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19 思い出すのも命懸け

19

 今日はマデリーンのお母様のお家にお邪魔する日。馬車に揺られて街へ向かう。


 マデリーンは魔女の薬で、私の封じられた記憶を取り戻してくれるという。もちろん、すぐに戻るわけではないみたいだけど、薬を飲んで状態を見て、気長に治療すれば良いみたい。あと、夢で神様のところに行かないようにもしてくれるとか。


「魔女の薬……」


 怪しさ満点。そんなもの飲んで大丈夫なのだろうか?でも、記憶が戻るという事にすごく惹かれる。


 知りたいのは悪魔さんとの馴れ初め。私はあれだけ愛されて大事にされても彼を長年受け入れなかった。悪魔さんに聞いたら、話すなら保険に魂の契約をして欲しいとまで言われた。


 何があったのか。それを知らずに結婚してしまって大丈夫なのか?


 今までお父様に引き伸ばしてもらっていたがそろそろ限界だ。もうすぐ正式に婚約する事になるわ。そこから二年くらいは準備だの何だのと言えても、王家がいつでもOKと言っているのに、5年も10年も引き伸ばせるわけがない。


 つまり、数年後には悪魔と結婚してしまう。


 マデリーンは私の心が固まれば、私と二人で事故に遭って、魔法が爆発して魂までロストしたという状態を偽装するという。そうしてマデリーンのお母様の知り合いの所に逃げ込むことができるらしい。そして、マデリーンのお父様の遠縁として伯爵家にお世話になって良いらしい。


 そこまでマデリーンのお家にご迷惑はかけられないから記憶が戻っても、このまま悪魔さんと結婚するような気はしている。でも、やっぱり何も知らないままは嫌だ。


「大丈夫。マデリーンの薬で死ぬならそれはそれで前にジオルが言ってた違う人に殺されたら悪魔と縁が切れる説の検証にもなるし。」


 それは大丈夫なのか?とも思うけれど、人生思い切りが大切だ。そんな事を思っているうちに馬車は町外れのマデリーンの実家に到着した。


「ようこそ。リンダ様。」


 マデリーンに迎えられ馬車を降りる。そばには黒いドレスの麗しい貴婦人がいる。これがマデリーンのお母様。


「御目文字叶い光栄に存じます。マデリーンの母、マイノーグラでございます。」


「こちらこそ、お会いできて光栄ですわ。今日はよろしくお願い致します。」


 マデリーンのお母様は美人だわ。 

 マデリーンとはあまり似ていないけど。マデリーンは光のような金髪で空色の瞳。お母様は茶色の髪と濃い青の瞳。マデリーンはお父様似なのかも。


 それにしても艶かしい。魔女って言えば、お婆さんか美女のイメージだけど、まさに後者。色気が全身を包んでいて、普通に見ているだけなんだろうけど、見つめられる瞳が熱い。火傷してしまいそう。彼女の魅力に当てられたスミス伯爵の気持ちが分かるわ。私もそういう意味で好かれていると勘違いしそう。


「ええ、もちろんですわ。すぐに全てをとはいきませんけれど、今日にも少しは思い出していただけると思います。さあ、中に入りましょう。マデリーンか作ったお薬を飲んで状態を見なくては。」


 私は中に通された。お家はお屋敷と言って良いほど広く、玄関からかなり歩いた先の部屋に通される。そこは診療室なのか、ベッドがあり、椅子と机があり、手入れの良い庭が見えて綺麗な調度品も置かれていたが、さっと仕切りのカーテンを引いた先にはthe!!魔女!!的な鉄製の釜、よく分からない草や動物を干したもの、古めかしい本が置かれているスペースがあった。


「さあ、釜で香草を炊きましょう。良い香りでリラックスして。」


 促された椅子に腰掛けると、マデリーンとお母様は鍋に草を入れてかき回す。甘い匂いが立ち登る。


「うっ!」


付いてきていたランが苦しそうにうめいた。


「ラン?」


「リンダ様、もうしわけございません。少し気分が。」


「まあ、大変。マデリーン、侍女の方を介抱してあげて。私は手を離せないわ。」


「え?は、はい。」


「お隣のお部屋で休ませて差し上げて。ちゃんと診療するのよ。リンダ様の治療は母に任せなさい。」


「え?」


「貴方はまだ見習いでしょう?私なしで公爵令嬢様の治療を任せるわけには行かないわ。一度で済む治療ではないのだから、今回は母に任せなさい。」


「は、はい。分かりました。」


マデリーンがランを連れて出て行った。私は甘い香りにうまく思考が働かない。


「さあ、マデリーンの作った薬ですわ。お飲みください。必ずや貴方の記憶を戻して差し上げますわ。」


「あ、はい。ありがとう。」


 私は薬を受け取る。シードルの味が勝っていてそれほど不味くはない。金色のキラキラしたものが綺麗だ。少し飲んだ後、一気飲みする。マデリーンのお母様が頭を撫でてくれる。


「はい。良く飲めました。ベッドに参りましょう。」


 私は診療用のベッドに寝かされる。お母様は私の額に手を置いた。


「偉大なる時間の流れを遡り、悪魔に封じられし記憶を解放せん。有らざるもの名にかけて偉大なる精霊よ、我が力となれ。」


 あ、呪文?薬で治るとかでは無くて術も使うの?それにしても有らざるものって何だろう?


「リンダ様に付き纏う悪魔はあまりに偉大な魔王。薬だけでは敵いますまい。そして私の力だけでは自信がありませんの。もう少し力を貸してくれるものを集めたいのですわ。」


 ザーッと風が吹いた。


「ああ、大物が来ましたわ。協力してくれるのね。」


「有らざるものの呼びかけに答え、御方の記憶を起こす助けにならん。」


「ジ、ジオル!!」


 眠気が飛ぶ。来たのはどう見てもジオルの姿の精霊。


「ああ、リンダ。我は解放された。これよりは君に仕えん。」


 な、なぜそんな言葉遣いなの?しかも、解放されたって


「あ、あの、もしかしてジオルは……」


「ああ、生きた人間だったのかしら。それならこの呼びかけに応えて死んでしまったのね。」


 え?ええ!!


「そ、そんな、人が死ぬような儀式なの!そんなの嫌だわ!!ジオルを元に戻して!!」


「リンダ……リンダ、俺はやっと解放されたんだ。やっと心のままに、操られることもなく君と居られる。さあ、記憶を辿る手助けをさせてくれ。」


「そんな……」


「リンダ様、幸せは人それぞれ。今の術は人を殺すものでは有りませんわ。この方は多分もともと精霊。人型に押し込められて辛い思いをされていたのだと思いますわ。」


え?ええ!!そうなの?!


「そうだ。俺は精霊だった。まだ、記憶が曖昧だが、俺はずっと悪魔からお前を守りたかった。」


 そ、そうなの?!


「さあ、リンダ様、参りましょう。記憶の世界へ。私と精霊とあの薬酒が封印を解くお手伝いをしますわ。」

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