28 忠臣は行くよ、どこまでも
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もうすぐ婚約パーティーが開催される。リンダは用意のために毎日のように呼び出され、殆ど城で過ごしている。
皇太子と公爵令嬢の婚約パーティーは贅を尽くして行われるという。俺との時は子供だったこともあってか、そんなに派手でもなかったが……。
国中で盛り上がりたいのか、2人をモデルにした芝居が作られ、盛んにチケットが配られている。愚かで横暴な皇太子に捨てられた清らかな公爵令嬢が第2王子と出会い真実の愛に気付く、さらに実は聖女であった公爵令嬢と神の生まれ変わりであった第2王子が結ばれて世界を永遠の楽園へと導いたというストーリーだ。
現実には皇太子が愚かで横暴で、この世の誰よりも愛しい公爵令嬢を捨てたのは、その第2王子に毒やら魔術やらを頂いたせいなのだが……。
まあ、どうでも良い。そんな事より、俺はリンダの力を探さなければ。マデリーンの母から貰った薬を飲んで眠る。記憶を探るが、なかなか肝心な事が出てこない。出てくるのは知りたい事より、さらに昔の思い出ばかり。せめて名前が分かればと思うも、俺はリンダの名前を呼ばない。おい、とかお前とかバカとか言っている。昭和の親父か。
まあ、何というか、出会った当初から好きだったんだなということは分かった。
出会いはかなり幼い頃のようだ。俺は精霊として産まれた。不思議な色の花が咲く草原で、俺と同じようなチビ精霊が沢山いて、もう少し育った兄貴分のような精霊達も何人かいた。
そいつらは俺たちに、ここには時々悪魔や天使や力の強い精霊が、やってきて俺達をさらって使役すると教えてくれた。使役されると自由に遊べない。そんなの嫌だと、そういう奴らがきたら必死に身を隠していた。
でも、ある日、小さな女の子に捕まってしまった。女の子は不思議な髪の色をしていた。光のあたり具合で金にも茶色にも黒にも赤にも見える。青い瞳がとても綺麗だ。
女の子は花を摘もうとしただけなのか、俺を掴んでしまって、びっくりしたようにまじまじ見ていた。
俺はその視線に赤くなった。とても可愛かったからだ。綺麗な髪も白い肌も美しいが、桃色の唇が幼いのにうっとりするほど色っぽい。この子と一緒にいられるなら自由に遊べなくても良いなと思った。
俺は今からこの子に使役される。きっと使役するためには名前をくれたり、キスするに違いない。いや、使役の契約なんだから、もっと濃厚かもしれないと幼い割にマセガキだった俺は、期待と不安に心臓が早鐘を打っていた。
しかし、女の子は逡巡した後
「虫……青い、青虫」
と言ってポイっと俺を捨てて行ってしまった。
違う!青虫はこんな虫じゃない!!いや、俺は虫じゃない!!
「俺は精霊だ!!使役したらすごく役に立つぞ!!まて!待てってば!!」
俺は叫びながら追いかけて行った。追いかけて、女の子が止まったところで、取り敢えず、思いっきりキスをしたが、小さすぎてそのまま口に入ってしまい、泣きながらペッペッと吐き出された。
リンダの口の中、柔らかかったな。本当に初めから濃厚な体験だった。
「リンダ。」
城から帰ってきて、疲れている主君に話しかける。
「ジオル……お城って本当疲れるわ。もちろん相手が相手だからなんだけど、結婚したらずっとあの城に住むのよね……あいつの顔を見ながら……」
リンダは嫌そうにため息を吐く。悪いが嬉しい。リンダはあんな奴嫌いなのだ。
「あの悪魔は、ずっといるわけではないだろうがな。魔界でサタンに仕えているはずだから、多分、殆どの時間は影武者か、体に精霊でも入れて活動させているはずだ。だから、その間は俺と会える。」
見つめながら言うと、リンダはほんのり赤くなる。
「でも、あの、危なくない?ベルゼにバレたらどんな目に合わされるか。私の力が戻るまで大人しく王妃をしていた方が……」
な、何を言うんだ!あいつが手を出した次の日は俺がしっかり消毒してやる。あいつのした倍の回数だ!
「バレないように上手くやる。心配するな。それとも、身も心もあの男の好きにさせるのか?」
俺は、嫌そうに唇を噛んだリンダの唇に指を這わせる。そのまま口を開かせて舌を指で挟んだ。
「へふ?」
間抜けな顔になる主人にかなり多めに力を注ぐ。
「ん、んん!」
主人は目をとろりとさせ俺に縋りつく。小さな手が必死なのが愛しい。
「元々、お前は俺のものだ。あいつには地位も名誉もくれてやるが、お前はやらない。といっても、俺の力が足りなくて、あんな男の妻にさせるのは口惜しいが……」
リンダは俺に縋りつきながら、辛そうに荒い息を吐いている。少し、やりすぎた。
「ジ、ジオル、これ、や、やだ。」
「ん、悪い。少し、多かったな。吸い出してやる。」
俺は濃厚なキスをして、力をある程度吸い出す。リンダがピクピク痙攣して背徳感にくらくらする。誰が、誰がやるものか。俺のものなのに。俺がずっと側に居たのに。あの男が後から来てさらって行った。
今は愛人で我慢する。だが、いつか、いつか必ず取り返す。お前は滅び、最後にリンダを抱くのはこの俺だ。
「ジオル、貴方は私を支配するの?力のない私はもう主人ではないの?」
泣きそうな主の声に我にかえる。しまった。嫉妬が度を越して不安にさせてしまった。俺はぎゅっと抱きしめてから、リンダの手を額に押し当てて跪いた。
「そんな事はない。俺は永遠にお前の僕だ。何にでも誓い、どのような命令にも従おう。」
リンダが安心したように息をついて、俺も安心する。
そう、俺は忠実な部下として仕える。それがリンダに愛される道だ。支配などしたらベールゼブブより格下の俺に勝ち目はない。
それに、自信はある。リンダは俺を滅ぼすような命令はしない。俺はリンダに愛されている。部下としてかもしれないが。
「じゃ、じゃあ命じるわ。前に言っていたアルスのサロンに行って情報を集めなさい。アルスが何を考えているかも知りたいわ。情報を集めた後の貴方の推測で良いから。」
不安の残る声。試されている。
「御意のままに。」
俺はすぐさま魂を飛ばして体に戻り、用意を始めた。運良くサロンは今夜開かれる。わざわざ招待状も来ている。服もそれなりの物をリンダが用意してくれている。俺はリンダがつけてくれた侍女に頼んでアルスにサロンへの参加を伝えさせる。
色事だけで、主の愛は得られない。忠実で、頼れる男であることを示さなければ。
久しぶりに社交会用のすました服に袖を通す。髪にオイルを付けてセットする。金の髪、コーンフラワーと呼ばれた濃い青の目。整った顔。公爵家の後ろ盾。第3王子と同腹でサロンに出入りする身分。使えるものは全て使う。我が主の命を遂行するため。




