンカチを差し出した。


「お母様のお好きな花を刺繍しました。どうかお使いください。」


「ああ、ありがとうございます。皇太子妃殿下。」


 私は滑り込みでプレゼント交換ができた。そして促されるまま、部屋を出て、私の部屋に入り、着替えをさせられた。柔らかいネグリジェ。ああ、そうか、初夜なんだわ。


 私の部屋はとても優しい水色が基調でそこに白がアクセントに入っている。ベッドも白い玉石で作られているのに、天蓋にかかる薄絹が紫色でそこだけ異質な感じがする。


 私の支度が終わって侍女たちが下がっていく。


 入れ替わりに、ガウン姿の悪魔さんが入ってきた。


「リンダ、疲れたかい?」


 黒い髪と濡れたような瞳が艶かしい。


 そっと肩に触れられて、ドキドキと心臓が早鐘を打つ。


「え、ええ。少し。」


「そうか。妊娠初期は体を労らなくてはね。このまま眠ろうか。」


 え?あの、初夜は回避??ドキドキしてたのに?


 いや、良いのよ!ラッキーじゃない!こんな、顔は良いけど、趣味の悪い男なんて……初夜で抱かれない妻だからなによ。べ、別に良いのよ。プライドとか別に気にしないし……。私にはジオルがいるんだし。


「うっ!か、可愛い顔で見ないで!私はものすごく我慢している。新婚初夜に君に手を出さないなんて自分でも驚く鋼の精神力だよ。」


「は、はあ。そうなんですか……」


 そんな辛そうに言われても……妊娠してるって貴方が言い張るからでしょうが。してる訳ないと思うんだけど、でも確かに月のものがないのよね。でも、不順なことは割とあったから、うーん。


「それとも、君が我慢できない??きょ、今日くらいはお腹の子も許してくれるかな??」


 が、我慢できます!というか、私はしたくないもの。プライド的には少し、いえ、無いわよ。私にはジオルがいるもの!


 それに、多分いないとは思うんだけど、子供がいたら許してはくれないでしょう。その子にとっては生死がかかってるんだから。


「いえ、我慢できます。お腹の子が大事です。」


「う、うん。そうだね……」 


 涙目にならないで下さい。


 私達は広いベッドに入った。私に腕枕をしながら、悪魔さんは昔話を始めた。


「うさぎに化けた君は本当に可愛かった。君は元々地母神だったから、あんな風に戸惑うなんて思っていなくて、あの仕草にやられてしまったよ。それなのに、元に戻った君はいつものように冷たくて。それなのに部下には優しくしていて。」


 悪魔さんは、話しながら、よしよしと私の頭を撫でる。優しくしないで。もう寝ましょう。


「私も優しくされたかった。君に愛されたかった。でも、部下になったらその他大勢の部下たちと君をシェアする事になる。そんなのは嫌だし。」


 ふう。話すのやめないわね。仕方がない。情報収集モードに切り替えよう。


「あの、ベルゼ様、私の名前を教えてくださいませんか?地母神だったのなら名前もありますよね?」


 地母神とか言ってるし、教えてくれないかなあ?と思って聞いてみる。


「君の名前はリンダ・アルフロードだよ。かわいい人」


「そうではなくて、地母神だった時の名前です。」


「ああ、まあ、そうだね。もう結婚してくれたし、教えてあげようか。女神だった君の名前はアスタルテだよ。悪魔になってからはアスタロトだね。ジュブ=ニグラスは君の別名だよ。スッキリしたかい?」

 

 おお!!聞いたことのある名前だわ!!早くネットで調べたい!!


「ええ!ありがとうございます。あの、ネットやゲームのお部屋はいついただけますか?どんな悪魔だと言われているのか知りたいですわ。」


「ふふ、しばらく待ってね。素敵な部屋をプレゼントするからね。」


「はい。お待ちしますわ。」


 すぐに貰えないのは残念だけど、ヘソを曲げられても困るので、素直に頷く。


「ああ、手に入れた。君が素直に従うなんて。君が私の与える物を喜ぶなんて……」


 感無量という感じで、独白するのは良いのだけれど、なんだか、なんだか、おかしい。


「あー!あー!」


 ひいい!!


 悪魔さんの周りから黒い炎のような物が立ち上る。炎は段々大きくなり、悪魔さんの全身を覆い隠したかと思うと、ライオンのような姿を取り始めた。黒い立髪のように炎が揺れる。目のようなもの、口のようなものが揺らぎながら浮かび上がる。


「あ、あの、あの、どうなさったの??何かお怒りですの?」


 喜んでたように見えたけど、何か地雷を踏んでたの?!


「怒る?怒ってなんているものか。愛しいリンダ。ああ、身体が熱いのだよ。ああ、そうだ。当たり前の事だ!初夜に君を抱かないなんて、あり得るわけがない!!」


 ガバッと飛び起きた私をガバッと組みふす悪魔さん。本当に怖いわ!初夜ならせめてイケメンの状態でお願いしたいんですけど!!


「ちょ、ベルゼ様は、落ち着いて!お腹の子供が!」


「私たちの子なら耐えてくれるよ!」


 ちょっと待って!!待っててば!!せめて人型に戻って!!喰われる!!喰われてる!!

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