26 心まで解されそうで怖い
26
ちょっと整理しよう。まず、私の正体は未だ不明。
ジュブ=ニグラス説が出てるけど、ジオルが違うと言うし、私もしっくりこない。記憶のカケラの中で名前を呼ばれるのを待ってるんだけど、どうもあまり名前って呼ばないみたい。我が君とか、麗しき方とか閣下とかそんな感じなのよ。まあ、閣下と呼ばれる身分だった事は確かね。
でも、閣下の範囲は広いのよ。貴族は男爵も含めて全員閣下よ。軍人だと将軍から上。あんまり絞れないわ。うん、だから不明。多分貴族。
そして、味方は人外ではジオルとマデリーン。マデリーンのお母様もかな?人間はアディード家の人達は使用人も含めて信用しているわ。マデリーンのスミス家も協力してくれる友軍ね。
敵陣営はベールゼブブ。あと、アルス。この二人は国家権力を握っている。更に記憶喪失2名(マデリーンも含めると3名?)のこちらと違って十分な知識がある二人。更に魔力面では、力を無くした私とベールゼブブには全く敵わないらしいジオルとマデリーンのお母様。今のところそれ程、力を使えないマデリーン。
私が力の半分を取り戻したとしても……厳しいわね。初めの頃に比べて戦力がインフレしてきたと思ってたんだけど、まだまだ差があるわ。やっぱり、対等になるには私が全ての力を戻さなくちゃ。
あー、思いついた方法があまり嬉しくないわ。ベルゼにくっついて探る。出来るだけ密着……
「リンダ様、ベルゼ様からお手紙です。何でも間違って別邸に届けられたとか。」
「そうなの。えーっと、何なのかしらこれ。頭が痛くなってくる。」
私は婚約者様からの手紙をランに手紙を見せた。
「ベルゼ様は本当にリンダ様を愛しておられますわね。リンダ様、愛する方と結婚するより、愛される方との結婚の方が良いですわ。ベルゼ様が心配なさるジオル様のことなど、綺麗さっぱりお忘れになって……え?あ、あのリンダ様、申し訳ございません。差し出がましい事を申し上げました。お許しください。泣かないでくださいませ!」
あ、泣いてた?ランが慌ててハンカチで拭ってくれる。
「ごめんなさい。目にごみが入っただけよ。」
私は笑顔を作った。
「ああ、リンダ様、ホットミルクをお作りしますわ。落ち着いてくださいませ。ジオル様が忘れられないなら、もう少し時期を待って愛人になさいませ。王妃様に愛人が居るなど珍しい事ではありません。私、リンダ様のためなら何でもいたしますわ。」
ラン……
「ありがとう。大丈夫よ。手紙にすぐに来いと書いてあったわね。お城に行くわ。」
手紙が間違って届いたりしていた訳だから、待たせていることになる。まだ、加工が終わっていないネックレスを付けて行くのは苦痛だが、取り敢えず行こう。
ジオルが愛人かあ。ずっとジオルの妻になるって思ってたから変な感じ。でも、もうキスはしてるし、好きだって言われて、私も応えているし
「リンダ!!」
馬車を降りるなり抱きしめられた。
「ベルゼ様……こんな所まで?」
「ああ、リンダ。君に酷いものを渡してしまった。アルスに言われて後悔したんだ。あのペンダントを付けていたら太ってしまうんだね。私のエネルギーを使っていたら君のカロリーが減らない。食事の楽しみを奪う事にもなってしまう。ごめん。考えなしだった。今すぐ、はずしてあげるからね。本当にごめんね。」
加工要らなかったな。そこまで考えてなかったけど、確かに令嬢の立場としては怖い副作用ね。そういう問題じゃなかったけど、付けなくて良くなるならそれで良いわ。
「お詫びに何が出来るだろう?何か欲しいものはない?」
「あの、此処では……」
「え?!あ、ああ、す、すぐ私の部屋へいこう。」
顔が赤い。何か良からぬ方向で誤解されている……。私はピッタリくっついたエスコートをされながら、悪魔の部屋に連れていかれた。
「あ、あの、どんな事だろう。も、もしかして結婚まで待てないとか?それならもちろん喜んで今日、君を私の妻に……」
「いえ、あの、待てますわ。」
興奮しないでください。鼻息が荒いです。
「いや、私が結婚まで手を出さないなんて言ったから、恥ずかしくて言い出せなかったんだろう?心配ないから。私だってどれだけ君と一つになりたかったか!」
「あの、そうでは無くて、地球の文化が恋しくて、また、ゲームやインターネットや漫画や小説などが見たいのです。」
「え?そ、そんな健全なお願いなの?もっと、こう2人きりでないと言い出せない事じゃないの??」
「この世界には無いものですから人の居る前では言えなくて。」
悪魔さんは膝から崩れ落ちた。
「わ、分かった。用意するよ。あ、でも、広告を抜くのは難しいから、そこはごめんね。」
何故、広告?
