42 レッツウエディング
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「こんなに急だなんて……」
今日は結婚の日だ。一応、結婚式なのかな?昨日ガラスの蕾に閉じ込められたまま眠らされ、出してもらえたのがその日の夕方だった。
そして、家に帰る事なく、城に連れて行かれた。私の部屋が用意されていて、さらに悪魔さんの部屋の中の私の部屋という謎のスペースも貰った。
そして、怒涛の如く、ドレスの試着やメイクの打ち合わせ、入浴とエステをさせられ、明日、つまり今日結婚することになった。
慌ただしく、司祭や神官がお城の中にある礼拝堂を飾り付け、お母様とお父様が呼びつけられた。
国王危篤。死ぬ前に皇太子の結婚と即位を望んでいると聞かされ、陛下の竹馬の友であるお父様は涙を流して受け入れた。
お母様は正直ついていけないのだろう。急いで屋敷に帰って支度をして、また、お城に来て、とりあえず花嫁衣装を着せられて待機中の私に冒頭のセリフを言っている。
「リンダの結婚式は、国をあげて祝うはずだったのに。もっと豪華なドレスで、素晴らしい宝石で、新調した馬車で、流行りの楽士を呼んで……ああ……」
「お母様、お声を落として。陛下がご危篤なのよ。」
私は恨み節を始めたお母様にハラハラしている。侍女もいるし、色んな人が部屋の前を通るし、とにかく誰が聞いているか分からない。特に王妃様が聞いたら良い気はしないはず。王妃様との嫁姑問題とかあまり考えてなかったけど、もう、明日から始まるのよね。ああ、どうしよう。不安になってきたわ。
「でも、リンダ。こんなのおかしいわ。今までお元気だった陛下が急に危篤だなんて。あなたが早く欲しくて、ベルゼ王子と陛下が芝居をされているのではないの?あの子は昔からそうなのよ。特に息子達には甘くて、息子の恋を叶えるために一芝居なんて喜んでやりそうだわ。」
はは。さすがお母様。お母様は王家の血を引く地方貴族の出身なんだけど、お母様のお母様、つまり私のお祖母様が陛下の乳母なのよ。お母様と陛下は兄弟みたいに育ったから、陛下は悪戯好きの弟という感覚が抜けない。
そして、事実、陛下は危篤になっていない。お母様大正解ね。私が陛下を危篤にするのを反対したので、そういうことになったのよ。多分、魔術で操られておられるから一緒になって一芝居と言われるとお気の毒だけど。
「リンダ、エメルダ用意ができたよ。こんな急拵えで不満だろうが、陛下の望みを叶えて差し上げよう。ああ、リンダ、式が終われば、お前は皇太子妃、そして明日の朝には王妃、我が家の誇りだよ。そして、生まれた時から私の宝だ。」
お父様……ごめんなさい。実は結婚だけで、即位は急に王が元気になって、しないらしいのよ。身軽な皇太子夫妻の身分で旅行したいとかで……
「ああ、仕方がないわ。行きましょう。」
お母様は渋々という感じで立ち上がる。
私も立ち上がってお父様の後に続く。
白いウエディングドレス。胸元が貝殻のような形のビスチェのAラインドレス。髪にティアラとマリアベール。これ、前世の日本のショーウィンドウに飾ってあるような物よね?
お母様には安っぽいと不評だった。お母様が最初に着ていたドレスの方が明らかに立派で、驚いて着替えていた。
礼拝堂に着くと、そこには今にも死にそうな芝居をしている陛下、隣に立つ王妃様、その隣にクリストファー伯爵、そして悪魔さんがいた。
悪魔さんタキシード着てる。普通、ここは王子の正装か軍服だと思うんだけど。ええっと、なんというか、これ、前世のジミ婚を参考にしてるの??
「リンダ。綺麗だよ。今回は前世君が着たがってたドレスを取り寄せたんだ。覚えている?」
悪魔さんが近づいてきて手を取って口付ける。
「いいえ、全く。」
女子トークでそんな事、言ったのかもしれないが、女子高生が予定もないのに真剣に選んでいるはずもなく、適当だったと思う。
「そうか。でも、凄く似合っているよ。こんな風に急いでしまってごめんね。そのうち、この世界の衣装で国をあげてのセレモニーをするから。そうだ、君の宮殿ができた時にしよう。」
「ああ、そうですか。」
早くて2年後だったかしら。正直セレモニーとかどうでも良いんだけれど、あ、お母様は喜んでくれるかしら?
「神前にお進みください。」
司祭に促されて私たちは神の像の前に歩いて手を繋いだまま跪く。神の像は当たり前だけど、最高神ベルゼアスなのよね。隣と前にベルゼアス。まあ、なんでも良いけれど。
「慈悲深き神ベルゼアスよ、偉大なるベルー国の皇太子ベルゼ王子とアディード家の長女リンダ公爵令嬢との婚姻の許しと祝福をお与えください。」
シャリーンシャリーンと鐘がなる。これは、司祭が魔法で鳴らすんだけど、鳴れば神の許しと祝福が与えられた事になる。司祭が術を失敗したら目も当てられないので鐘を鳴らすレベルの魔法が使えないと神官にはなれない。
「神が許しと祝福を下さいました。王家の光の中で誓いの口付けを。」
王家の光というのは王家に伝わる二つのペンダント、赤と青の宝石でできていて光にかざすと綺麗に光線が広がるのよね。その二つの光が合わさった紫色の光の中でキスをすると正式な王家の結婚になる。誓いの言葉はないのよね。有無を言わせないものを感じるわ。
「リンダ」
甘い声。甘い笑顔。
「ん……」
唇からほんの少し力を入れられた。腰が砕けてしまう。甘い甘いキス。甘い甘い力。
「君は私のもの。」
私はうっとりと頷いた。
「おお!神の奇跡だ。病が治ったぞ!!」
陛下が叫ぶ。
「おお!神の奇跡!!国王陛下万歳!!」
司祭が叫ぶ。
シラーっとした空気が流れ、お母様がため息をつき、お父様が驚いた後、決まりが悪そうにお母様を見つめていた。




