婚約者になろう!
21
「リンダ!リンダ!」
外に出ると悪魔さんが抱きついてきた。
「動物のミイラを見て気分が悪くなったんだって?大丈夫かい?」
「え、ええ、少し休ませていただきましたので。」
そういうと悪魔さんは黒い目をキラキラさせて頬づりしてきた。
「そうか!良かった!大切な話があるんだ。マデリーン嬢、御母堂。済まないがこれで失礼させてもらう。」
さすが、人の力を奪っておいて求愛してくるだけはある強引さだ。私の都合なんて聞きもしない。
私はがっちりホールドされながら馬車に揺られる羽目になった。あーなんだか要件も分かってきたわ。きっとお父様が、とうとうかわし切れなくなったのね……。
少し前までなら、ときめいたかもしれない婚約の申し込み。戻った記憶のせいで、全く嬉しくない。
どうしようかと考えているうちに、馬車は湖に到着した。湖には橋がかかり、真ん中に作られた小島まで行けるようになっている。今は夕陽がさし、ロマンチックで砂を吐きそうな雰囲気だ。
私は丁寧にエスコートされて小島に連れて行かれた。小島の真ん中で悪魔さんは微笑み、おもむろに跪いて私の手を取る。
「愛しい人。君の父君がやっと許してくださった。どうか私と婚約して欲しい。必ず幸せにすると誓う。」
チーン。来たわ。ド直球で来たわ。お父様の許可が出た以上、受けるしかない。受けないと屋敷が燃えそうで怖い。
でも、こんな貧乏くじをただで引くのはもったいない。せめて何か情報だけでも。今一番気になっている私の正体くらい分かっても良いでしょう?
「ベルゼ様、あの、あの、私は不安なのです。貴方はベールゼブブ様、ベルゼアス様、この星の神で、地球では魔王様なのでしょう?それなのに、私はただの人間です。貴方と釣り合うとは思えません。それに悪魔と結婚した人間とはどんな扱いを受けるのですか?」
悪魔さんは目を見開いた。
「ああ、そんな事で君を不安にさせていたんだね。安心して。君の扱いは、王妃として君が想像できる幸せな生活だよ。怖いことなど何も起こらない。今生で君を魔界に連れて行こうとは思っていないんだ。この世界で、うんと大切にしよう。嫌なことや、して欲しいことをたくさん教えて。できる限り努力するよ。」
優しい瞳。でも、少し焦燥や苛立ちも混じっている。怖い。でも、私の正体を聞き出したい。
「ありがとうございます。でも、やはり、私では釣り合いませんわ。どうして見染められたかは分かりませんが、私はただの人間なのでしょう?」
悪魔さんは手を離して、私の頬を包み込んだ。
「人間は地球の神の似姿だよ。地球の悪魔と人間で釣り合わないなんて事は全くないよ。」
かわされた!!私が何者か教えて欲しいのに!!
「そうか。言葉にするのが恥ずかしいのだね。では誓いのキスにしよう。」
おいー!!!避ける間も無くキスされる。しかも、そこから力が流れ込んできた!!
「う!!」
微量とはいえ、魔王の力。ジオルがくれた時以上に愛しさが胸いっぱいに溢れる。ダメだと思うのに運命に逆らえない。
熱っぽく潤んだ目で悪魔は囁く。
「結婚しておくれ。私と婚約しておくれ。愛しいリンダ・アディード。」
「は、い……」
私の口は勝手に愛を誓い、腕は悪魔に縋りついた。何度も何度も口付けを交わす。苦しいほどの想い。涙がボロボロ溢れる。
「少し、強すぎたか?苦しい?」
私は頷く。
「ごめん。でも、ねえ、分かるかい。私はいつもそんな風に君に焦がれている。君に拒絶されるのが苦しくて仕方がない。記憶がない君には理解できない事だけど、少し聞いて。私は、こんな風に心を君の奴隷にしない方法も知っていたんだよ。でも、それをしなかったのは君を傷つけたくなかったのと、君への愛の証に心を捧げようと思ったんだ。私の心は永遠に君のもの。人間だからとか身分とか力とか、何かが釣り合わないなんて、ましていつか捨てられるかなんて不安に思う必要はないんだ。」
「ベルゼ様、苦しい……」
「ああ、ごめんね。今、吸い出してあげる。」
何度目かの口付けで、力を回収され、やっと私は焼けるような渇望から解放された。
「また、君を苦しめてしまったね。以前にも失敗したからその時より少なめにしたんだけれど。ん?眠くなったかな?それなら少しお休み。今日は城に泊まっておくれ。君を抱きしめて眠りたい。」
はいはい。もう勝手にしてください。とにかく疲れてしまった。
私はたった今、婚約者になった悪魔に抱かれ夢の中に落ちていった。
ブックマーク9名様に!!ありがとうございます。すごく嬉しいです。