「ええ。それは構いませんわ。」
やったわ!これでネットや漫画が読める生活になるわ。心の中でバンザイをしているとぎゅっと抱きつかれた。
「ああ、興奮してしまって、落とされたからなんだか疲れたよ。このまま寝るから。」
「あの、お着替えになりませんの?私もドレスですし……」
すると悪魔さんは手を大きく上げた。
「きゃ!」
ドレスが消える。私は一瞬全裸になり、すぐに上質なネグリジェが現れた。悪魔さんも寝巻きに変わっている。
「これで良い?」
力の抜けた顔をしてるけど、いきなり服を剥がないで!!
「良くないです!!着替えは自分で出来ますから!!」
「君はすぐ怒るんだから。ほら、フィアンセと寝巻き姿でベッドに入るのにドキドキしないの?」
「しません!!もう、どうしてこう常識がないんですか!?」
「常識的な寝巻きにしたよ。本当はもっと私好みのセクシーなのにしたかったのを、ちゃんと我慢したのに……」
「う、そ、それはありがとうございます。」
何を着せられるのか考えるだけで怖い。普通に考えればセクシー下着や透けたネグリジェなんだろうけど、この男の趣味は斜め上を行くので、うさぎとかクマの着ぐるみとか、自分の皮を集めて作った服とか奇怪な物を出してくるかもしれない。
「はい、ここに来て。」
私は促されるままベッドに乗り上げた。悪魔さんは私の胸に顔をズボッと埋める。
「良い匂い。君の肌の匂いは昔から好きだよ。ああ、そうだ、馴れ初めなんだけどね。うっかり君が怒るエピソードばかり思い出して、本当の2人の馴れ初めがその前にあったのに勘違いしていたんだ。聞きたい?」
胸の間に顔を突っ込んだまま喋るのはやめて欲しいが、内容はすごく聞きたい。
「はい!お聞かせ下さいませ。」
悪魔さんは満足そうに、胸から顔を上げてキスしてきた。何度も唇をくっ付けたり離したりする。良いから早く話して!!
「あの時、私たちは天使たちを調べて情報収集する仕事をサタンから命じられたんだ。元々、下の者がしていたんだけど、天界側のガードが硬くなって情報が入ってこなくなったから、私たちのような上位の者に命令が下った。私たちは小動物に化けて、たくさんの天使から情報を得る事に成功したが、うさぎになって上位天使の周りで情報収集していると怪しまれてしまった。それで……」
何故か、そこで少し言い淀む。良く見ると感極まったように瞳を潤ませていた。
「そ、それで?」
「それで、2人で誤魔化したんだ。交尾をしているフリをして……」
「こ!」
「あの時、君に初めて触れた。うさぎに化けているとはいえ君は君だ。戸惑う君から立ち登る甘い香りに今までどうして君を愛していなかったのか不思議だったよ。
それまで、どちらかと言うとライバルのような気持ちでいたから、君の魅力に気づかなかったんだね。
私は、その時、君の香りに包まれながら、フリとはいえ交わるのだからと君をたっぷりマッサージした。こんな風にほぐしてあげると君は甘い、甘い声を……」
「そ、そう言うところは飛ばして下さい!心臓が持ちません!それに触っちゃダメです!!」
「恥ずかしがって……可愛い。」
「も、もう。」
「ふふ。と言うのが本当の馴れ初めだよ。天使の目を誤魔化すためとはいえ、私たちの甘い関係は合意の上から始まっていたんだよ。こんな風に……」
くう!このままやられっぱなしになるものか!!この密着を利用して私の力を探るのよ!!
精神を温もりの方へ飛ばす。更に奥へ奥へ思考を飛ばす。私の力を取り返すため……冷静に、冷静に!!
って!!ああ!もう!!触るな!!集中できない!!
「ほらじっとして。ああ、目が潤んできたね。これからは力を入れなくても、うんと気持ちよくなるように、君の体の疲れも心の疲れも取れるマッサージをしてあげる。ただのマッサージだからね。結ばれるのは結婚してからの約束だからね。もちろん麗しの婚約者への愛が、ぎっしり詰まったマッサージではあるけれど。」
マッサージ、それは密着して、私の力を探るチャンス。でも、軽やかに動く指は私のこりを解してくれる。実際、多少胸に触られるとはいえ、それは確かにマッサージだった。
でも、……ぐぐぐ、心頭滅却!!うう、や、やめて……悪魔さん、ほぐれて気持ちいいけど、こんなに触られるの恥ずかしい。やめて、むずむずするの。全然集中できないよう……
「ねえ?気持ち良い?」
うん、気持ちいい……
「あれ?寝ちゃったの??この趣向は気に入ってくれたのかな?次は可愛い衣装も用意するからね。そうだな。思い出のうさぎちゃんのドレスはどうかな?耳や尻尾もつけて。きっと可愛いよ。」
ご、ご遠慮します。あ、意識が……




